第8話 噛み合わない会話とズレてる考えです。


 いつまでも玄関先で言い合い……いえ、もう一方的に私たちが言われているだけでしたが。

とにかくこのままではいけないということで、侍女長の提案もあり、中庭でお茶をご一緒することになったわけです。

 先ほどまでと同様に全く噛み合わない会話にエルフリーデもいつものオドオドは何処へやら。声量も3割増くらいになってしまっていますね。


 まぁいつもこれくらいで話してくれたらキャラが立つのになぁ。


「わかりませんー! なんで急にこんなことになっているんですか!」


 目の前の椅子に腰掛けるのは、自分よりも身分の上の貴族の娘さんなんですが、どうやら必死になりすぎて変なテンションになってしまっているようです。


 しかしエルフリーデのおかしなテンションを気にすることもなくじっくりと彼女を見つめるのは、レオノーラ・フォン・アーレンベルク様。

 なんでしょうか、すごく焦らされいますね。否応なく次に来る言葉を期待してしまうのはわたしだけでしょうか?


「……解せませんね」


 だからさっきからそのパターンは何故なんですか。まともに会話にもなっていませんって! あぁ、もうこのテンション疲れてしまいますよ。


 肩透かしだった言葉に変な力が抜けてしまったのか、少し声のトーンを落としながら改めてエルフリーデが尋ねます。


「えっと、アーレンベルク様?」

「なんですか?」


 お、ようやく会話が繋がりましたよ。

 これにはエルフリーデも気持ちが高まったのか、その場に立ち上がります。

「きょ、今日はい、如何されたんでしょーかぁ」


 いや、せっかくお話繋がったのに、そんな聞き方は良くないですって!

 思わず、エルフリーデの足に、私の前足を触れさせて諫めます。私の行動にハッとしたのか、すぐに顔を私の方に向け「しまった」という表情を見せています。


 これはまたお怒りの言葉を見舞われてしまうのでは……そう覚悟しながらレオノーラ様の言葉を待っていたのですが、


「会いに来たのですよ」

 と、あまりにシンプルな、どうとでも受け取り用のある言葉でした。


「は?」

 は?


 おっ、思わず私もエルフリーデと同じ反応をしてしまいましたね。


「エルフリーデさん、貴女に会いに来たのです」


 流石にこの言葉には私もドキリとさせられてしまいましたが、同時に嫌な予感が頭を過ったのです。


 先ほどから繰り広げられている同じようなパターンの会話。

 まるで品定めをされているような視線。

 淡々と短い言葉。


 これ、絶対に良い意味でじゃないですよね?


「……えっと、どうして?」

 なかなかいい言葉が思い浮かばない中でようやく絞り出した言葉。しかしその言葉はレオノーラ様のお気には召さなかった様子。

 冷たく感じていた視線がさらに冷ややかに突き刺さります。


「先程から不敬が過ぎますよ、貴女も淑女だというのならば、淑女たらんという姿勢をお見せなさいな」


 これには流石に返す言葉もないですね。

考えてれば先ほどからこっち、バタバタと貴族らしいとは言い難い行動を取り続けていますものね。

って、その指摘をするって事はちゃんとエルフリーデの言葉を聞いていたってことじゃないですか!


レオノーラ様、凄い……じゃなくてちょっと怖いですよ。そして我がご主人様はというと、突然の追及に言葉を失っている様子。

これは流石にまずいような気がします。

 もしもの時は私がどうにかするしか無いですね。そんな風に意気込んだ刹那、聴き慣れた声が私の鼓膜を叩きました。


「申しわけ、ありませんでした!」

「ですからそのように先程から!」


 やばい! 先ほどの一言でもかなりのダメージだったのに、次はどんな一撃が来るのか想像もできません。助けに入るなら今しかない。意を決して、二人の間に飛び出そうと後脚に力を入れた時でした。

いつもなら黙って俯くはずのエルフリーデが、真っ直ぐにレオノーラ様を見据えていたのです。


「でも!」

「ご指摘くださってありがとうございます」

「……」

「今後は気をつけるようにいたします」


 なんでしょう。いつまでも子供と思っていましたが、少し見縊っていたようですね。

言うべきことはハッキリと口にすることができるようになっているところは嬉しいところです。


「……なるほど。存外にきちんとされているのですね」


 その言葉には同意せざるを得ませんね。これ私のご主人様なんですよ。


 予想していなかったレオノーラ様のお言葉が嬉しかったのでしょう。ホッと表情を見せながら、安心したように椅子に腰掛けるエルフリーデ。それを見越して侍女長が二人のお茶を取り替えてくれます。


 お茶を口にし、ようやく一息つくエルフリーデ。

 まぁここでも緊張感を持っておければよかったんですけどねぇ。


「で、本日は如何されたのですか?」


 そしてこの質問ですよ。これは流石に……ね?


「貴女、私の話を聞いていなかったのですか?」

「えーっと、すいません!」

「何度言えば理解するのですー! さすがの私も憤りを感じざるを得ませんわね!」

「ご、ごめんなさい!」


 はぁ、せっかく褒めたのに……まだまだ修練が必要みたいですね。





 それから何度侍女長がお茶を入れ替えてくれたでしょうか。

数えるもの面倒になってしまうくらいだったので、察していただけると非常に嬉しいところです。

まぁ多分お昼のお稽古の時間になってしまっているようですが、講師の方々もレオノーラ様に遠慮してしまい、帰宅してしまわれているくらいの時間ですね。


 それくらいの時間をかけてようやく話が前進し始めたエルフリーデとレオノーラ様。


「貴女、殿下に何をしたのですか?」

「えっと、殿下って、ウェルナー殿下のことですか?」

「それ以外におりまして? どこまで恍けるつもりなのかしら」


 ふむ、やはりそういうことでしたか。二人から少し離れたところで駆け回って遊んでいるフリをしながら聞き耳をたて得心しました。


「い、いえ!恍けるつもりにゃんてないのです。ただ何故ウェルナー殿下のお名前が出てくるのか……本当に理解が出来なくて!」


 この言葉には流石に私も空いた口が塞がりませんよ。

 狙ってやっているのでしょうか。それだとしたらとだ食わせ者だと思うのですが、手をアワアワと振る仕草を見ると本当にわかっていない様子。

まぁ仕方がないですよね。『そのこと』について、アニメでは一言くらいしか触れられていなかったんですから。


 しかしエルフリーデの必死の言葉もそう簡単にはレオノーラ様を納得させることはできない様子です。


「……本気で言っていますの?」

「ほ、本気です! 本当に、全く、全然心当たりがないんです!」


 なんかエルフリーデ、今日はすっごく喋りますね。自分の言っていることを理解してもらえない、思うように話が展開しないことに焦っているのでしょうか。

総じて変にハイテンションになってしまっているのでしょう。


ここは私も助け舟を出してあげますか。


 レオノーラ様に駆け寄り、出せうる最大限の可愛い鳴き声。

 さぁ、これで大概の人は私に釘付けになるのです!


「なんですか、今はエルフリーデさんと話をしているのです。少しお待ちなさいな」


 あら、すごいドライ。まさか全くの効果がないだなんて。

 レオノーラ様は私に一瞥くれるだけで、私に関心がない様子。基本的にはエルフリーデの様子をじっと見つめているだけでした。


 ここまで頑な、いえ融通が効かないとは思いませんでした。

 アニメの中でも基本的に人の話を聞かない描写はされていたのですが、『一つの大事な基準』に沿って行動する人物としてレオノーラ様は描かれていました。

だからこそ、私の浅はかな考えと行動では簡単に彼女の意思を変えることは出来なかったのです。これには流石の私も凹んじゃいますよ。


「申しわけありません! この子まだ小さくて……」

 その言葉と同時に、私の体がふわりとか細い腕に包まれます。

あぁ、私が落ち込んでしまったのを気遣ってくれたのでしょうか。私を抱き抱えるエルフリーデは優しく撫でてくれます。

しかしそんなことをしてしまうとまたレオノーラ様に怒られてしまいますよ。


申し訳なさから思わず瞳を閉じて、お怒りの言葉を待ちますが……


「……まぁいいでしょう、何度も話の腰を折られていては、進むものも進みませんから」

「は、はぁ」


 なんとも肩透かしと言いましょうか。レオノーラ様はあっさりとした物言いでお茶に口をつけていらっしゃいました。


 あれ? これって……言葉は少し冷たかったけど、私は『邪魔です』とか『どこかに行きないさい』ペットを遇らうようなことは言われていない。

ただ「少し待っていなさい」って言われただけ。なんだろう、扱いが人っぽい扱いをされているというか……言葉にするのは難しいですが。


でも、もしかしてこれ……私は失敗したわけじゃないのかもしれない!

