第25話 明日のために休息は必要ですよ。
一日のうちに二人の美少女に詰め寄られる。
告白まがい、いや最早告白なんですけど……正直夢ですねよ、そんなシチュエーションって。
ですがそれらの言葉の受取手である我がご主人様は全く意図に気がついていないという体たらく。
巷によくある鈍感系主人公なのであれば私がこの子を見限ってやる!
そう思うところなのですけどねぇ……全てにおいて前提がズレていることが原因なのですよね。
「はぁー! 今日も疲れちゃったよぉ」
私にそんな気持ちはつゆ知らず、エルフリーデはベッドに身体を投げ出しています。まぁ確かに今日一日色々なことが起こりましたからね。
いつもは端ないと注意の意味を込めて吠えて差し上げるところなのですが、今日は優しくしてあげることにしましょうか。
お疲れ様です。今日はゆっくり休みなさいな。
お気に入りのソファの上から、鳴き声を上げて彼女の声に応えてあげることにします。
「でも二人ともおかしかったなぁ。どうしたんだろ?」
ねぇ、とこちらに問いかけながらぼんやりと宙を眺めるエルフリーデ。
まぁ確かにこの子からすれば、お二人の行動は考えもしないことであったのでしょう。
その隔たりはなかなか解消することはできないでしょうね。まぁこれからじっくり時間をかけて直していきましょうよ。
でもさすがに今日は私も疲れてしまいましたので、何もしたくありませんよ。
「もぉそんな適当な返事しないでよ」
おっと適当な返事になってしまっていましたか?
「でもさー最近色々あったよねぇ」
なんです。回想でもしちゃうんですか? ちなみに言いますけど、『最近』だけじゃないですよ?
アニメでの姿を知っている私からすれば、関わってくる人たちがあまりに違って見えています。そのギャップに色々と頭を悩ませたりもしましたよ。
しかし最近こう考えるようにもなり始めました。
やはり創作の中では描ききれない部分があって、それを感じることができるということは、私もついにこの世界の住人になったのだということを。
おじいさまと一緒にいた頃は、離れた場所から見ているだけのつもりだったので、全く考えていなかったのですが、今の方が存外に面白いではないですか。
ですから私たちが意識していなかっただけなのです。『最近』ではなく、既に起こっていたことなのですから。
「さすがに思い出しちゃった時はもうどうしようって思ったけどさ」
確かにそうですよね。
いきなり私は犬に、エルフリーデは貴族の令嬢になってしまったのですから、途方に暮れるのは当たり前のこと。
それでもこうしてやってこれたのは、
「ハルカさんに会えて、レオノーラ様と知り合って色んな人たちとお話できてさ、すごく色々変わった気がするよ」
そうですよ、周りに私たちをさせてくれる人がいたからです。
本当に良いことじゃないですか。色々と経験をすることや、人と関係を持つことは何物にも替えがたいものですよ。
もしかするとアニメの中のエルフリーデは、素直ですけど本当に世間知らずで育ってしまったが故に、嫌がらせみたいなことをするグループに入ってしまったのかもしれませんね。
まぁそれもレオノーラ様の今の状況であれば、そんなことは起こり得ませんけどね。
「でもさ、一番良かったのはさ……」
ベッドの弾む音に続いて耳に届くのは、ソファの軋む音とクッションのへこむ感覚。視線をそちらに向けなくても、エルフリーデが私の隣に腰掛けたことが分かります。
この空間が心地良くて、思わずフワフワしてしまうというか……あぁ、これはもうバッテリー切れの合図ですね。
微睡みの最中、私の隣でエルフリーデは色々と話しかけてくれているのですが、もう意識が沈みかけていて、彼女の言葉にほとんど反応できません。
ですが一言だけ、私の耳に届いたその言葉はあまりに嬉しいものでした。
「貴女が来てくれたことが、わたしにとって一番良いことだったよ」
私もですよ、エルフリーデ。
貴女の側にいることが出来て、私はこんなにも満たされているのですから。
アニメの本編からかけ離れてしまったこの世界。最早以前の世界には戻ることは決してないでしょう。
そんな中を私たちは、自分たちの立場を理解して生きていかなくてはいけません。
何もしなければ結局予定調和に巻き込まれ、よろしくない結末が待っていることでしょう。
しかしそうならないために私が出来ること、やりたいことはただ一つ。
エルフリーデを決して悪役なんかにしない。
彼女が幸せであり続けるために、そして周りの人たちを不幸にしないために頑張ってやるのです!
そんな決意を胸に抱きますが、今日のところはもう良いでしょう。
今日もお気に入りのソファの上で眠りにつくことにします。
さて、明日はどんなことが起こるのでしょうか。正直楽しみでなりませんね。
「彼女を悪役令嬢にしないための10の方法 その4
少しくらいなら鈍感でも面白いかもしれないですね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます