17話 自殺
右肩から心臓付近まで割けていた身体は、傷跡一つ無く回復した。
右腕を伸ばし、グーパーする。特に異常は感じない。
本当、デウス・エクス・マキナ様々だね。居なかったら、出血多量かショックで死んでいたと思う。
――それにしても、幾らエネルギー調節したとはいえだよ。「神ノ太刀」が打ち負けて、ヨクトマシンで出来た羽と身体もダメージを受けるなんて。
もう二度とアレとは戦いたくない。
次に会ったら、全面降伏の土下座をしよう。確か両手を開いて土下座すればいいんだったかな?
「お前……何者だ」
「そのセリフ。この2日ほどで何回も聞かれて、同じように答えてるんだけど? ちょっと変わっている少女だってね」
「ちょっと……?」
「そう。他の人より、ほんの少し変わってるだけ」
第三王子は首を傾げて言った。
私なんて少し変わってるだけだ。世の中には、変に極振しているのが大勢居る。
そんな奴等からすれば、私なんてのは少し変わっている分類となる。
「お姉ちゃんの羽。黒くてとても綺麗だね」
「うん。凄く――綺麗です」
「ありがとう。でも、私なんかより君たちの方がずっと綺麗で可愛いよ」
この子達は、第三王子の妹と弟らしい。
――兄に似ず、このまま可愛らしく成長して欲しいと願わずにはいられない。
今、デストロイモードのままなのは、エネルギー吸収は、こつちの方が効率が良いからだ。エネルギー吸収の外部機器みたいなものだね。
「で、なんで王宮に居たんだ?」
「説明するの面倒くさい。私の事をずっと監視していた人に聞けばいいんじゃない」
「今、居るのか?」
「居るよ。――と、言っても私を監視してた人じゃなくて、王子様とこの子たちを監視している人だけどね。情報共有はしてるんじゃない? 知らないけど」
逃げるために、ランダムショートワープをした事で、私を監視していた人はたぶん見失ったんだと思う。
「――一応、「陰」は影から監視とかする存在だからな? 直ぐに姿を見せるもんじゃないだろ。肉の代金だと思って話せ」
「言ったら肉に関しては、一切追求しない?」
「ああ、しない。そもそも奢りだって言ったろ」
「王族とか権力者の奢りほど怖い物はないの。……まぁ、説明と肉の奢りが相殺されるなら、面倒くさいけど話しても良いかな。面倒くさいけど」
「そんなに複雑なのか?」
「ううん、単なる喋るのが疲れるから面倒なだけ」
元引き籠もりのニートのぼっちを嘗めないでよ?
人と長時間話すなんて本来は無理だからね。
まぁ肉の件がなくなるなら、ハンターとしてあまり仕事しなくてもいいかな。エヴァさんに迷惑かけたお詫びの品を買うぐらいで、今は済みそうだ。
「ハンター試験を受けてたらギルド職員が罠を用意していた事で絶望を喰う悪魔に遭遇して戦い勝ってギルドに帰ると罠に嵌めてくれたギルド職員が狼狽えていたので後をつけて黒幕達の場所を突き止めて空間凍結。テロ計画を立ててたみたいだから凍結した空間を王の間に持って行って計画を漏らしたところで捕まるように調節したの。見届けて帰ろうとしたら顔が恐い騎士にエンカウントして「天断」って業をくらってランダムショートワープで此処に逃げてきた。以上、終わり」
疲れたぁ。
たぶん前世を含めて過去最長で喋ったと思う。
「……お前、マジか。色々と言いたいが、良く騎士団長の「天断」を受けて生きてたな」
「半分死んでたようなものだけどね。二度と会いたくない」
そもそもヨクトマシンを断ち切るなんて……。
前世でもそれだけは体験したことなかつたなぁ。
この世界、生身でチート判定していいのが多くない。
って、さっきから無言だけど、デウス・エクス・マキナ大丈夫?
《是。システムメンテナス。異常は感知できず正常》
どうしたの?
何かいつもと雰囲気というか感じが違う気がするけど?
