第二章…「街」

街の入り口に着くのに30分もかかった。

だけどその30分のうちに色んなことがあった。

まず、僕は最強種だとバレないように【鏡の幻ミラーファントム】を使用した後すぐに同じ森から出てきた男女パーティーの冒険者と遭遇し、黒髪の少年キリアと白髪のショートヘアのアリアの2人がそれに対応した。

ちなみに腰くらいまで延びた髪の少女のリアは僕の側にいてくれた。突然のことで心臓がバクバクと音をたてていた僕にとってはリアがいてくれるだけでおちつくことができた。

これでもし、誰もいなければパニックで何をするかわからなかっただろう。

少しすると冒険者と話し終わり戻って来たキリアとアリアは親指をグッと立てて笑みをうかべる。それを見てバレていないことを知り、ホッと胸を撫でおろす。


「ビックリしたね」


「……心臓に悪い」


「だね~」


「顔色悪いけど大丈夫か?」


心臓に両手を添えてしゃがみこんでいた僕に覗き込んで心配そうにしているキリアに僕と同じく驚いて緊張していたリアにアリア。


「ん、平気」


「よし……ほら」


僕がしゃがみこんだままでいると、キリアが手を差し伸べる手を当たり前のようにその手を取り立ち上がる。


「ありがとう」


「いいよ……僕は何があっても何回でも手を伸ばすし」


そう言ってくれたキリアにリアとアリアも「そうよそうよ」とか「何回でも!です!」などと言ってくれることが嬉しくて、泣きたくなるのを何とか堪える。

それからは街に着くまで職人やら一般人と何度もすれ違ったが、やはり伏せたままの耳を放置するわけにはいかない。


「耳、隠した方がやっぱりいいかな」


「あ、ならちょっと待ってね」


僕の言葉にいち早く反応したリアが腰に付けていたポーチからキャスケットを取り出し僕に渡す。それを受け取った僕は耳を中に入れて被ると、意外と遠くまで聞こえていた音が少し遮断される。


