無口な僕。
さとうたいち
頭の中。
クラスで人気者の前田が、一人ずつ丁寧に聞いていく。
「明日空いてる?」
小さい教室。当然その声は聞こえているが、聞こえてないふりをして、その時を待つ。今ババ抜きをしたら史上最強。そんな顔で。
前田が前の前の席の小関に聞いている。小関はいわゆる陰の方のやつだ。その小関に聞くってことは僕にもチャンスはある。
前の前の席。日にちで言うと一昨日。もうすぐだ。あー待ち遠しくも怖い。聞いてくれ。空いてるぞ。明日。
いや待ってくれ。すごい小関と盛り上がっている。確かに喋ると面白いやつだなぁとは思ってたけど。ひょっとしたらひょっとしちまう。クラスで唯一喋れるやつが、オセロのようにひっくり返って陽になっちまう。あ、でも小関めっちゃ豆知識言ってる。前田も顔引きつってるわ。よくやった小関。
やっと昨日まで来た。前の席。野田さんだ。野田さんは微妙な立ち位置だからな。そんな長くはないだろう。とか言ってるうちに終わったよ。
あーきた。目あったよ。一瞬。うぉーこっち来た。来た。ほんとに来た。緊張がヤバイ。
「明日空いてる?」
「え、え、っとーま、まあ暇っちゃーひ、」
え?いない。気づけば前田は後ろのギャルになれないギャルみたいなやつらのところへ行っていた。
え?一瞬目あったよね?てことは存在は確認したよね?え?小関より下?え?見たうえでこいつはいいやと思われたって事は、街なかのティッシュ配りより下?ティッシュが欲しいときにしか役立たないティッシュ配りより下?ということは付け替え用のクイックルワイパーより下?ということは阿部サダヲより下?いやそれは下だ。
それはそれは下だ。
くそー。聞けよー。前田。前田大然の息子。違うけど。何が足りたいんだよ。優しさ?面白さ?明るさ?いや全部ないわ。全部足りないのかこんちくしょー。カレーで言うとお湯だな。野菜もルーも何も入ってないお湯だな。
無口な僕は、いつも頭の中で喋っている。
無口な僕。 さとうたいち @taichigorgo0822
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