第8話

今日は遂に待ちに待った月城さんとのデート当日。

俺は待ち合わせ場所である駅前の犬の銅像の前に立っていた。


ここは近くに大きなデパートもあり人通りが多い。そのせいかよく待ち合わせに使われており、周りを見渡すと俺以外にも沢山の人がいた。

俺と同じように誰かを待っている人、複数人の大学生グループにカップル。日曜まで仕事があるのかスーツ姿の男性の姿もあった。

社会人というのは大変なんだな。社会人になったら俺もどうなるか分からないし、学生の内に青春を謳歌したい。


「まだこんな時間か」


スマホで時間を確認するとまだ9時30分だった。約束している時間は10時だから30分早く来た事になる。

遅刻したくないから早目に家を出たけど早すぎた。近くのコンビニで時間を潰すにも微妙な時間だし仕方ない。適当にゲームでもしながら待ってるか。


それから30分後。

待ち合わせ時間になったけど、まだ月城さんは来ない。

少しぐらいの遅刻は予想していたし問題はないけど、連絡した方がいいのだろうか?

でも急かすような事して器の小さい人間だと思われるのは嫌だ。連絡はもうちょっと待ってからするか。

とりあえずやっていたゲームのスタミナを使い切ったので別のゲームを起動する。


「…………」


更に待つこと30分、まだ月城さんは来ていない。

さすがに遅すぎる。まさかデートの事を忘れているのか?

……いや、さすがにそれはない。昨日ちゃんと待ち合わせの確認をしたし。

まさか寝坊? 俺も休みの日だと夜更しして昼過ぎまで寝る事がある。

そう考えると別に不思議というほどではないが……。

でもデートの前日に夜更しするか? もししていたとしたら、月城さんは俺とのデートに何の価値も見出していないことに。

……それもないはず。俺との繋がりがなくなると月城さんも目的も果たしづらくなる。

そうなると、どうして……?

考えていても仕方ないし連絡するか。そう思ってスマホを操作していたら急に後ろから声をかけられた。


「ごめんね、成瀬くん。遅くなって。待った?」


そこに立っていたのは月城さんだった。

ただの遅刻か。来なかったらどうしようかと思った。


「うん、待った」


「そこは普通『今来たところだから大丈夫』じゃないの?」


「待ち合わせ時間から30分も経っているのに『今来たところ』は有り得ないだろ。逆に問題だ」


「そうかもだけど、そこは男として気を使うべきだと思うよ。デートなんだから」


我ながらチョロいと思うが、この言葉に少し嬉しくなってしまった。

経緯はどうあれ少なくとも月城さんは今日の事をちゃんとデートとして認識してくれている。

告白してから今日まで月城さんと仲良く出来るように努力してきた成果が出ているのだろう。


「分かった、次から気を付ける」


今回は明らかに月城さんが悪いが、確かに言う通りだ。

男としてフォローすれば良かった。そっちの方が好感度が上がる。

まぁ、次からだが。


「で、何で遅刻したの?」


「気を付けるって言って、すぐにそれ?」


「月城さんの反応次第で対応をどうするか考えようと思って」


「なるほど。男だからって理由だけで面倒臭い相手をフォローするのは嫌だものね」


すぐに俺の言葉を意味を理解する月城さん。

自分が面倒臭いという自覚はあるらしい。


「寝坊です」


「……寝坊?」


さっき否定したはずの答えが出てきた。

もしかして俺が思っているより今回のデートを重要視していないのだろうか?


「寝る前にちょっとだけギャルゲーしようと思ったら止まらなくなって」


乙女ゲームじゃなくてギャルゲー。

分かっていたが男よりも女の方が好きらしい。

可愛い女の子が可愛い女の子を好きというのは萌える。個人的な趣味で言えばギャルゲー好きの女の子はタイプだ。

……そのせいで口説く難易度が上がっているけど。


「なるほど、そういう理由か。それなら仕方ない」


ここで責めても仕方ない。それより話題を広げて月城さんと仲良くなった方が効率的だ。

それに俺も経験があるから文句を言いづらい。


「それ何てタイトル?」


「もしかして成瀬くんもギャルゲーするの?」


「まぁ、ちょっとだけ」


「へぇ、そうなんだ。ちょっと意外」


そう言った月城さんは少し嬉しそうだった。

今まで共通の話題を持つ友達がいなかったのだろう。だから語れるのが楽しいんだ。

それにしてもデート前にギャルゲーで盛り上がるってどうなんだろう?

何の話題もないよりはマシだけど、何かが間違っている気がする。


「じゃあ、今から秋葉原に行ってお互いのオススメのギャルゲーでも紹介する?」


ある程度語り合ってからそう提案してきた。

スマホを確認すると、もう20分ほど経っていた。時間が過ぎるのが早い。このまま語っていても楽しいけど、それでは駄目だ。

友達として仲良くなる事は出来ても恋人にはなれない。


「秋葉原か……」


それに秋葉原には別の問題がある。

今日の本来の予定である皐月とのデートも秋葉原だ。俺は断ったけど、一人でも行っているはず。

デート中に妹と接触するのは避けたい。


「駄目?」


「駄目じゃないけど……」


思わず言い淀む。

代わりの案が思い付かない。もちろんちゃんと事前にデートのプランは準備してきた。

でも考えたのは映画とかどれも一般的なものばかり。秋葉原でギャルゲー巡りする以上に盛り上がれるとは思えない。


「……いや、問題ない。秋葉原に行こうか」


少し考えてから結論を出す。

ここで付き合なくても仲良くなれれば次がある。だったら、そっちの方がいい。


月城さんが駅の改札口に向かって歩き出したのを見て後ろに続く。


「あれが月城楓さん。確かに可愛いけど、話に聞いていたより明るい人みたい」


「うん、あんな月城さんは私も初めて見た」


「ふぅーん、そうなると本格的に怪しいね。これは本格的に調べないと」


この時の俺はまだ気付いていなかった。後ろに迫る二つの怪しい影に。


「後、デート開始まで長過ぎ。そろそろ飽きて帰ろうかと思った」


「そこは我慢してね」

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俺が好きになった女の子は百合でした 二重世界 @cool

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