「そんな小さなポーチから帽子が出るなんて」


「ふふ、これはね…無限収納、食べ物を入れても腐らないし冷めない、大きさ関係なく入る優れものなのよ」


そう答えたリアは実際に無限ポーチの中身から大きさの違うリンゴと少し前に狩った兎鹿のあまり肉を取り出す。

それを見た感想は驚きすぎて言葉にできずにその場で「へ~」としか言えなかった。

そんな反応が気に入らなかったのか納得のいかなさそうな表情をするリアにそれを見て笑うキリアとアリア。

とても楽しく街に向けて出発した。

街に向かう道のりには転生したての僕には珍しすぎる植物が山ほどあり、どれも目が離せず観察したかった。

その中で一番の印象に残ったと言えば唯一観察のできた花に化ける魔物だ。


「わぁ、何この花~」


「ん?それは___」


「___あれ?」


最初は他の花たちと変わらない綺麗な花だったのにそれはみるみる大きくなり、次第に大口を開きパクッと状況が読み込めていなかった僕の頭から丸飲みする。

そこまでいってはっと我に帰ったキリアが慌てて先を歩いていたリアとアリアを呼び戻してそれを討伐する。

はぁはぁと息を切らしながらキリアが声をかけてくるのと、隣からはアリアが注意をしてくる。


「の、ノア?大丈夫か?」


「だ、ダメですよ?あれは花になりすました魔物なんです!」


「まさか頭からパクッと行くとは」


「………う~、ぬるぬるする」


3人の言葉はきちんと聞いていたが、身体中が先程のそれの体液のせいでぬるぬるとしていた。腕を動かすだけでくちゅっと水音をたてる。

僕は仕方なく素早く体を洗うため、【水洗玉ムルデベディーネンボール】を使用する。服を着た状態でも自動で動く泡たちで、汚れが除去されていく。

ちなみに泡は汚れがなくなれば自動で消える。それを合図に僕を覆っていた水のボールはバシャッと音をたてて弾けて消える。

水洗玉ムルデベディーネンボール】の不思議で便利な所は、服が濡れていないことだ。そして全体的に覆う水のボール内でも息ができること。便利すぎて嬉しい。


「み、水が!」


「い、息できてたのですか!?」


リアとアリアは青ざめた顔色でガッと勢いよく肩を掴む。痛くはないのだが、リアとアリアの顔が怖くて何も言えずに、助け船を呼ぼうとキリアを見たのだが思わず驚く。


「!?」


「水……息……あはは」


目を丸くしながら白く固まっていキリアがそこにはいた。

突然やったことに反省しつつ、説明をするためにはキリアは戻ってきてもらわねばならないため、なるべく優しく揺さぶることにする。


「キリア~、帰ってきて~……ねぇ~」


漫画やアニメで見たことのあるこのシーンは確かにほっとくことができない。この状態を無視できる人は心が冷たい人だと思う。

揺すること少ししてキリアは我に返ると言うよりかは、帰ってくる。

僕の頭の中は今少し混乱していた。

漫画みたい!と考える部分と、きちんと戻ってきてくれた嬉しさで涙が出てくる。


「うっ、うっ……説明っするよ?」


「う、うん……だけど無理はするなよ?」


「誰のせいだよ!」


半泣きする僕を心配してくれるキリアだったが、それはこっちの台詞だと怒る。

が、ピンと来ていないキリアは首を傾げているだけなのが納得いかなく、何となくで一本の尻尾でキリアの顔を連続で叩くことにする。

ちなみにキリアの反応は、思いっきり顔に“幸せです!”と書かれている。


「わふ、へへ…もふもふ、ふへへ」


「………もはや変質者ね」


「変態です」


そんなキリアを見たリアとアリアはそんなことを言っているが頬を膨らませ、羨ましそうにしている。そんな3人を無視して僕は説明を始める。


「あの魔法は【水洗玉ムルデベディーネンボール】は基本風呂とかに入れないダンジョンとかに行ったとき用の洗浄魔法なんだ……だから、息もできるし体も綺麗になるし、服も濡れない」


「………便利な魔法ね」


「何でもありです」


「……そういえばリアとアリアは魔法使いなの?」


「いいえ、私は剣士よ?アリアも」


さらっと答えるリアに僕は無意識にじと目で口を結ぶ。

リアとアリアは別段と嘘を言っているようにも思えないし、まだ会って間もないがこの3人は嘘をつけない気がする……まぁ、勘ですがね、勘であっても当たっていることを願いつつ、いまだに尻尾で顔面を叩かれて幸せそうな表情をしているキリアを見る。


「ふへへ、へっ……コホッ、ぼ…僕は魔法使いだよ?」


「……」


その時僕は思ってしまった。

くじを引く運は強いと思っていたのだが、出会いの運は無いのかもしれない……

だって、ラッキースケベイベントは女じゃなくて男だったし、それに魔法と言えば女で!魔物とかに襲われそうになったら男が助けて恋に落ちるとか、そう言うんじゃないんですか!?


「そう、なんだ…………あ、進まなきゃね」


内心で荒ぶっていた僕は我に帰ると、キリッとしながらとりあえず街に進むように促す。


「そうね」


「いつまでも変態でいないでください…キリア」


「変態言うな!……まぁ、ノアの言う通り進むか」


そして現在、街の入り口の前。

僕に難関が訪れていた。

それは、通るには身分証が必要らしく、それを持ってはいないこと。

それに対し、キリア、リア、アリアの3人は3人で1枚の身分証らしく通れると言う。


「あ、そうだ……ノアもこの身分証で通れるかもしれないぞ」


「本当?」


「はい、私たちはキャラバンとして街を行き渡っていると言うことになっているので、その中にノアも入ってしまえばいいのです」


「え、それは……大丈夫、なのか?」


「本当はダメですが大丈夫です!」


不安になりつつアリアの“大丈夫”を信じることにする。そんな不安を持った状態の僕と平然としている3人は、警備員に薄いカードの身分証を見せるとざっと見た警備員は僕たちを通す。


「本当に……通れた」


「でしょ?」


「まぁ、少しハラハラしたけど」


ふぃ~と気を抜くキリアとリアに対してアリアはドヤ顔を決めてくる。そんな3人を無視して僕は自分の中に強く芽生えた街の中の好奇心に揺らいでいた。

今すぐに街を回りたいのと宿に行き休憩をするの二択に迷っていると、ふと通り過ぎて行った男を見つめる。


「?……キリア、あの人は?」


「ん?あぁ、ベテラン冒険者だね……」


「??ベテラン?」


キリアの言葉に首を傾げる僕に、キリアはふっと微笑みながら僕の手をそっと握ってくる。


「この街に入ればもっとすごい光景が見れるよ」


キリアの言葉通り、まだいる場所は街と通行確認の間にいる。つまりはここからが本当の街なのだ。

僕は握られた手を握り返しながら満面の笑みを見せる。


「うん、楽しみ……僕、街に来たの人生初なんだ」


「………初?」


「初めてなんですか?」


リアとアリアの目が点になる。

その反応にん?となっていると、キリアが鋭い目付きで質問をしてくる。


「ノア、僕たち以外の人間に会った?」


「あの時に会った人たちが初めてだね」


「買い物をしたことは?」


「ないよ?」


「………僕たち以外の人間と会話は、あの時は僕らで対処したからないか」


ガクリとしながらキリアの目付きは変わらず、握る手に更に力を込めながらキツめに言う。


「いい!?ノアは僕と行動!絶対に離れないで!」


「ふぁ、え、あっ、はい?」


突然の声音にビックリしながら疑問符付きの返事をする。

そんな僕に心配そうに見つめてくるリアとアリアが1つ提案する。


「街に入ったら宿に行きましょう」


「その方が良さそうよね」


「そうだね、今日は宿で休んで明日街を歩こうか」


リアとアリアの提案に頷きながらキリアは歩き出す。それに続くように2人も歩き出す。

ふと僕は生前の記憶を思い出す。

生前の僕はあまり人混みを好んでおらず、ゲームとか漫画とかは人があまりいない時間帯を選んで通っていて、学校も全校集会の時は体調が悪いと言い訳して避けていたことを。

………あれ?これは大丈夫なのか?