 

おっと、少し興奮している間に話が進みそうですよ。

 音もなくカップを置いて、レオノーラ様が姿勢を正して口を開きました。


「先日のことです。私、ウェルナー殿下とお茶をご一緒していましたの」

「そうなんですか」

「えぇ、何日も前から入念に準備を重ね、失礼にならないように、楽しんでいけるように使用するものから共に召し上がっていただく菓子についてもしっかりと良いものを選んでおりましたの」


 あれ? なんだか様子が変ですよ。

 先ほどまでの冷静でかつ貴族然とした雰囲気はなく、年相応の少女のような表情を見せるレオノーラ様。言葉にも怒りとは別の熱が篭り始めています。


「お茶を召し上がられている際の殿下の表情と言ったら……あぁ! それだけで私は満足でしたわ!」

 満足と言いつつもウェルナー様のお茶を嗜むウェルナー様の様子を具に説明するレオノーラ様勢いは止まるところを知らず。果てには自分がどのようにウェルナー様と出会ったかまで話は遡り始める始末。


「何て言うんだろ……あ、そうか!」

 すぐに消え入りそうなくらいの声でエルフリーデが呟きます。

大丈夫ですよ、エルフリーデ。貴女の気持ち今の私にはちゃんと分かっています。


 この人、惚気にきてんじゃないですか? それなら他所でやって下さいです!


 ですが覚えた違和感の理由がようやく分かった……いえ、思い出せたのでしょう。


 詰まるところ、ウェルナー様とレオノーラ様はご婚約なさっているのです。

 レオノーラ様は心底ウェルナー様を慕っているようなのですが、肝心のウェルナー様は気の多いプレイボーイとして描かれており、彼女の純粋な気持ちが伝わることはなかなかない様子。


 アニメのでは色々と邪魔も入ったりするので、嫉妬してさらに空回ってしまうレオノーラ様。

 そんな不遇な部分から、彼女にも一定のファンがいるのです。


 しかしですよ。現時点で嫉妬することなんてそうそうないはず……ですよね?


「それなのに、突然貴女が……」

「ん? わ、わたしですか?」


 え? この反応って……あーなんかこれ分かってきましたよ。


「突然ウェルナー殿下から貴女の名前が出てきたのですわ」

「あぁ、そうなんですか……」


 そうなんですか。ウェルナー様も噂話の一つや二つするんでしょうか?

 そんなことをぼんやりと考えていると、エルフリーデも同じようなことをレオノーラ様に尋ねていました。


「でも人の名前なんて会話の端々に出てきません?」

 そりゃそうです。至極当然のことです。しかしそんなことは分かり切った話のなのです。


 私もエルフリーデも理解できていなかったんですね。

 ウェルナー様が『同年代の子女の名前を覚えていた』ことがどれだけ重要であったのかを。


 もう口で説明するもの面倒になったのでしょうか、レオノーラ様の視線が痛いくらいに冷たい。

これは視線を向けられた人はただじゃ済まないですよ。


「ヒィ、ごめんなさい! ちゃんと聞きますから!」

 向けられているのは私のご主人様なのですが。

レオノーラ様も結構なオーバーリアクションをとる彼女に一瞥くれますが、もう慣れたのでしょう。ため息一つ呆れたと言わんばかり表情をお見せになりますが、わざわざ指摘することはしません。


 ビクつくエルフリーデを尻目に虚空を眺めながらレオノーラ様はポツリポツリと話をし始めます。


「殿下はね、確かに気の多いお人なのです」

「あーそれわかります。わたしの時も」

「少しは黙ってお聴きなさい!」

「ご、ごめんなさい!」


 おぅ、流石に今の怒号は私もびっくりしてしまいましたよ。結局二人の会話が噛み合っていない理由は互いに原因があるのです。言いたいことを言い合っているだけじゃ建設的に物事は進みませんからね。

