第10話 そして全て明らかになる

「ちょっと2人とも、今日はどうしたの?ぼーっとして」


 呆れたような口調で店長に俺と柳瀬さんは注意をされた。


 幼馴染に褒められた日のバイトの時間、俺は幼馴染の『好き』といわれた時のことがずっと頭から離れず、集中できずにいた。

 そして何故か柳瀬さんも俺と同じようにバイトに集中出来ていないらしく、俺たち2人はミスを連発していた。


「す、すみません」


「はぁ、仕方ないわね。今日は帰りなさい。幸い今日は人が少ないから2人がいなくても平気だから」


「ほんとうにすみません。じゃ、じゃあお言葉に甘えて先に失礼します」


「私もすみません。ありがとうございます。失礼します……」


 店にこれ以上迷惑を迷惑をかけるわけにもいかないので、俺たちは先にバイトをあがらせてもらった。


 更衣室で着替えを終えて出ると、柳瀬さんが待っていた。


「一ノ瀬さん聞いてください!今日いいことがあったんです!」


 キラキラと目を輝かせて満面の笑みで話しかけてくる。

 おそらくよほどいいことがあったのだろう。そのせいでバイトが集中できなかったのだと察した。


「実は、今日、プリントが重くて困ってたら幼馴染が助けに来てくれたんです。誰も手伝おうとしてくれなかったのに幼馴染だけが助けてくれたんです!」


 嬉しそうに蕩ける笑顔で語ってくる柳瀬さん。その表情はまさに恋する乙女といった感じでとても幸せそうでいいのだが……ちょっと待ってほしい。プリント運びを助けてもらったって言わなかったか?……ん?え?


「どうしようか途方に暮れていたところに現れてまるでヒーローみたいでドキドキしちゃいました。助けてくれたことが嬉しくて嬉しくて舞い上がってしまって……ああ、もう本当に優しいなー、好きだなーって気持ちがぶわぁって湧き上がってきて、我慢できなくなっちゃいまして」


 にへら、と口元を緩めてはにかむその姿から、幼馴染のことが大好きなことがひしひしと伝わってくる。うん、それはいいことだと思う。だけど今はそれどころではない。え?え?


「でも、一ノ瀬さんに言われたので、褒めることだけにしようと思ったんですよ。助けてくれたからって気があるかは分ならないし、気がない可能性もありますし。それでも……やっぱり助けてもらえたら期待しちゃうじゃないですか?」


「あ、うん」


 とりあえず混乱する頭をよそに、相槌だけはしっかりと打っておく。うん、一応最後まで話は聞いてみよう。勘違いかもしれないし。


「それで、その幼馴染に私のこと意識して欲しくなっちゃって、恥ずかしかったんですけど頑張って『優しいところ好き』って言っちゃいました」


 えへへ、と恥ずかしそうに頰を赤らめてはにかむ柳瀬さん。ってえー!?え?!え?!え?!そういうこと!?もちろん、その台詞は今日学校で俺の好きな柳瀬さんから言われましたよ?え、つまり……今目の前にいる柳瀬さんは……俺の好きな柳瀬さん……ってこと?は?え?


 もはやどうしたらいいのか分からない。頭の中は真っ白だ。とりあえずなんとか冷静になりながら頭の中を整理していく。


 今話している柳瀬さんが俺の好きな柳瀬さんで、その柳瀬さんの好きな人が幼馴染……って俺!?ふぁ!!??


 え、じゃあ両想いってこと!?俺と柳瀬さんが?え、そういうことなの?!まじか。いや、嬉しいけど、突然すぎて現実感がないというか……。


 冷静に考えれば確かに俺と柳瀬さんが両想いということになるが、なんというか状況が特殊すぎて頭がついていかない。ま、まあ、悪いことではないし、いいとしよう。


 ふぅ、と一息吐いて頭の中を整理していると、柳瀬さんが口を開いた。


「それで、相談なんですけど……その幼馴染に少しは意識してもらえたと思いますか?」


 少しだけ不安げに眉をヘニャリと下げて尋ねてくる。いやいやいやいや、少しどころかめちゃくちゃ意識しましたよ?もう、嬉しさであの後どれだけ一人でにやにやしたことか。


 色々言いたいことはあるけれど、とりあえずは今のこの状況の誤解を解かないといけない。流石にこれ以上好きな人の本音を聞くのは俺が耐えられん。というわけで、柳瀬さんに気付いてもらえるように話しかけた。


