18話 運命の日


「なんで牢屋に入れられてるの?」


「仕方ないだろ。お前、王城に不法侵入したんだからな」


「したけど! でも、変な組織を潰す事が出来たんだから、チャラどころか、報奨金を払って欲しいぐらいなんだけど!?」


 気がつくと牢屋に入れられてました。

 目覚めると衛兵がどこかに行き、第三王子を呼んできた。

 で、私は鉄格子に捕まって文句を言い放ってる最中。


「後、騎士団長とかいう人に、斬られて、半分死にかけたんだから、治療費とか諸々払って欲しいな!」


「……騎士団長に文句があるなら、自分で言え。俺はあの人、苦手なんだよ」


「あ。分かる。顔がダメだよね。私も怖いから、あの人には直接言えないや」


 その前に、もう二度と会いたくないです。

 「阿頼耶識」使用して逃げられないってボスだよ。RPGで言うと、逃走系スキルが使用できないイベント系ボスに近い。

 逃げられないなら遭わないようにするだけだ。

 デウス・エクス・マキナに言って半径1㎞圏内に近づいたら、警告して貰うようにしておこう。

 それよりも気になるのが、なんだか外で起きている戦闘音。

 かなりの轟音だけど、第三王子は気にしている様子はない。

 不思議に思ったので訊いてみた。


「ああ、あの轟音は、「レヴァーテイン」のエヴァンジェリンと、騎士団長のユタ=シヴァが戦ってるんだよ」


「なんで!?」


「あー、姉弟の代理戦争だ」


「? どういうこと?」


「知らないのか。軍師のユタ=エルと騎士団長のユタ=シヴァは、姉弟だぞ」


「え。あの2人って兄妹なの!?」


「ああ。でも、軍師はあくまで知謀が武器。騎士は武威が武器。そこでエヴァンジェリンがユタ=エルの代理で戦うのが慣例なんだ」


「なに、その慣例――」


「遭わないように案内するつもりだったけどなぁ。通り道でバッタリと遭遇したんだよ」


「へぇ。ん? エヴァさんは王城に来てたの。なんで?」


「お前を引き取って貰うためだよ。一応、「レヴァーテイン」の関係者って扱いだからな」


 と、いうことは、このバトルって私の所為。

 ああああ――。

 エヴァさんに、どう謝ろう。


「……あまり気にすることないぞ」


「なんで?」


「まぁ、人には色々とあるってことだ。2人の闘いはあまり長くはかからないだろうから、終わったら迎えに来ると思う。俺は用事がある」


「用事?」


「――婚約者の父親と会うんだよ」


「へぇ。婚約者の父親と会うんだ。えっと、婚約者は誰だっけ?」


「トュテエルス公爵家だよ。現当主は政治色が強すぎて好きじゃないけどな……」


 頭を掻きながら面倒くさいそうにしながら牢獄から出て行く第三王子。

 トュテエルス公爵家。

 私の、この世界の、実家。

 今、牢屋にいるためか、あの家の地下牢に入れられ、虐待されていた時の記憶がフラッシュバックしてしまい、膝から崩れ落ちてしまう。


「はぁ、はぁはぁはぁ……」


《心拍数上昇。精神的圧迫過多》


 ふらふらとしながら立ち上がる。

 大丈夫。もう、私は、あそこから解放された。逃げ出した。

 デウス・エクス・マキナ。第三王子が、糞親父と会うって言ってたけど、王都内に居るの?


