三
その昔語りを聞かされた私は混乱した。
国を出るにあたっては様々な困難があったということだったが多くを語らず、
私は、この
だとするならば、これは宿命なのか。
血に導かれて
口下手で愛想がなく引っ込み思案なので
しかし、よく気が付く方でいつ見ても立ち働いており、下働きの者たちにも親身に振る舞い、自分の妹たちをみるついでに飯炊き男の幼い娘の面倒まで一緒にしてやるような大らかなところがあって好ましかった。
何より愛想がないなどとは真っ赤な嘘で、子供たちをみる眼差しの優しさ、山間の早い夕暮れを見上げる
この娘は無愛想なのではなく、少しばかり怖がりなのだ、と思う。怯えが取れた後はこんなにも親しく笑い、話し、居候の私に心を砕いてくれる。
泊めてもらった最初の晩から、私はこの
特に夜は、二人きりで話を聞くことが多くなる。揺らぐ灯りのもとで針を使う狭穂の指先が私は好きだった。慣れた様子で絶え間なくよく動き、柔らかそうで、そして実際にとても柔らかく温かかった。
手を握り、身体を寄せ合う仲になるには時間は掛からず、やがて狭穂はより率直な言葉を聞かせてくれるようになった。
「こんなこと、内緒にしてくださいませね。私、お
「どうして? 皆、女王に憧れているみたいだけど」
「子供たちはそうですね。綺麗に着飾って宮廷に住んで、たくさんの人に
それに、お
私は嫌。私、死ぬのが怖い。早く十七になりたいと思います」
我々の国なら。
そう、だから
それからも狭穂は繰り返し、死ぬのが怖い、お
そうして何日目かに、狭穂は初めて、助けて、と言った。それからはっとして涙を拭く。ごめんなさい、という小さな声が聞こえた時、私の心はもう決まっていた。
「狭穂。私と一緒に来てくれないか。
私は実は、
狭穂の母である
狭穂はすぐに頷いてくれた。言葉はほとんどなかったが、ほろほろと涙を流し、私の利き手を取って自分の胸の真ん中に優しく押し当てた。それが将来を約束し合った男女にだけ許される仕草であることは何日も前にお茶の席で聞いたばかりだったから、私はすっかり嬉しくなり、自分も同じようにして狭穂と笑い合った。
商談でよそに泊まっている家長の
しかし、事態は急変した。
翌日の昼前、突如として女王がお
私はそれでもまだ、たかをくくっていた。こうした神事に参加させられるのは通常、未婚の娘だけだろうと思ったからだ。私の育った
昼食の後、集落の古老を囲んだ集まりでこれまでのお
そこからが最悪だった。
神事の具体的な内容。
直後、
私は慌てた。
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