闇の世界のお話

「へえ、意外と明るいオフィスですね。」

「そうだろ、表にはベンチャー企業ってことにしてあるからな。一応法人税も納めてる。」

 殺し屋のものとは思えない、綺麗なオフィスにため息を漏らした。

「改めて紹介する。ここは、恨みや復讐のために、人を殺る会社だ。」

「無差別には殺さないんですね。」

「一応慈善団体だ。さっき殺した男は、結婚詐欺師ってやつだ。しかも三股。取り戻したお金の3割をもらった。」

「どのくらいなんですか?」

「んー、ざっと300万円。」

「おおお、それは儲かりますね。」

「いやいや、人殺してんだぞ!…」

「いや、そんな輩は死ぬべきですよ。」

「やるな…お前。俺が見込んだ男だぜ!」

「でも、あんなチンピラ殺して300万円ですか?もらえすぎですよね…」


「いいところに目をつけてるな。もらえる金は、仕事によって違う。だから、一回会社に預けてそのランクに応じてもらう。」

「ランク?」

「あ〜、説明して無かったな。ランクは2種類ある。まず敵のランクだ。S、A、B、Cの4段階だ。Sは国家レベルの政治家とかそこら辺だ。これに取り組むには、チームでいかないとまずい。ハッキング班や護衛を破る接戦班。他にも狙撃班なんかもいる。ちなみに俺は接戦班だ。」

