第一章…「転生しました」

湿った空気。少し暗い空間。ポタポタと垂れる滴。僕はゆっくりと深呼吸をしながら目を開ける。ごつごつとした天井、その一角に尖った場所から垂れている水。


「洞窟?」


ボソリと呟く。

当たり前だが聞きなれない声。

声だけ聞くと子供だろうか……

グーパーと手が動くか確認する。きちんと動くし感覚もある。聴覚も問題ないのだが、今の体は前よりもよく聞こえている気がする。この辺に鏡がないのは確認する必要がなく、僕は洞窟の外に出る。

目を細めてしまうほど眩しさを放つ太陽、がさがさと音を鳴らす木。僕はとりあえず息を大きく吸う。とても美味しい、新鮮な空気。

微かに水の味が含まれ、僕は左右を見渡すが木しか見えない。だけれどこの近くに必ずに水辺はあるはずだ。

僕は耳に集中し、水辺の場所を確認するために探すとザァァァァという音が聞こえた。

この音は滝だろうか………


「よし、行ってみよう」


フラグが立った気がするがそんなこと知ったことか!僕は自分の姿を確認したいんだ!

と意気込み音がした方へと歩き出す。

近いだろうと考えていたが、以外と遠くて驚いた。やっとの思いで水辺に着くと、そこには立派な滝が流れていた。

一瞬僕はそれに見惚れていたがすぐに自分の姿を確認しようと水に近づく。

水を除き混めばそこには自分の姿が映る。


「ふむ………ケモノ耳と尻尾が九本……全く気づかなかった」


九本の尻尾は当たり前に自由に動かせる。耳もよく聞こえていた理由がわかったし………さて、次はどうしようか。


「あれ?誰かそこにいるのか?」


突然の声に少し驚きつつも、フラグ回収来たぁぁぁぁとも心で思いながらとりあえず答えることにする。


「す、すまない……どうしても水に用事があったんだ、もうすんだから」


そう言って立ち去ろうとする僕に、慌てて滝の向こうから姿を表し止めに入る。


「待ってくれ!」


滝の向こうから姿を見せたのは、絶世の美女ではなく、たいして筋肉のない黒髪の少年。

どうやら女の水浴びではなく、男の水浴びのフラグ回収だったらしい。悲しいなぁ……

とりあえず呼び止められた僕は動かそうとしていた足を止めて黒髪の少年に視線を戻す。少年はホッとした表情を見せた後、今の自分の姿を見てはっとした表情になる。


「少し待ってて」


その言葉を残し、森の中に入っていく。入っていった先に荷物でも置いてあるんだろうなと思いながら、僕は待ち時間を再び水に映る自分の姿を観察する。

こうしてじっくり見つめてみれば、九尾なんだなと実感していく。自分の意思で耳も尻尾も動く。尻尾を触ってみればもふもふで肌触りが良い。


「九尾って最強種なのかな?」


尻尾を触りながら呟く。

少し考えようかと思ったとき、カサカサと草をかき分ける音が耳に届き顔を上げると、黒髪の少年が服を着て森の中から出てくる。


「お待たせ」


ふぅと一息をついてから、再びホッとした表情を見せる。どうやら、待ってないとでも考えてきたのか、よく見れば少し息を切らしている。慌てて着替えて走ってきたのだろうな。


「何かよう?」


「あ、そうだった………えっと」


「?」


どうきりだしたものかとおろおろしている黒髪の少年に僕も焦らせずに黙って待っていると、少し遠くの方から女の声が聞こえてくる。パッと声が聞こえる方を見ると、僕らがいる位置から木が何本か挟む先に少女二人の姿を黙視する。

少女二人もこちらに気づき、草を掻き分けて近づいてきた。


「遅い!何してるの!」


「あれ?リアにアリア?何でここに?」


「水浴びに行ったきり戻ってこないからです」


三人の会話を黙ったまま聞いていると腰くらいのびた薄いピンク色の髪の少女が僕に気づく。それに続くよう白いショートヘアの少女も僕を見る。


「あら、この子は?」


「あれ?その九本の尻尾って!の九尾じゃない!」


驚きで僕と黒髪の少年を交互に見るピンク色の髪を持つ少女に平然を装っている白髪の少女。そんな二人の反応を見た僕は、黒髪の少年に問う。


「僕はそんなに珍しいのか?」


「そりゃあ、九尾は絶滅したと思われているからね……まさかこんなところで会えるなんて」


「そうなんだ………じゃあ、このままの姿では出歩けないな」


そう呟きながらどうにか人間の姿に化けれないかと考えると僕の頭の中に一つの魔法が思い浮かぶ。

その魔法は、目立つ尻尾を見えなくするものであり、どうやら耳には効かないらしい。まぁ、耳なら色々と方法があるからまぁいっか。僕は浮かんだ魔法を使用する。


「【鏡の幻ミラーファントム】」


「え、尻尾が」


「そんなことができるなんて」


そう今の僕の姿は耳が生えた人間に見える。魔力の痕跡も残さずに魔法を使用したからだ。ちなみに耳は、髪の一部のように伏せる。


「どう?」


その場で一回転して見せると、少女たちの表情を見れば大体察する。どうやらうまくいったらしい、黒髪の少年は僕の回りを一回りしてから「まじか」と小さく呟くのが聞こえた。

