番外編その8 ユッキーの初恋 〜ユッキー視点〜

 俺はモデルを安請け合いしたことを後悔した。


 石井部長の指示通りに、うまくポーズを取れなかったからだ。


 やってみると案外大変だった。


「右手をもうちょっと下に」


「こうですか?」


「うーん、もうちょっと開いてくれないかい」


「こうですか?」


 さっきからこれの繰り返しだ。


 まあ、モデルとして役になっていないことは置いといて、愛夏以外の女子とこうやって何かするのは初めてだ。なんか……いいもんだと思っている。


「よし、私がやってみせるから、君もやってみてくれ」


 石井部長がお手本のポーズを取ってくれた。


「え! それ全然違うくないですか?」


「おろ、そうかい?」


「ちょっと写真撮ってもいいですか?」


「ああ、いいよ」


 撮った写真を石井部長に見せてあげた。


「おろ————っ?」


「やっぱ、イメージと違いますよね?」


「ああ、そうだね……モデルも大変だね。身を以て知ったよ」


 それは俺も知りました。


 それからしばらく沈黙が続き、石井部長が何やら考えている様子だった。


「よし、もう一度ポーズを取ってもらってもいいかな?」


「いいですよ」


 さっき石井部長に指示されたポーズをもう一度とってみた。


「ちょっと失礼するよ」


「え」


 石井部長の手が俺の顔に触れる。


 石井部長の手が俺の腕に触れる。


 石井部長の手が俺の足に触れる。


 そして、石井部長が動くたびに、いい匂いがした。


「よし、そのまま動かないでね」


 石井部長が少し離れてポーズを確認する。


 そしてまた石井部長が俺に近づいてきて、俺の身体に触れ、微調整をする。


 なんだろう……このドキドキする感覚は。


 石井部長が俺の身体に触れるたびに鼓動が早くなる。


 石井部長が俺の身体に触れるたび胸が苦しくなる。


 でも、もっとこの時間が続いてほしかった。


 モデルを引き受けて後悔したってのは取り消しだ。


 モデルを引き受けてよかった。



 ——そしてまたポーズが決まった。


 石井部長が確認の為に、俺から離れた隙に、少し首を動かした。


 イメージが違えばこの時間がまだ続くと思ったからだ。



「おっ! バッチリだねそれだよそれ!」


 俺は余計なことをしたようだ。


 


 ——この後、俺は美術部に入部した。


 鳴や愛夏の相談をうけていたからこれが初恋だとすぐに分かった。


 あいつらの言う通り胸は苦しいけど……悪くない。



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