第十幕 転がる石のように…… 

 十幕タイトルの続き……


【V字回復の頂点同士を直接繋げるエネルギーが直角二等辺三角形だった時、√2の二乗は光速度として永遠に等速運動エネルギーを電磁波の与えるのかもって…坂道を見上げて呟く猫チーを探しながら自転車を押して上る為、波長の山と谷を合わせた時に時空が停止する永遠が訪れるまで……】


 冴元科学文部相が立ち上がる。彼女の娘さん。僕の見合い相手だろう。


(どっかで聞いた事のある声だな。僕の事を知っている?)


 僕は咄嗟にそう思った。顔は。いや。眼鏡が無いから見えないや……。


「百合亜! どういう事?」


「知らないとは言わせないわ。お母さん。総理。科学文部省のイレイザー、葛木麿実達から聞いたわ」


「!」


「どういう事、香梨亜さん?!」


 僕の母の詠子が尋ねた。


「お母さん、惚けないで! この守谷を宗教首都にするって話よ!」


「黙りなさい!」


「どういう事だ。総理?」


「うむぅ……」


「全部話せ」


「……わかった」

 総理が頷く。


「……この海禅寺を開基した平将門新皇は、この守谷を信仰の地と定め、王城を建設しようとした」


「この守谷に?!」

 下総の石井という説もある。


「そう。平将門公が天下を取ったら日本の首都は守谷になっていた筈よ」

 冴元大臣の言葉に皆が唾をゴクリと飲んだ。


「守谷は県内で22番目に市になった。旧約聖書ではソロモン神殿の建設が開始されたのは2月2日。守谷町が市制に移行したのが2002年2月2日」

 その冴元科学文部大臣の言葉を娘の百合亜さんという美少女が継いだ。

「百合亜さん。この海禅寺に何が眠っているというの?」

 母さんが訊いた。

「承平、天慶の乱を記した軍記物。『将門記』の抄本」

「!」

「漢文体で書かれたその本を既に訳して、将門公の秘密を掴んでいた一族。それを母さん達が極秘裏に処理しようとしていた」


「百合亜!」


「将門公は鎮守府将軍良将公とも、良文公の息子とされ、桓武平氏の家系。もともと皇族です」


「うん」


「平氏にあらずんば人にあらずか……」

 父の孝将が呟いた。昔の貴族の言葉だ。


「何よ、突然」

 母だ。


「平民、マジョリティーでなければ人ではない、という意味にもとれるな。当たり前の事。平清盛公、織田信長公の伊勢平氏の家系は、平 貞盛公の家系。将門公と敵対した従兄弟の家系だった。将門公を倒した貞盛公の家系が、京の都で天皇家さえも抑えた権力者となったのだ」

 父さんの言葉は事実。


「上総介信長公、右府公、つまり右大臣信長公を誅殺した明智光秀公は、土岐源氏の一族だった。つまり土岐源氏一族の斯波氏が美濃の守護だった時の重臣明智家と斯波氏から政権を奪った斎藤道三公を倒した信長公を倒した明智光秀公を、筑前守秀吉公が倒した……」

 僕は俯く。皆が天を仰ぐ。


「東照大権現の神号を徳川家康に付けたのは天海大僧正だった。明智光秀公ともされる天海大僧正と、守谷藩の初代藩主が土岐家の菅沼一族だった事実もある」


「そうなんですか」

 楓さんにも勉強になる話だ。


「丹波、丹後は昔の秦王国、ユダヤ系の帰化人である秦氏が住んでた場所。その時光秀公は領主として日本とユダヤの関係全ての情報を握った。時の天皇陛下であった後陽成天皇に奏上し織田信長に具申したかどうかまではわからない。また信長公に庇護されていたイエズス会も、その時に徹底的に日本の事を調べ上げたに違いない」


 父さんもだろ?


「楓さんとやら。明智光秀が山崎の合戦後生き延びたという伝承もあるが、皆は知らんだろうがその子孫の中には坂本龍馬がいる!」


「えぇぇぇっ!!!」


「坂本龍馬の先祖太郎五郎は土岐明智家の一族で、明智光秀の父の妹の子で、光秀公の親族だった斎藤利三の妹が土佐の長曾我部元親の正室であった関係で、光秀の叔父の子であった、従兄弟の明智秀満公の庶子の太郎五郎が土佐に落ち延び、明智家と同じ桔梗の紋を家紋とする坂本家の才谷屋になったという確証ある情報があるわ。土佐南国村の菩提寺の過去帳からわかる坂本家の系図に、その太郎五郎の名前が記載されているんだ。坂本は明智光秀の居城坂本城の坂本だし」