これから街に行ってみようと考えたのは良いのだが、出口がわからない。


「すまないが、この山?森?から出るにはどこに行けばいい?」


「え?街に行きたいの?」


白髪の少女がそう聞き返してきたので、僕は頷いて同意する。

それを見て薄いピンク髪の少女は、黒髪の少年を見つめながら口を開く。


「私たちもこれから街に行かなきゃいけないし……一緒に行かない?」


「?いいのか?」


「大丈夫、多分一緒の方が良いと思うし」


「僕も異論はないよ」


僕の言葉に白髪の少女も黒髪の少年も頷く。それが結果となり、僕は三人と共に街まで行動を共にすることになった。

そう決まると自己紹介は必要になる。


「じゃあ、よろしく……僕はノアって言うだ」


「僕はキリア・ロベリック」


「私はリア・ティノルって言うの」


「私はアリア・ソルカンデと言います」


黒髪の少年はキリア、薄いピンク髪の少女はリア、白髪の少女はアリア。

それぞれが自己紹介を終えると、どこからかぐぅ~っと空腹を訴える音が聞こえ、誰もが音を出した本人を見つめる。その音を出したのはリアで、顔を赤くさせている。


「そういえば何も食べてなかったね」


「そうですね」


「……?どこからか草の音が聞こえる」


髪に紛れさせていた耳をピンッと立たせて、詳しく音を調べる。

その音は人間のたてる音とは別で、微かに紛れているのは四足歩行の足音。少し警戒しながら歩いていることがわかる。


「肉だな」


ペロッと舌で唇を嘗める。

三人にはわからなかったらしく、僕は素直に音でわかったことを言う。


「草の音をたてていたのは兎鹿とじかだったよ……つまり、捕まえたら肉になる」


「肉ぅ!」


「……それは狩らねばなりませんね」


「久しぶりの肉だ」


僕の言葉に瞳に宿る光が一段と強くなり、鋭い目付きになる。名付けて“狩りモード”だな。

よし、ここは試してみたいことをしてみることにする。言わばこれは、チュートリアルと考えれば楽しい。


三人ともキリア、リア、アリアそこに固まってくれ」


『???』


僕は【鏡の幻ミラーファントム】を解き、九本の尻尾を使い三人を持ち上げる。なるべく耳と尻尾に意識を向ける。

ちなみに三人の反応だが____


「ふかふかです!もふもふです!」


「何これ、ヤバイ!気持ちい」


「僕は今、最強種の尻尾の上にいるんだ」


とまぁ、こんな感じだ。

僕はそんな三人を包み込むようにして、余った尻尾で蓋をする。それから軽く跳躍を数回した後、少し離れた場所の木に一歩で行き、その後はそのまま上で飛び移ったりそのまま行けなければぶら下がりながら目にも止まらぬ早さで移動をする。少しすると音をたてていた兎鹿を発見し、まずは尻尾で作った蓋をはずす。


「うぉ、どこだ?ここ」


「あ、兎鹿!」


「ごちそう!」


状況を把握した三人の言葉を聞いた後、包んでいた尻尾をほどく。

三人はそれぞれ着地すると、すぐに兎鹿に向かって駆け出す。兎鹿もその音に驚き逃げようとするが、先読みし、待っていた僕はすぐに拘束魔法【チェーン】を使用し、兎鹿の動きを拘束。

刹那に背後から走ってきた三人が仕留める。


「久々のお肉ぅ~」


「リア、はしたないですよ……じゅるり」


「さぁ、早々に裁こうか」


輝いた目で兎鹿を見つめるリアとアリアとはまた別に裁くための包丁を片手にキリアが嬉しそうに笑っている。はたから見れば、ヤバイ奴だと思われてもおかしくはない。

僕はそんな三人の姿を少し離れた場所から見守っている。こうしていると、母親になった気分になるなぁ。


「これ食べたら街に行こうか」


『は~い』


「………街かぁ」


手際よく裁いていくキリアに、裁いた後の処理をリアとアリアが手際よくしていく。何もすることない僕は、木にもたれながらこれから行く街のことを考える。

転生して間もない時間で、初めての街。

街に行ったら何をしようか……

平和に暮らす?…それもいいが、僕は最強種として転生している。気は抜けないだろう

旅をする?…それも良いかもしれない、だけど僕はこの世界のルールも地形も全くわからないから、一人で動くのは危険かもしれない

森の中で引きこもる?…それだと、せっかく転生させてくれたあの子に悪い気がする

それじゃあ、何をする?