「ほお、今のチンピラはCランクっぽかったですね。」

「ああ、うちは全部の仕事を受ける。だから、なけなしの金で復讐を頼む人なんかは、正直金が少ない。そう言った仕事も受けることができるようにランクは必要だ。」

「なるほど…、もう一つのランクは何ですか?」

「殺し屋…つまり俺たちのランクだ。これはS、A〜Eの6種類だ。」

「ちなみにあなたは手慣れてましたが…。」

「俺は微妙なんだが、Aのリーダーだ。ある意味Sより仕事はしてる。今日だけで2人殺してるからな。」

「僕に…素質はありますか?…あなたを超える素質は…」

「入って早々いい度胸じゃねーか、」


 部屋に3分間の沈黙が流れた。永遠のような3分の戦慄が。


「Aランクのリーダー」

おもむろに、口を開いた。

「俺を超える素質はある。でもSにはなれない。一番になりたいならここに来るのはやめな。」

 名前を知らないその男。サングラス越しにも目の震えがわかった。

「そんなの、わかりません!とにかく、とにかく…今はここに入りたい気分です。」

「お前は強いな。よし、入会を認める。ただし、家族はすてな。」

「えっと……一通だけ手紙を送ってもいいですか?」

「好きにしな。ただ、ここのことは喋るな。お前に狙撃手を尾行させる。その意味は、わかるな。」

 根は優しそうな男といえ、殺し屋の眼光と口調には殺意がこもっている。

「はい。」

「よし!いい覚悟だ。改めてよろしく、来栖!出てこい!」

「はああああ、はああああ、ずっとダンボールに隠れてました〜くるっすーでーす。」

「…は?」

「未知との遭遇だな。こいつは来栖。ここでは名前は使わないのが普通だが、こいつは名乗ってしまった…。」

「てっへええ!!!」

「あなた、お言葉ですが殺しはできるんですか?」

「うん、できるよ〜、お前殺そっか?」

「っ!…やめてください。」

「びびりー」

「見た目は可愛い女の人なのに残念です!」

「もう!可愛いだなんて〜。」

「ちなみにこいつもAランクの強者だ。銃撃のセンスはピカイチだ。」

「怖い限りです…」

「うーん、みたとこ君センスがあるね。足音がしない。」

「おお!お前も分かったか。こいつの影の薄さは最高だ。忍者だぜ、全く。」

「影うすで悪かったですね…」

「Aランクには2年くらいでなれるよ〜、まだわかんないけど。」

「2年ですか…」

「ええ!褒めてるのに!私なんて5年かかったんだから!ここのグラサンは10年!」

「うっせぇ…10年で悪かったな…。」

「ちなみに、お名前はなんていうんですか?」

「くるっす〜だよ!!!」

「いや、あなたじゃなくて。」

「殺し屋は…名乗らない…。」

「センスないくせに!ちなみに、クロって呼ばれてるね。このグラサン。」

「もうやめてくれ…俺の方が立場上だぞ」

「じゃあ、君もペンネームきめよっか?」

「うーん、僕は佐藤でいいかな?」

「砂糖?さとうか…、いいね!!!シュガーにしちゃえ!」

「ああ、シュガー…。いいですね!!決めました!シュガーで。」

「あいよ。登録しときますよ。じゃあ、手紙を来栖と出してこい。」

「本当にありがとうございます。最後に、僕はSランクを目指しますんで!」

 自分が努力できるように、意気込みの様にして言った。

「はあ、名簿みるか?」

「名簿とかあるんですか?」

「ああ、明日見せようと思ったが、もう見せるわ。」

「なんでそんなものが?」

「味方殺さないようにだよ。」

「ああ、そういうことですか。」

「全員の顔とペンネーム。99人。覚えてもらうぞ!」

「勉強は最近頑張っているので、覚えるのは得意です。」

 もらった名簿をペラペラとめくる。殺し屋の顔は覚えやすくて、みんな恨みなんかを目に抱えていた。クロさんは写真もサングラスだった。来栖さんに負けない美女も結構いて、にやけてしまう。

「あ〜、シュガーがにやけてる。私が可愛いから??」

「ええ、それもあります。」

「ヤダァ!もう!」

「Aランクばかりですね。」

「ああ、最近は殺しが増えてな。だから新参者以外はみんなもうAだ。」

「この最後の3ページ…黄色い付箋のページがSランクの方ですね。」

「ああ、Sはたった3人だけだ。」

ぺらり。

「子供じゃないですか⁉︎」

「ああ、そいつは俺の子供だ。」

「ええ!!」

「…」

 来栖さんが黙ったということは、何か事情があるんだろう。

「そいつは人じゃない。俺の妻はそいつに殺された。」

「包丁ですか…銃ですか…」

「トイレ用洗剤と酢だ。」

「…。混ぜるな危険ですか…。」

「ああ、しかも泡吹いたのみて笑ってた。今あいつは、化学物質の開発に成功した。たった8歳で。」

「?」

「水の構造をいじって、酸素と急激に結びつく物質を作った。しかも殺した後は水しか残らない。」

「…」

「でも、こいつの作った薬品で内戦を一個収束させた。10000人を殺してな。」

「強い…ですね。」

「ああ、金をやったら殺しをやめるかと思ったら、新薬開発中だ。もちろん毒薬。」

「この子が特殊すぎるだけです。」

ぺらり。

「おお、…お爺さんですね。」

「見た目はな」

「名前はAG。銀の元素記号から取ったらしい。銀の弾丸しか使わないことからこの名前をとった。」

「えーじー爺さんには勝てないよ。私一回手合わせしたけど、」

「何!!??。よく生きてたな。」

「いや、たまたま会ったから、声かけたら、撃ってこいって。全部かわされたけど。」

「銃をかわすお爺さんですか…。化け物ですね。」

「こんなの人間だ。」

「?」

 わけもわからずページをめくった。

(!!!…)

 言葉が出なかった。人間…じゃない…。眼球は真っ黒で、耳は尖っていて、口は裂けていて、牙が尖っていて、まるで…

「コウモリ。」

 クロさんが呟いた。

「あいつは、壁越しでも人を識別できる。昼夜問わず。その上、武器がなくても人を殺せる。筋肉の音で、相手が何をするのか先読みできる。さらに、最近は毒が吐けるようになったらしい。」

「そんな…そんなの人間じゃない。」

「ああ、あいつは人造人間…と言ったら言い過ぎだが、遺伝子組換え人間だ。」

「そんなことが実際に…」

「ああ、みんながAまでしかなれないのはそういうことだ。才能や特殊な境遇がなければ超えられない壁はある。」

「…」

 希望を打ち砕かれたような気がした。でも、そんなの関係ない。

「上等じゃねえか…」

 口が勝手にそう言っていた。

「んじゃ、手紙出しに行こう」


 青年は手紙でお別れを告げた。

 家族に、そしてつまらない日常とも。

 明日から人を殺さねばならない。そんな過激な日々を、送っていく姿を見ていて欲しい。知らない誰かに。そして俺がいちばんの殺し屋になるんだ!

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冴えない僕が殺し屋をやったら活躍しすぎて困ってます @poketan

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