第7話
「これはマズイな…」
ついにデートが翌日に迫った日の夜、俺は悩んでいた。
これは明日のデートが成功するかどうかに大きく影響する。どうしたものか。
「服がない」
当日になって準備に時間がかかりデートに遅刻するなど最低だ。そんな事になったらデート以前の問題である。
だから前日の夜に準備をしていた……のだが、そこで新たに別の発生した。
そうデートに着ていく服だ。
俺はハッキリ言ってオシャレに興味がない。親に貰う小遣いだってほとんどが漫画やゲームに消える。
持っている服はセールや古着屋で適当に買ったものばかり。普段なら気にしないが初デートでこれは致命的だ。
特に俺は月城さんと付き合っている訳ではない。何とかして今回のデートで口説かないといけない。
それなのに服装なんて基本的な事で好感度を下げるのは下策と言わざるをえないだろう。
こんな事なら昼に服を買いに行くんだった。
……オシャレな服を買う金なんてないけど。
「どうしたの、お兄ちゃん。そんな悩んだ顔して。らしくない」
「失礼だな妹よ。兄だって悩む事ぐらいある」
気付くと皐月が後ろに立っていた。
ちゃんと部屋の扉の鍵は締めていたはずなんだが。いくら俺が明日のデートの事で集中していたからって、気付かれずに部屋に侵入出来るとは思えない。
俺の妹は忍者か何かか?
まぁ、いつもの事なので気にしない。
「で、何に悩んでいるの?」
「皐月に教える必要は――」
「お兄ちゃんが服に悩むなんて珍しいね。私とのデートの時だって適当なのに」
「やっぱり気付いていたのか!?」
当たり前と言えば当たり前なので不思議でもなんでもないが。
それでも妹にこういう悩みがバレるのは恥ずかしいものがある。だから出来るだけバレないように気を使っていたのに。
完全に無駄だった……。
「コーディネートとか考えるだけ意味なくない? お兄ちゃんの持っている服、同じようなのしかないし」
「そうなんだけどな……」
皐月の言う通りだ。いくら考えても同じような服装にしかならない。
だから困っているんだ。
誰かから借りるか? 桐生なら沢山服を持っていそうだ。
……いや、駄目だな。体格は近いから借りようと思えば借りれるだろう。
でもあいつ、微妙にセンスがダサいんだよな。
格好つけようとして、逆に失敗している感じ。それなら背伸びせずに普段着の方が良い気がする。
他にセンスが良い知り合いとなると……遥ぐらいしか思い付かない。
論外だな。さすがに女装はない。
月城さんが相手だしウケる可能性はありそうだけど、人として大事な何かを失いそうな気がする。
「だったら遥ちゃんにでも服借りる?」
「何で当たり前みたいにその提案が出来るんだよ!?」
「え、じゃあ私の服? やめた方がいいよ。私もお兄ちゃんと一緒で服には無頓着だし」
「そういう意味じゃねぇよ!」
「何を騒いでいるの?」
気付いたら皐月だけでなく遥までいた。
遥は別に神出鬼没の忍者という訳ではない。皐月が鍵を開けたままにしていたみたいだから普通に入ってきたのだろう。
「お兄ちゃんが明日のデートに着ていく服が困っているみたいなの。それで遥ちゃんの服を借りようって話になって」
「私の服を……。それはさすがに止めた方が良いと思うよ……」
変態を見るような目をする遥。
ドMな人からすればご褒美かもしれないが、あいにく俺にそんな趣味はない。
幼馴染にそんな目で見られるのは普通にショックだ。
「そんな訳ないだろ。幼馴染の服で女装してデートに行く変態はこの世に存在しない」
「そうだよね」
「だから妹の服で女装すると」
「少し黙ろうか」
安心した様子だった遥だが、皐月の一言の表情が戻る。コロコロと表情が変わる幼馴染は可愛いが、そんな事は言っていられない。遥は真面目なのでこの手の冗談の耐性が少ない。
とりあえずちゃんと説明すると簡単に納得してくれた。遥は素直で助かる。
「服かぁ……。別に普通で良いんじゃない? 下手に格好つけると失敗するから」
遥も一緒に考えてくれる事になったのだが、皐月と違ってマトモな意見を口にする。
本当、二人は色々な意味で正反対だな。どうして仲良くできているのか不思議なほどに。
「いやいや、分からないよ。お兄ちゃん、意外と女装が似合いそうだし」
「何でそんなに女装させたいんだよ?」
普段ならアッサリと諦めるのだが今日はしつこい。何か理由があるのだろうか。
「実は最近男の娘に目覚めまして」
「だから兄で実験したいと?」
「うん」
なんてはた迷惑な。変態として更にレベルアップしたのか。
男の娘の良さは俺も理解しているが、それを兄で実験しないでほしい。ちゃんと女装が似合う小柄で可愛らしい男の子を探してこい。
「遥ちゃんだって見たくない、お兄ちゃんの女装」
「え、いや、それは……」
「遥を誤った道に引き込むのはやめろ」
頼むからやめてほしい。
遥は俺の周りの貴重な常識人。出来ればそのままでいてほしい。
「ちょっと興味あるかも……」
「嘘だと言ってくれ!」
少し考えてから顔をポッと赤らめた。既に毒され始めていたか。
可愛いけども可愛いけども!
……このままではいけない。大事な幼馴染のためにも何とかしないと。とはいえ、どうしたものか。俺も妹と同じ側の人間なので一般人の感覚というものがイマイチ分からない。
というか、皐月は何の用があって俺の部屋に来たんだ?
別に漫画を借りに来た、という様子でもないし。
遥は今日も泊まっているから、皐月に何となく付いて来ただけだろう。
気になるところだったが、今はそれよりも暴走気味の皐月を止めるのが先決だ。
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