 謝罪を口にし、萎縮してしまうエルフリーデにどう声をかけたらいいのか迷っているレオノーラ様に不覚にも萌えてしまったということは私の心の中に留めておきます。


 自らの怒号で話を遮ってしまいましたが、再びレオノーラ様がお茶で喉を潤し、話を続けようとエルフリーデの方を見据えます。


「……殿下が同年代の女性のお名前を覚えておくなど、今までほとんどなかったのです」


 確かにその通りですね。アニメの中でも、沢山の女性を侍らせながら、全然彼女たちの名前を覚えていないと言うなかなかに最低の人物。

しかし本当に興味のある人物の名前は覚えるらしいのです。


 確か名前が出てきたのはハルカさんとレオノーラ様くらいだったでしょうか。


「それが……あの殿下が……!」

 突然ワナワナと体を震わせ始め、何かに堪えるような仕草を見せるレオノーラ様。

 これには話を聞いていたエルフリーデも思わず立ち上がり、彼女のそばに駆け寄ります。



「アーレンベルク様? 大丈夫です?」

「――一体!一体、どのような魔法を使ったのですか!」

「ふぇ?」


 私もエルフリーデと同じ表情をしているでしょう。

 駆け寄るエルフリーデの腕を強く掴みながら、レオノーラ様は彼女を見上げます。それは貴族然としたものではなく、まるで好きなものを取られてしまった子供の拗ねた表情。


「私も簡単に名を覚えていただけなかったのに。聞けばお会いになったのは一度だけと言うことではないですか? 一体どんな手を……」

 いきなり見せられたギャップに返す言葉に迷っているエルフリーデを尻目に、レオノーラ様は言葉を続けます。


「えーっと」

「しかも貴女のことを友人とまで仰っていたのですよ! これがどれだけ光栄なことか貴女に理解出来まして?」

 他の人にも友人として紹介されているとは光栄なことじゃないですか。今度お会いしたらこのキュートな鳴き声で楽しませて差し上げなくてはいけませんね。


 でもまぁウェルナー様がエルフリーデに興味を持った理由って……ねぇ?


「あのーアーレンベルク様?」

「なんなのです、はっきり仰いな!」

「多分ですけど、原因……この子です」


 そう、あの時は事ある毎に私が邪魔をして差し上げたので、飼い主であるエルフリーデのことが印象に残っていても不思議ではないですし、婚約のお話をわずか数秒で断ってしまうナイスプレーまで見せたんですから、覚えられていて当然かもしれません。


 しかし眼の前のお嬢様は全くもって納得されていない様子。再び厳しい視線がエルフリーデを襲襲うのです。


「……」

「いやいや、怒らないでください、お願いします。後生です!」

「なら説明しなさいな!」


 納得させることが出来るのか正直不安ですが、おじいさまとウェルナー様がいらっしゃった時のことを具に話始めるエルフリーデ。




 極力、そう極力! 角が立たないように話を組み立てていきます。もちろん求婚されたお話だとかは全て伏せた上で、ウェルナー様がこのお屋敷にいらっしゃった理由を話していきます。

最初はエルフリーデの話を黙ってうなづきながら聞いていたレオノーラ様でしたが、何故だか私が話の中に登場したあたりで俯かれてしまいました。


「――と言うわけでして、多分この子にびっくりしたのが印象的だったから、ついでにわたしの事を覚えていたんじゃないのかなぁと思うんですが?」

「……」

 エルフリーデにしてはなかなかな物語の組み立てかたです。これなら私もエルフリーデも、それにウェルナー様だって特に被害は出ないはずです。


 しかし話が終わってもなかなか顔をあげないレオノーラ様。何か気に入らないことでもあったんでしょうか?思わず顔を見合わせるエルフリーデと私。互いに考えていることは共通しているようです。


