番外編その7 ユッキーのFall in Love 〜ユッキー視点〜

 考えても分からなかった。


 振り返った石井部長を見て、ドキっとしたあの感覚。


 これが一目惚れってやつなのか?


 恋ってやつなのか? 


 放課後……誘われた直ぐその日に顔を出すのもどうかと思ったけど……俺の足は自然と美術部に向かっていた。




 分からないなら確かめればいい。



 それだけの事だ。




 コンコン「失礼します」


 部室のドアを開けると、幻想的な光景が広がっていた。



 開け放たれた窓から吹く風に大きく揺れるカーテン。


 夕日を浴びてキャンバスに向かう美女。


 まるで映画のワンシーンを見ているようだった。




「綺麗だ……」




 思わず心の声が漏れてしまったが、石井部長は全く俺に気付かなかった。


 なんて集中力なんだろう。


 部室には俺と石井部長しかいない。


 俺と部長……二人だけの空間。


 俺は声をかけず、しばらく石井部長を見ていた。


 描くことに夢中になりながらも、ころころ表情を変える石井部長。



 とても可愛かった。



 そして、ようやく目が合った。


「あれ、あれ、あれ、確か君は……」


「はい、昼間中庭で……」


「あ——っ、そうだったね、私が誘ったんだったね、早速きてくれたんだね」


「は……はい」


「うれしいよ」


 石井部長は握手を求めてきた。


 女子と握手することなんてなかった。


 手を繋ぐ事だって、それこそ小学校の運動会以来だと思う。


「よろしく、石井だよ」


「幸村です……よろしくです」


 石井部長の手は、とても小さくて、とても柔らかくて、とても冷たかった。


 そういえば、手の冷たい人は心の温かい人だって話しを聞いたことがあるけど、石井部長はどうなのだろうか。


「丁度良かった、せっかく来たんだし、モデルになってくれない?」


「も……モデル、俺、モデルなんてやったことないんですけど」


「あ——大丈夫、私がちゃんと指示をだすから」


 ……モデルか。


 イマイチよくわかってなかったけど、俺は石井部長のモデルを引き受けた。



 でも、これが恋に落ちる決断だった。



 ————————


 【あとがき】


 まさかのモデルきっかけ!


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