《否。現在、領地から王都へと向かっている途中。恒星のデータから、おおよその現在地を確認済》


 そう。なら、仕返しにいこうか。

 タイミング良く、私は、私を吸収することで、前世と同等の力を回復してるんだからね。


《是》


 私は目標を見据えて、空間に穴を開けて牢獄から出た。

 脱獄罪かなぁ。今はそんな事よりもやらないといけない事がある。

 これはケジメだ。しないと、私は、この世界で先に進めない。

 空間を通ると、そこは整備された街道だった。

 遠くから馬車が数台、こちらに向かってくるのが確認できた。

 ――公爵家に纏わる全てを鏖にするほど、私は修羅には落ちてない。

 あくまで目的は、公爵家の現当主だけ。

 メイドの記憶から父親がどんなのかは把握できている。

 馬車の車輪を破壊して、馬車を転倒させる。


《承諾》


 返事が返ってくると同時だった。

 馬車の車輪は突如として壊れて、馬車は簡単に転倒した。

 併走していた護衛の騎士達は、慌てて馬を止めて、馬車に駆け寄ろうとしたが、私はそれを止めさせた。

 以前したのと同じように、ヨクトマシンを寄生させて人体をコントロールした。

 ……あまり使いたくないけど、しないと、闘いになって殺すことになりかねない。

 私は馬車の扉を蹴破って出てきた男を見る。

 間近いない。メイドの記憶にある姿と合致する。

 ギデオン・ファーン・トュテエルス

 私の、実の父親だ。


「何が……何が起こった!」


「久しぶり? それとも初めまして? どちらでも良いか」


「お、お前の仕業か! 私が誰か知っていての襲撃か!!」


「知ってる。ギデオン・ファーン・トュテエルス。私の、父親」


「お前が、私の娘だと。何を言って」


「最後に会ったのは、私が生まれたときだから、見ただけだと分からないか。私は、アリティナ。一応、貴方の娘の、アリティナ・ディズム・トュテエルスです」


「――アリティナ。アリティナだと!! 馬鹿な。あそこに閉じ込めているハズだ!!」


 10日ぐらい前にあそこから脱出してるんだけどね?

 閉じ込めていた私が逃げ出したことを、どうやら目の前の男には報告してなかったみたい。そもそも私がどうなってようと興味はなかった事だろう。

 私は手に持つ黒い剣を一振りする。

 馬車は剣撃で粉々に吹き飛んだ。

 

「あ、アリティナ。お前は、じ、実の父親を殺す気か! 親不孝者め!!」


 ハハハ、笑わせてくれるなぁ。

 親不孝者?


「親らしい事を何一つとして私にしなかった癖に何を言ってるの?」


「お前を10年以上、殺さずに生かしておいただろう!」


 思わず手に持っている黒剣で、コイツの頬を斬った。

 頬からは血が流れ、股からは尿の匂いがする。たったこれだけで失禁したんだ。仮には軍務を仕切る公爵家としてどうなの?


 それにして殺さずに生かしておいた、ね

 地下牢という不衛生な場所。食事はまともに運ばれてこず、来たら床に投げ捨てられたのを、頭を踏まれ、手を使わずに食べさせられる日々。

 来たメイドやバトラーは、平気で私を殴る蹴るのフルコース。

 ……これが、こいつのいう親らしい事だというのなら、それに対して子供として感謝をしないといけない。

 特大の感謝を込めて……殺す。


 黒剣を振り上げ、振り下ろす。

 こんなのでも私の父親だ。せめて苦しまないように、殺そうと思う。

 ――自分の父親を殺すというのに、なんにも感じない。感じるわけがないか。

 私自身、こいつを父親だとは認識してないのだから。


 黒剣を振り下ろし、コイツを一刀両断にしようとした所で、私は斬るのを止めて、防禦態勢に入った。

 直後。剣に衝撃を受け、私は後方に跳ばされた。

 ……手が痺れる。なんて膂力。

 私は介入してきた少女を睨んだ。

 白銀色の髪に、私にそっくりな顔立ち。手には黄金色に輝く白い剣を持っている。


「初めまして、お姉様。妹のソフィア・ナイルス・トュテエルスです」






 時は10日ほど前。

 アリティナが前世の記憶が蘇った当日に遡る。

 ソフィアがアリティナと邂逅するまでの物語になる――。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生したら地下牢に幽閉された令嬢でした。また実の妹も転生者で、しかも平行世界の「私」でした。 華洛 @karaku_f

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