「あ、アーレンベルク様?」

 どちらからともなくうなづきあった私たち。

おそるおそるエルフリーデが俯くレオノーラ様に声をかけ、私は固唾を呑んで事の成り行きを見守ります。


「……いい! いいですわ! 可愛らしいですわ! あんなにも凛々しくあらせられるのに、子犬に怯えてしまわれるなんて! あぁ、守って差し上げたい!」


 うん、期待して損しました。

どんな言葉が返ってくるのかと冷や冷やしていましたが、やはり発せられたのは惚気にも近い言葉。だから甘々しいのは嫌なんですよ。というか、テンション上がりすぎてキャラクターが変っちゃってますからね? 厳格な人がいきなりそんなふうにキャラクター変えられたら、特徴のないエルフリーデなんてさらに目立たなくなってしまうじゃないですか。


「えっと……」

 流石にエルフリーデも無理やり笑顔を作って引き笑いみたいになってしまっているじゃないですか。


「貴女もそう思うでしょう? エルフリーデさん!」

「は、ハハハー、ソウデスネー」


しかし、知らぬは本人ばかりなりとはまさにこの事。興奮するレオノーラ様を眺めながら、和巣の吾が身であると思わなければいけません。


教訓、好きなものは語ってもいいが、人の迷惑顧ろ!


 ……上手くもなく、ただ当たり前のことを言っているだけですね。私こそ反省することにします。


 しかしいつまで続くのでしょうか。さすがに辟易してしまいます。そうするとエルフリーデが私を抱き上げながらこう一言。

「ねぇ、この人……」

 あら、今日は本当に気が合いますね、ご主人様。


 きっと貴女がそれを口にしてしまうと面倒なことになってしまうので、ここは私が代弁して差し上げます。


 レオノーラさん、ほんっとうにめんどくさい!



 ゆうに十数分は惚気まくってくださったでしょうか。さすがに口角の筋肉も限界に近づいてきた頃、ふと空に目をやったかと思うとレオノーラ様が呟きます。


「あら、もうこんな時間になっていましたの」


 そりゃ貴女は気付かないでしょうね! って言葉が喋れたら言ってやりたいくらいです。ですが私にもエルフリーデにも最早そんな元気はありません。

とにかく早く終われぇなんて念じながら話を進めていきます。


「ハハハー有意義ナ時間デシタネー」

「何やら含みを感じますが」

「そんなことないですよ。私もアーレンベルク様のことやウェルナー殿下のことを知る事ができたので、非常に有意義でした」


 そう、エルフリーデの今のセリフ、本当に何も考えないままに口にしているのです。これこそ私が彼女、エルフリーデ・カロリングをフラグ製造機と宣う理由の一つ。

自分で『悪役になりたい』と公言しているくせに、素の部分が悪い奴じゃなさすぎるんですよね。


 飾り気のない、まっさらな言葉ほど受取り手には刺さるもののようで、レオノーラ様もその言葉を耳にしてうなづきます。


「……さすがはカール殿のお孫さんですわね」


 そう言えばウェルナー様もおじいさまには一目置いていたような気がします。

 アニメでは何も語られなかったのですが、実はおじいさまってすごい人なのかも。


 もう、さすがおじいさまです!



 そう、ここまでなら良かったのです。

 ここまでで「はい、ではご機嫌よう」となれば話はこじれることはなかったのです。


「いいですわ、気に入りました!」

「な、何がです?」



 うん、なんか今日も『あの台詞』が必要な気がしてきましたよ。



「殿下が貴女を友人と言われるのであれば、私もそれに習うことにいたします」

「えーっと、と言うと?」

「はぁ、本当に……今後はそのような呆けたところを直して差し上げます」

「……ふぇ?」

「カロリングさん、今日から私と貴女は友人です」

「い、いや……」



 嫌なんですよね? そりゃそうでしょう。自分よりも目立ってしまう『悪役令嬢』が側にいては、ハルカさんのライバルになんてなれるわけもない。


 ですがレオノーラ様の手前、そんなことを口にしてしまっていけません。最悪不敬罪にも当たるようなものです。ここは、こう口にするしかありませんよね?


「いやぁ、とっても光栄です! わたくし、精進いたします!」

「今後は誰にも恥じることのない淑女になれるよう導いて差し上げますわ」


 その言葉に愛想笑いを浮かべながら宙に視線を向けるエルフリーデ。もうやけっぱちですね。


 なんと言うか、うまくいかないものですね。本当にね。

あぁ忘れていました。きっと彼女はこう思っていることでしょう。


 なんでこうなってるのよぉ! ってね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る