第5話

 「さても先刻、この寺の門前にて通りすがった坊様は、どこに行かれたのであろうか。思えばこの里にては見なれぬ人であったが。はて、あの御堂に人影がある。もしや先刻の坊様ではあるまい・・・・・・おう! これはこのような所に夜具をのべられるか、お坊様」

 「最前の里人か。ちょうど良い所においであった。ちと、尋ねたきことがあるのですがな」

 「尋ねたきこととは?」

 「かつてこの地に住まわれた、業平と紀有常の娘について。何か知る所はございますかな」

 「はて。我らも口伝えでしか耳にしたことはございませぬが、知る所だけならばお話申しましょう」

 「かたじけなきこと」



 「―――と、言うことは。御坊は最前、その紀有常の娘の霊にお遭いなさったと?」

 「不思議なることです」

 「さては、御坊の徳の為す所でございましょう。しからば今宵はこの寺にて、有常の娘の亡魂をお弔いになっては如何でしょう? 何か事あらば、我らもお力を貸しますゆえ」

 「有り難きこと」







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