《我たちが検討した結果。現状維持では、万が一の時に能力が発揮できないと結論。早急に我を完全に近い状態にする必要有》
必要有りって言っても……。
どうすれば良いの。
殺人とか惑星に影響がある事はしないよ。――デウス・エクス・マキナを失うなら、最終手段として考えなくはないけどさ。
《否。長期的プランとして考えるなら一考。今は直ぐに必要》
今すぐって無理じゃない?
《…………手段有》
あるんだな。
どんな手段?
《――――汝の、前世。阿頼耶識輝夜をこの場に召喚。それを我と融合。ほぼ完全な状態になれると結論。元々、汝の構成は9割方は我で構成されている故。急な転生により1割未満のバックアップ用の我が魂に付着してきてるにすぎない》
……私を、ここに召喚?
《是。融合した場合、ただでさえ汝は前世に引きずられている事が多々。更にそれが増す可能性大。新しい人生を歩むに当たり、それは邪魔になる公算》
別にいいよ。それはさ。
ただ、一つ訊かせてほしいんだけど、私が「転生の書」を使うときに止めなかったのは、私の――■■■■の出来事を完全に切り離すため?
結局、阿頼耶識輝夜と名乗っても、だいぶ引きずってたのは自覚してるよ。
《……》
でも、■■■■も阿頼耶識輝夜もアリティナ・ディズム・トュテエルスも、色々な名前のペルソナはあるけど、私は私でしかない。
だから、大丈夫。
私は私と融合して、デウス・エクス・マキナを完全な状態にする。
だけどエネルギーは大丈夫なの?
次元を空けて喚ぶなんて、割とエネルギーを使用するんじゃない?
《是。――回復に充ててる間に、天樹と会話。必要なエネルギーを譲渡してくれる事を承諾。ただし、この場で術式を展開する必要が有》
じゃあ、さっさとやろう。
あの騎士団長とか言うのに見つかって、問答無用でさっきの業を喰らうのはイヤだからね
私は両手を叩いた。
「? どうしたんだ。急に黙ってよ」
「第三王子に、子供達もちょーと離れてて。ここに召喚するからね」
「おいっ。何を召喚するつもりだ! ベアトリーゼとシャルルが居るんだ。危険な物は喚ぶな!」
「危険じゃないよ。世界一、安全な者を喚ぶの。私をね」
「自分を喚ぶ? 意味が分からないぞっ」
「説明するの面倒だから、下がってて。召喚に巻き込まれても知らないからね?」
黒い蝶の羽に青い文様の線が趨る。
天樹からのエネルギー供給を受けているからだ。
そして私の目の前の上空に空間が渦巻き状に捻れて、大きな穴が空く。
激しい雷を放っている。
だけど、それはあまり長く続かなかった。渦から、1人の大人の女性が、勢いよく地面に落ちた。
ああ、何回か、鏡で見たことがある。
間違いなく。私の前世。阿頼耶識輝夜だ。
ふらふらと前に進み、真下に前世の私がいる。
魂がないただの肉の塊。病院で入院患者が着ている服なのは、きっと病院で寝かされていたからだと思う。魂がないだけだからね。脳が動いている以上、死んではないのかもしれない。
そんなのは関係ないけどね。
私、私を、殴った。
何度も何度も何度も何度も何度も。手が擦りむけ血が流れても止めない。手の骨が折れても止めない。
こんなチャンスは最初で最後だと思う。
最も嫌いな相手を、心置きなく殴れるのだから!
《中断。周りを注意》
デウス・エクス・マキナにそう促されて回りを見る。
子供達は抱き合って怯え。第三王子も引いていた。
……自分と向き合うと、堪えがきかなくなる。
私は大きくため息を吐き、デウス・エクス・マキナに促した。
もう、いいよ。
本当は八つ裂きにして、原子すら残さずに消したいけど、デウス・エクス・マキナが困るでしょう。
だから、もう、やっちゃって?
《是》
この瞬間。
私は、前世の私を、殺したんだと思う。
自分を殺したんだから自殺だ。
自然とよく分からない笑みがこぼれる。
「ハハ。ハハハハ」
《デウス・エクス・マキナ。システム再構成開始します。使用者の意識レベルで融合しているため、強制的に意識を落とします。完全に無防備になるので注意して下さい。再起動の目安は24時間。では、おやすみない。》
目の前が真っ暗になり、私は意識を失い倒れた。
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