最終話:旅立ち

 選抜戦から日が経ち、翌月になる。


 今日はハリト団にとって特別な朝。

 王都留学へ出発する日なのだ。


「うーん、荷物はこんな感じかな?」


 マリエル邸の自室で、オレは荷物の自分の最終確認をしていた。

 大きな背負い袋の中には、勉強道具や着替えが入っている。


 他にも必要品は荷あるが、王都で購入することにした。


「王都か……エルザ、元気にしているかな……」


 少し前に突然、姿を消した幼馴染のことを思い出す。


 見舞いに行った後に、エルザは病室から姿を消してしまっていたのだ。

 オレの置き手紙には『ハリト、ありがとう』と一文だけ書かれてあった。


 おそらエルザは責任を感じているのかもしれない。

 心の整理が付いていないのかもしれない。


 だからオレは今回、後を追わないことにした。

 いつか彼女が笑顔で戻ってくることを、信じて待つことにしたのだ。


「ふう……よし、それじゃ待ち合わせ場所にいくか」


 少し早いが、待ち合わせ場所に向かう。

 マリエルとミーケははまだいない。


 二人とも準備が終わったら、やってくるはずだ。

 屋敷の中で少し待つ。


「お待たせしました、ハリト様」


「待たせたニャー!」


 少し経ってから、マリエルとミーケがやってきた。

 二人とも女の子らしい背負い袋を、背負っている。


「ん? ミーケは随分と荷物が少ないね?」


「ん? そうかニャー? これで多い方ニャン。なんだったら裸一貫ででも大丈夫ニャン!」


「あっはっはは……さすがに王都を裸で歩いていたら、憲兵さんい捕まっちゃうよ、ミーケ」


「そうニャん? 王都も面倒くさそうニャん」


 猫獣人であるミーケは、服や物に固執しない。

 どこでも自由に生きていける、自然児なのだ。


「そういえばマリエルも、そんな少ない荷物で大丈夫?」


「はい、ハリト様。私は王都に実家があるので」


「あっ、そうか」


 たまに忘れてしまうけど、マリエルは王女様。

 王都生まれの王都育ち。

 今回は里帰りみたいな感覚なのだ。


「よし、それじゃそろそろ出発しようか?」


「はい!」


「ニャー!」


 荷物の最終チェックも終わったので、玄関ホール向かう。

 待っていたのは屋敷の皆さん。


 まずは屋敷の女主イザベーラさんに、挨拶をする。

 イザベーラさんも後日、王都に応援に来てくれるという。


 メイドさんたちと執事の人たちにも、今までことを感謝していく。


 門番の剣士さんにも感謝だ。

 今後のマリエルのことを守ることを、オレは誓う。


「みんな、ありがとニャー!」


 あっ、そういえば。

 ミーケが猫獣人であることは、今では屋敷の人は知っている。


 以前、猫好きのイザベーラさんに抱っこされた時に、正体がバレてしまったのだ。

 でも屋敷の皆は、ミーケのことを大歓迎。


 むしろオレよりも猫獣人のミーケの方が、人気があった。


「みなさん、ありがとうございました! また戻ってきます!」


 今回は短期留学だが、何ヶ月かかるか分からない。

 オレは最後に後ろを振り返り、屋敷の人たちに挨拶をする。


 その後、オレたち三人は屋敷から、学園の校門へと歩いていく。

 遠目に、校舎が見えてきた。


「短期留学だけど、なんか、寂しいニャー……」


「そうですわね……」


 通い慣れた学び舎を目にして、ミーケとマリエルは感傷的になっていた。

 次は王都学園に通うことなる。


 年頃の少女にとって、思い出の地を離れるのは辛いことなのだ。


「ん? なんだ?」


 ――――その時であった。


 オレは何かの声に気が付く。

 校舎の一室から、何かの叫び声が聞こえてきたのだ。


「もしかして……あれは、クラスの皆⁉」


 教室の窓から顔を出してきたのは、クラスメイトたち。

 まだ授業中だというのに、全員が外を向いて手を振ってきたのだ。


「マリエル様! 頑張ってください!」


「王都学園でも負けないでください!」


「ミーケちゃん、ファイトだぜ!」


「オレたちキタエル学園の代表として、頑張ってくれよ!」


 クラスの皆は大きな叫んできた。


 キタエル学園一年の代表者であるオレたちの背中を、激励という声で押してくれたのだ。


 そして校舎からの声援は、更に広がっていく。

 他のクラスの人たちも、窓から声援を送ってきたのだ。


「おい、ハリト! お前も頑張れよ!」


「王都のエリート連中に負けるんじゃないぞ」


「オレたちの分まで頼んだぜ!」


 一年の全クラスの人たちだ。

 誰もが激励の声を送ってきた。


 そういえ選抜戦以降は、他のクラスの人とも急に仲良くなった気がした。

 本気で剣を交えて、他校生を倒したことによって、オレのことを仲間として見ていてくれたのだ。


「みんな……まだ授業中だというのに……」


 おそらく全員、後で先生に怒られるであろう。

 だが叱られるのを覚悟までして、皆は激励してくれたのだ。


「まったく、もう……」


 思わず胸が熱くなる。

 こんな熱い想いは初めて。


 キタエル剣士学園に入学して、本当に良かった。


「ふう……さて、皆の分まで、王都で頑張ろう!」


「そうだニャン、ハリトたん!」


「ですわね! 皆さんの想いを胸に!」


 もはや三人とも感傷的にはなっていない。


 仲間たちから託された想いと声援を受けて、覚悟を決めていたのだ。


「それじゃ、再出発前にハリトたん、例のアレをやろうニャン!」


「えっ、アレを? 皆が見ている、こんな場所で⁉」


「ですわね! 景気づけに頼みます、ハリト様!」


 いつもだったら恥ずかしいが、今だったらやれる気がする。

 三人で円陣を組む。


「そうだね、それじゃいくよ……『ハリト団、ファイト!』」

「「「おー!」」」


 こうしてオレたち三人は新たな地、王都に向かうのであった。



 ◇



 ◇



 ◇



 ◇


 そんなハリト団一行を、更に遠くから見つめている一人の少女がいた。


「ハリト……私も、もっと強く……自分の負の部分に二度と負けないくらいに、強くなってくるから……」


 かつて【聖女】と呼ばれた少女は、王都とは別の方角へと旅立つ。


 その視線の先にあるのは、伝説の【剣神】が住むと言われる紅蓮山脈。


「またハリトに会えるようになった時は……私のこの気持ちを伝えるんだから……」


 こうしてエルザも過酷な修行へと旅立つのであった。














 ◇








 ◇



















 ◇






 最後まで読んで頂きありがとうございます。





 なんとか今のボクで書けるところまで、書ききることが出来きました!



 このお話は、ここで一度完結になります。



 カクヨムのコンテストに応募中なので、続きの予定は結果しだいとなります。



 応援よろしくお願いいたします。





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パワハラ幼馴染の聖女を絶縁、【一万倍の次元】も突破、最強剣士は学園生活を満喫する ハーーナ殿下@コミカライズ連載中 @haanadenka

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