 母さんの詠子が、楓さんを正視した。


「坂、サカ、サカ族、シャカ族?」


「その坂本龍馬は海外のユダヤ人とも関係が深かった」


「楓さん。また赤穂浪士の大石内蔵助も、遠山の金さん、遠山金四郎さんも明智光秀の一族なんだ」


「えっ?! そうなんですか?!」


「釈迦の反逆か? しかし、それは社会に悪が蔓延っていたからだとも言える。よい世界だったら反逆する必要はないんだし……」 


「乃白瑠。お前は、織田信長公が家臣に『この石を拝め』と言った訳がわかるな?」


「はい」


「流石ね」

 百合亜さんだ。


「あれは岩、ペテロと呼ばれたシモン、サイモンを拝むか、つまりキリスト教ローマ法皇を信じるかという、信仰を確かめる一種の踏み絵みたいなもんだったんでしょ?」


「それに岩とは、昔の日本の呼称、倭国の『倭』は『い』とも読むし、

『わ』とも読む。つまり岩。盤とは倭国そのもの! 常盤。盤とは、中国の創造主、盤古ばんこ。それは元始天王の事だった」

 

 僕の父親の孝将は、一応歴史学の泰斗だ。


「釈迦様の父親は浄飯王。じょうぼん、じょうはん、呪われていない干拓された土地。戦乱で人間の血を吸っていない場所。昔池や川、沼で、干拓された後で新田となった場所の米。茨城県守谷を流れる鬼怒川の語源は、神武天皇陛下の兄君で、この地に来られた御毛沼命みけぬのみことだった」


「父さん。ある時までは天皇陛下は釈迦様の家系だった筈だよ。しかし100代後小松天皇天皇の養子に伏見宮家から入った、後花園天皇の家系こそが、現在の皇室なんだ。その伏見宮家の名前の元こそ菅原伏見陵に葬られた11代目垂仁天皇。丁度、イエスの時代の天皇陛下なんです。その天皇の御宝算ごほうさん、つまり年齢は139歳。日本語に直すとイサク。そして垂仁天皇は伊勢神宮、イエッセ、イエスの神宮を創建している」

 僕の言葉に確証はある。この辺りの情報についてだ。


「そして東照大権現、徳川家康公の本地、薬師如来は、病を癒す仏様。イエス・キリストも、ギリシャ神話のアスクレピオスのように、医学の知識で民を癒した人物だ」

「本当ですか! 乃白瑠さんのお父さん!」


「ところで徳川家康公がこの守谷の野木崎に来た事があるというのは知っている?」

「えっ! そうなんですか!」

 楓さんには驚く話ばかりだ。でも、なんで楓さんを教育するような真似をするんだろう。

「徳川実紀に書かれているんだが、大阪夏の陣が終わった後、鷹狩りの帰りにこの守谷の野木崎に立ち寄っているの」

 母さんが言った。

「家康公を現在の千葉県側に渡し守が氾濫する利根川を向こう岸に運んだとされるが、現在でもその家系が残っているとは限らないな。恩を返そうと家康公がその家系を取り立てていれば、江戸に呼ばれている筈だからな」


「父さん。確かこの守谷の野木崎には吉田松陰さんが立ち寄っていますよ。実際に松陰先生が東北へ遊学の旅に出た時の日記に出ている事実だから間違いないですし、江戸から利根川を下り、野木崎下河岸の港から陸に上がって、茶屋で休憩し、滞在した後で取手宿から水戸街道を会津までの旅路」


「そうだな。維新の志士と水戸の志士は繋がりが当然ある。井伊直弼に蟄居閉門を喰らって、隠居させられた徳川斉昭公。井伊直弼は紀伊藩主の徳川慶福公を押し、そして14第家茂公として将軍宣下を孝明天皇にさせた派閥だったが、15第将軍慶喜公は、水戸の斉昭公の第七男だった」


「水戸徳川家の家訓は、もし徳川宗家と朝廷が合戦に及んだ時、水戸徳川は朝廷側につくようにとの家訓が初代徳川頼房公以来残されています。だから慶喜公は大政を奉還するしかなかった。決して戦わずして負けた負け犬でもなかったんですね」

 黙って父さんは頷いた。


「それと、何故幕府が幕末にフランスと同盟を結んだのかは、天保年間に常陸の海岸に虚舟が打ち上げられたとする話が江戸で瓦版で配布された。赤毛の女性が親書を持って日本に亡命したと考えると、その天保年間の同時期に、あのフランス皇帝ナポレオン1世が、セント・ヘレナ島で亡くなっている。そこでナポレオン1世を世話をしていた女性がいたのは歴史の事実だ。ナポレオン1世が、イエスの家系ともされるメロヴィング一族の血統を求めていたのは事実」