「実はさ、俺も柳瀬さんと同じようなこと言われたんだよね」


「そうなんですか!?」


「うん、俺の好きな人って、幼馴染の柳瀬さんなんだけど、学校でプリント運びで困ってるのを助けたら『優しいところ好き』って言われたんだよね」


 緊張とドキドキで声が震えそうになるのを抑えながら、出来るだけ冷静に伝える。ここまで言えば流石に分かるだろう。そう思って柳瀬さんの様子を窺うと、目を丸くして固まっていた。


「あの、柳瀬さん?」


「…………え?え!?」


 声をかけるとしばらくして驚いた悲鳴めいた声を上げた。そのまま、だんだんと頬を赤く染め始めると、おずおずと尋ねてきた。


「え?……一ノ瀬さんって……幼馴染の一ノ瀬くん?」


「あ、うん。その一ノ瀬」


「えっと……少しだけ待って」


 そう言って両手で赤く染まった顔を覆い固まった。


 時々指の間からちらちらこっちを見てくるのを眺めながらしばらく待つ。「んー」とか「嘘!?え?」などの独り言を聞きながら待った。やっと整理がついたらしく、覆っていた手を外し、まだほんのりと頬を色付かせながら、こっちを見つめてきた。


「えっと、一ノ瀬くんは私の幼馴染の一ノ瀬くん……でいいんだよね?」


「あ、うん、多分その一ノ瀬で合ってると思う」


「その……いつ気付いたの?」


「ついさっきで、柳瀬さんが……そのプリント運びを助けてもらって嬉しかったって話をした時に……」


 あの時の嬉しそうに話す柳瀬さんを思い出して顔が熱くなる。あそこまで喜んでくれているとは思ってなかった。というか、ドキドキしていた、とか嬉しすぎる。


「あ、その時……って、確か私……」


 柳瀬さんも自分の気持ちをどれだけ晒していたのかを思い出したらしく、頬を真っ赤に染めて俯いて黙ってしまった。


 ま、まあ、そりゃそうだろう。好きな人に対して自分の気持ちを無自覚とはいえ暴露していたなんて恥ずかしくて死ねる。

 本当は俺も今すぐ家に帰って布団の中で暴れ回りたいところだが、もうこうなってしまった以上、言わなきゃいけないことがあった。なので、覚悟を決めて口を開いた。


「えっと、柳瀬さん」


「は、はい!」


 俺の声にビクッと反応して真っ直ぐにこっちを見つめてくる。


「えっと、もう、俺の気持ちは伝わっているよね?」


 俺の質問にこくりと緊張したように頷く柳瀬さん。


 これまでの話から俺が柳瀬さんのことを好いているのはもう気付いているだろう。そして柳瀬さんが俺のことを好いてくれているのも分かった。両想いなら言うべきことは一つだ。


「柳瀬さんのことが好きです。付き合ってください」


 言葉にして胸が熱くなる。そして緊張でドクンドクンと心臓が高鳴る。受け入れてもらえるだろうか?両想いだとしても不安が募る。そんな不安を打ち消すように柳瀬さんは口を開いた。


「わ、私も一ノ瀬くんのことが好きです。よ、よろしくお願いします」


 柳瀬さんは頬を茜色に染めて、恥ずかしそうに声を上擦らせながら頷いた。口元を緩ませて微笑む彼女の笑顔が強く脳裏に焼き付いた。


<完>


♦︎♦︎♦︎


最後までお読みいただきありがとうございます。おかげさまで無事完結させられました。少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。気に入ってもらえたなら、ぜひとも最後に↓↓↓の☆☆☆を★★★に変えて下さると今後の励みになります(*・ω・)*_ _)ペコリ


※この作品を生かして書き始めた作品『俺は知らないうちに学校一の美少女を口説いていたらしい』もよろしくお願いしますm(_ _)m

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地味な幼馴染が好きな俺はバイト先の黒髪美少女に恋愛相談しているが、なぜか彼女はいつも頰が赤い。なお、2人は同姓同名。 午前の緑茶 @tontontontonton

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