コンビニ店員と夜勤のお話

 むかしむかしあるところにバイトを始めて一ヶ月のコンビニ店員がいました。

 コンビニ店員は大学を卒業してから定職に就かず、アルバイトを転々とする生活をしていました。

 「また夜勤かぁ、しかもワンオペ。いつでもいいとは言ったけどさぁ。」

 コンビニ店員はシフト表を見て落ち込みます。

 「新人、お疲れ。じゃあ、後は任せたぞー。」

 そう言って先輩店員は帰ってしまいます。

 コンビニ店員は制服に身を包むと仕事を始めました。

 しばらくして、独り寂しく呟きます。

 「はぁ、就職に失敗して何やってんだろ。人間関係は悪くなんだけど、やっぱりコンビニ店員も俺の適職じゃないよなぁ。もう、このバイトも辞めようかな。」

 コンビニ店員はそんな風に愚痴を言いつつ、品出し、仕込み、補充を済ませます。

 「よし、朝までにやっとかなきゃいけないこと終了。あぁ、疲れた。」

 後は交代が来るまでレジでボーっと待つことにしました。


 時計の針がゆっくり動く様子を見ていたコンビニ店員は「あの、あのー。」という声が下の方から聞こえてくるのに気が付きます。

 下の方にはコンビニ店員より頭2つ分くらい低い背のお客さんがいました。

 「はい、お会計ですか?」

 コンビニ店員は要件を尋ねます。

 「いいえ、会計はまだなんですが。高い所にある商品に手が届かなくて、取ってもらえませんか?」

 了承したコンビニ店員はお客さんに誘導されるがままについていきます。

 「あ、あれです。」というお客さんに従って、コンビニ店員は商品を取り確認します。

 お客さんが「それです、ありがとうございます。」とお礼を言うと、コンビニ店員は商品を持ったままレジへと向かいました。

 お客さんが他に持っていた商品と合わせて会計をします。

 会計を待つ間、お客さんが何気なく口にします。

 「そんなに背が高かったら、きっとどこにだって手が届きますね。」

 コンビニ店員はいうほど背が高いわけではありません。背が高いことがコンビニ店員として大して有利なわけでもありません。

 それでも、コンビニ店員は自分の身長を褒められたことに多少の優越感を感じました。

 支払いを済ませたお客さんは商品を持って帰っていきます。

 「あっ、ありがとうございましたー。」

 開く自動扉に気づいて、コンビニ店員は言い忘れていた定型文の挨拶をして会釈をしました。

 「もうちょっとだけ続けてみるか。」

 帰るお客さんを見送るとコンビニ店員は伸びをして少し背筋を正しましたとさ。

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眠れない夜にあくびの出るようなお話を 小餡 @ikoan_20190518

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