「メロヴィングとは、フランス語でワインの海。赤い夕陽に沈む地中海へ漕ぎ出したマグダラのマリアの一族・・・・・・。そうか! 父さんの研究の中で見つけたあの事実は?!」


「慶喜公は明治時代になって多くの女性との間に子供を何人も作った。その慶喜公の娘は皇族にも嫁いでいる」

 

 玲ちゃんがコスプレしているあの戦車アニメ。

 

「あの少女戦車アニメは、大洗で本当に戦っていたんですね? フランスと幕府。そしてイギリスに負けた薩摩と長州は連合し、倒幕派となった……」


「玲。イギリスに追われたナポレオン1世の血族は、フランスが援軍を出したアメリカ独立戦争絡みで、アメリカの同盟国フランスと、イギリスから移住したアングロサクソン族との関係で、完全にイギリス派のアメリカと、フランス側に忖度するアメリカとある訳だ。第五共和制としての社会主義国であるフランスは、宗教に否定的でありながら、宗教的な遺物を抱えている国だ」


「しかしな。昭和天皇陛下が、昔この守谷の高野に来ようとしていた真の狙いは?」

 父が大きく頷いた。これは事実だ。

「守谷って、一体どういう土地ですか?!」

 楓さんが素直な疑問をぶつける。


「ケヌ。鬼怒。絹。蚕、養蚕の地。不老不死の国ともされる常世の国で生きる蚕の繭の絹がうず高く積み上げられた語源を持つ太秦と、イエス・キリストを意味付ける常套手段と別に、静電気を起こす絹を来た貴族に雷を落とした菅原道真公の社が、下総水海道、常総市の大生郷天満宮として、菅原道真公のご遺骨をご神体としているが、平 将門公に新皇の位記=称号を授けたのが道真公。そして将門公が創建させた高野の海禅寺近くで養蚕が行われた時代を遡り、その蚕の繭から紡がれた生糸で機織りされた十二単を着た貴族に、道真公の死後落雷があった。恐らく平 将門公の遺児とされる茨木童子は京の付近で山賊となっていたらしいから、落雷というよりも復讐されたのだろうな……」


「藤原道長公が最も恐れた相手は、藤原道隆公の庶子であった藤原道宗公。丹波一たんばはじめとも繋がりがあるサンカ中興の祖、乱裁道宗公。道長公に殺されないように家臣と共に山へ捨てられた道宗公の血族サンカと、道長公に仕えた陰陽道宗家の安倍晴明公……」


「陰陽道と暦道。日食を基準にする改暦で、太陽と月が昼間に重なる時、地球と月と太陽の軌道を予測するそれぞれの引力と暦がクリアされる。時差を補正する天体現象と、計都星とラゴラ……」


「ラゴラって釈迦様の子供の名前ですよね? 自分の子供に甘い。釈迦様が説法中に笑みをもらした時に、弟子の中で同調した唯一の存在は、孔雀明王とされる」


「釈迦如来の憤怒尊。優美な姿で憤怒の明王……」


 楓さんが呟く。


「桓武天皇の家系であった平将門公が、関東に作ろうとしていた京の都と、江戸を神田大明神で守護しようとした家康公の計画と、将門公が定めた信仰の中心地、モリヤ……」


「明治天皇の社は、大正5年に東京の明治神宮より守谷に建てられたのだ」

 総理の眼がギラつく。


「此処からが重要だぞ。乃白瑠君。モリヤと聞いてピンと来ないかね?」

 総理が僕に質問をぶつけてくる。


「モリヤ……」

 一同が沈黙する。それはわからないという事ではない。重要な事なので皆押し黙ったのだ。


「私、わかりました……」


「何だい、楓さん」


「エルサレムのモリヤ山の事ですか?」


「そうだ。ユダヤ人の太祖であるアブラハムが、息子イサクを生け贄に差し出そうとした山の事だ」


「イスラム教のアラブ人の祖であるイシュマエルは、アブラムとハガルの子。側室であったハガルが最初にアブラムに生んだ子供であるイシュマエルを長子とすれば、次男とされるイサクは神に奉献されずに済む訳だから、セム族の大祭司メレキゼデクが、イシュマエルをアブラム、アブラハムの子供と認め、セムの家系に加えた事の証明こそ、イサクが助かったという旧約聖書の記述は、神の命令によるメレキゼデグが大祭司の権限で行った事。つまりアラブ人の祖であるイシュマエル12支族をはじめとするイスラムのシーア派とまたスンニー派も含め、イスラムとユダヤ、キリスト教は宗教的な最終戦争への流れが回避される事を、旧約聖書創世記から読み解かねばならないのだよ……」


第十幕 了


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