番外編その6 ユッキーの恋愛 〜ユッキー視点〜
恋愛なんてただただ面倒なだけだと思っていた。
人が人を好きになる。
その感覚自体、よく分からなかった。
俺が鳴を好きなのは恋愛じゃないってのは分かる。
男同士だから。
でも、俺が愛夏のことを好きなのはどうなのだろうか?
抱きしめたり、キスしたりしたいなんて事はこれっぽっちも思わない。
だからと言って愛夏に魅力がないわけではない。
クラスでも男子に人気があるし、可愛いとも思う。
愛夏のことは好きだ。でも皆んながよくいうトキメキみたいなのを感じたことはない。
皆んな俺のことをモテると勘違いしてるらしく、よく恋愛相談をうける。
残念ながら相談したいのは俺だ。
恋や愛がどんな感情なのかマジでしりたい。
分からないだけで、俺も思春期だから、恋愛自体には興味はあったりする。
***
それと話は変わるが俺は焦っていた。鳴がギターを再開したからだ。
あいつは挫折と失恋を乗り越えて夢中になれるものを見つけた。
だが俺には何もない。
親友のご活躍は嬉しくもあるけど、妬ましくあるのも本音だ。
恋愛してみたい。
夢中になるものを見つけたい。
柔道では俺に叶わなかった鳴が、俺を置いてどんどん遠くに行ってしまう。
そんな寂しさにも似た感覚が俺にはあった。
***
昼休み。
俺はボーッと中庭を眺めていることが多かった。
そしてここ2、3日中庭の景色に変化があった。
リボンの色から察するに3年生だろうか。
ひとりの女生徒が昼休みの間、ずーっと何かをスケッチしているのだ。
その光景は翌週になっても続いていた。
俺は何をスケッチしているのかが気になって直接聞いてみることにした。
「あのー」
「うん?」
振り返った彼女をみて俺は、ドキっとした。
なんだ……この感覚?
今までに体験したことのない感覚が俺を襲った。
「毎日何を描いてらっしゃるんですか?」
「見るかい?」
彼女はスケッチブックを差し出してくれた。
スケッチブックをめくると飲み干したコーヒーの紙パックが描かれていた。
「紙パック?」
「そうだよ、こいつは潰し方次第で色んな表情をみせるだろ?」
「そうですね……でも、なんで中庭で?」
「木陰があるし、砂がつくからだよ。砂がまたこいつの表情を変えてくれる。描いていて飽きないんだよ」
なんか変わった人だ。
「楽しいですか?」
「楽しいよ、興味があるなら今度部室に来なよ」
「部室?」
「ああ、私は美術部部長の石井だ。いつでも遊びに来てくれ、歓迎する」
「ぜ……是非!」
夢中になるものが欲しかったのだろうか。
それとも石井部長に興味があったのだろうか。
——放課後、俺の足は自然と美術室に向かった。
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