深く深く考えていく僕に、三人の手は休むことなく着実に進んでいた兎鹿の料理。その料理はとても簡単なもので、パッと見れば兎鹿の串焼きだ。二口サイズの肉が三つ串に刺されて焼かれた料理。


「ノア、ほらできたぞ?」


「……………」


「ノア?」


「大丈夫ですか?」


「へ?あ、すまない……ボーとしてた」


心配そうに見てくる三人に優しく微笑みながら僕はキリアが持っている兎鹿の串焼きを見る。それに気づいたキリアが、「はい」と言って渡してくる。


「?いいのか?」


「ああ、これはノアの分だからね」


「……そうか、ならいただくよ」


キリアの優しさに恥ずかしくなった僕は少し俯きながら兎鹿の串焼きを受け取る。

そういえば、誰かとこうしてご飯を食べたのはいつぶりだったかな……多分小学生以来だったかな?

そう考えながら僕は兎鹿の串焼きを口にする。塩とコショウのシンプルな味付け、だけど肉はほどよい柔らかさに噛めば噛むほど肉汁が溢れ出てくる。それでいてくどくはなく、さっぱりしている。


「美味しい……何だこれ?」


「ふふ、秘密はこれだよ」


どや顔をしながら見せてきたのは、どこかの葉っぱ。乾燥もしてない、そこら辺にある葉っぱだ。僕が首を傾げていると、アリアが説明してくれる。


「キリアが持っているのは、一見普通の葉っぱに見えるかもしれませんが、この葉っぱを被せて焼くことでしつこい油も固い肉もさっぱりとして柔らかく解消されるのですよ…ちなみにこの葉っぱの入手方は家庭事情なので秘密です」


「そうか、なら仕方がないな」


アリアの言葉に素直に頷いて見せた僕にキリアとリアは、ぽかんとしている。

僕は変なことを言っただろうか?


「し、知りたくないのか?」


「何が?」


「え、家庭事情とか」


「?別に」


「そ、そうか?」


キリアが問う理由に全く理解できない。

全ては家庭事情という言葉で終わっているのに。

全く僕には理解できないが、もしかしたらキリアは僕に話したかったのでは?と考えていたが、すぐにその考えを頭の中から追い出す。

最後の兎鹿の串焼きの肉を口に頬張り、よく噛んでから飲み込み、手を合わせる。もー癖が着いた恒例を行う。


「ごちそうまでした」


「何をしているの?」


「ん?あぁ、気にしないで」


リアに訪ねられて自分が行っていた行動を理解すると、ヘラっと笑った。

それを見た三人も手を合わせ『ごちそうまでした』と口にする。


「別にやらなくてもいいのに」


「いいのー」


「気にしないでください」


「本当に気にしないでノア、さぁ食べ終わったしそろそろ行こうか」


ふぅと息を吐きながらキリアは立ち上がる。それに合わせるかの様にリアもアリアも立ち上がる。そんな三人を見て僕も立ち上がる。


「で?街はどっち?」


「あっちです」


僕の問いに真っ先に答えたのはアリアだった。アリアが指を指す方を見てもやはり森。でも、最初の水辺までの一人よりはとても楽しくなりそうな気がしていた。


「出発だ」


キリアが笑顔でそう告げた。

キリアを先頭に森の中をひたすらに進むというよりは下る。

どうやら僕がいたのは、山頂だったようで何も知らない僕にキリア達は色々なことを教えてくれた。

まず、この世界は何個かの国により支配していて、国一つ一つにルールがありそれに違反したものは投獄、重くて死刑になるそうだ。ここまでは、僕がいた世界と対して変わらない。

だが次の説明からは違いがはっきりとした。

国以外にも世界を支配できる力を持つ者がおり、それが最強種らしい。最強種は確認されているだけで五つの種族がある。

一つ、僕が転生した九尾

二つ、吸血鬼

三つ、竜

四つ、精霊

五つ、人魚

と言った種類がいるらしい。

九尾は僕以外全滅したらしく、吸血鬼は基本朝は活動しないらしく、竜は火山のある山に引きこもっているらしく、精霊は姿を消して人間に悪戯することにはまっているらしく、人魚は海の中で優雅に生きているらしく、どの種族も世界の支配をどうでもよく考えているらしい。

まぁ、話を聞いていてだろうなぁなどと考えていた僕も世界の支配とかどうでもいいんだよなぁ。

などと考えていると、木と木の間から街の全体を囲む大きな壁を見つける。

僕は無詠唱で【鏡の幻ミラーファントム】を使用する。


「もうすぐで着くよノア」


「あの壁の向こうが街なんだね?」


「そうよ、あの壁は魔物や盗賊を中に入れないためにあるの」


「他の国も似たような感じなんです」


「へ~」


街に壁=アレがパッと頭に浮かぶがすぐに頭のすみにおいやり、僕は目と鼻の先にある街への入り口を見つめる。

転生してからの初めての人間仲間、初めての街。笑いたい気持ちを押さえ、僕は街に向かって歩き出す。

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