不安になり始める僕を無視して、ついに街に入る。


「わぁ!」


「すごいだろ?」


「……うんっ」


その街は花がどこもかしこも飾っており、時より吹く強い風で舞った花びらがひらひらと落ちている。

住人は色々な形のドレスを着た女性やタキシードを着た男性、街にとても合っているのだがそれとは真逆にその場には合っていない鎧で全体を覆った者やいかにも魔法使いだと言うように魔女の帽子に杖を太ももに付けているケースに入れられている。


「あの人たちもベテラン?」


「そうですよ」


「ベテランになれば、どこの街も通行証無しで素通りできるからね」


質問すればアリアは答え、リアは呟くように言う。


「さぁ、宿に向かおうか」


『は~い』


キリアがそう切り出せば、僕を含めた3人が同時に返事を返して再び歩き出す。

歩き始めてから少しして、すごい人混みと遭遇するのと同時に大玉に乗って歩いているピエロのような服を着た女性に自然と目を向ける。


「あれは、“輝きのサーカス団”だね」


「?有名人?」


「はい、結構有名ですよ……私もこの目で見たのは初めてなんです」


にっこりと笑ったあと、“輝きのサーカス団”というメンバーの大玉に乗った女性を見つめる。

チラッとキリアを見れば、なぜかキリアの表情は最悪だといいたげな嫌そうな表情をしていた。それを見た後、大玉乗りの女性を見ようと視線をずらした時、その女性はすぐ目の前にいた。


「!!!?」


「あら、驚かせて申し訳ございません……少々協力してくださいませ」


「え、協力?」


「はい」


にっこりと笑う女性に返答に迷っていると、隣にいたキリアが口を開く。


「行っておいで」


「い、いいの?」


「ちゃんと戻ってくるんだよ?」


「……うん」


キリアに背中を押され、僕は差し出された手を取ると女性は再び大玉に乗る。

当たり前にその時は僕も一緒だ。

女性がジャンプした時に引っ張ってくれて、大玉に乗ることができた。

……そこまではよかった、のだが、そもそも大玉に乗るのが初めてで足が何度も絡み転びそうになるのを女性が何度もサポートしてくれるお掛けで落ちないですんでいる。


「ふふ、その調子よ」


「は、はぃわっ!」


返事を返そうとしたときの一瞬でまた足が持っていかれるが、女性が再びサポートをしてくれる。

情けなく顔が熱くなりながら、チラッとキリアとリア、アリアに視線をずらせば3人とも僕が落ちないか心配そうにしている。試しに転びかけるフリをすれば3人してあわあわと両手をおろおろと同じ動きをしているのを見てつい笑う。


「仲の良いのね」


「僕の大切な人達です」


「そう…………あら?よく見れば見覚えのある顔がいるわね」


「そうなんでぇ!すぅか?」


問う途中で今度はフリではなくガチの足を滑らせるが、感謝しか言えないくらいサポートのお世話を再びしてもらう。

そしてさっきの話をしようとした時、女性が満面の笑みで見つめてくることに嫌な予感がし、自然と顔を引きつらせていく。

何かを察した僕に、女性は観客に向けて大声で言う。


「観客の皆様!これから大技を致します」


「お、大技?」


「ヒュー!いいぞ~!」


「見せてくれ~!」


大技という言葉で観客がテンションを上げていく中で、1人で首をぶんぶんと振ってみたが効果がなく、ついにその時が来てしまう。


「さぁ!行きますよ~!」


女性が両手に力を込め、おもいっきり腕を上げれば当たり前に僕の体は宙に浮き、尚女性は唯一の飛ばない理由であった両手をパッと離せば、僕の体は宙に放り出される。


「あぁぁぁあぁぁぁ!!!!」


観客は喝采がわき、僕は絶叫した。

それでも何とか宙で体勢を整え、人がいない場所に静かに着地する。

それで再び喝采が起きるが、バクバクとなる心臓を押さえていてると3人が迎えに来てくれる。


「大丈夫か!?」


「平気ですね?」


「心臓止まるかと思った」


「僕は死ぬかと思った」


半泣き状態の僕に、3人は元気付けようと宿に早く向かうことを提案される。

返事をしようとした僕の言葉を遮るように、先程まで大玉に乗っていた女性が声をかけてくる。


「綺麗な着地でしたね」


「あ、ど、どうも?」


女性の言葉に疑問符付きの受け取りをする。

それを終えると、女性はキリアを見つめ、見つめられていることに気づいたキリアは首を傾げる。


「あなた、名前は?」


「え、キリアだけど……」


女性の言葉におずおずとキリアが答えると、女性は顎に指を当てながらブツブツと呟き始めた。

それを合図のように、キリアは僕の手を取り走り出す。リアとアリアもそれに続くように走り出す。

状況が全く理解していない僕は、ただ引いてくれるキリアの背中を見つめることしかできなかった。

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転生したら最強種になっていたので、言ってみたいこと・やってみたいことをしてみました 夜月 雪 @tokiyori

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