15話 後始末(1)
「申し訳ありませんッ――」
フードと仮面を被った男は、地面に伏せて謝罪をしていた。
試験に乗じて悪魔に贄を捧げ、それを「レヴァーテイン」が策謀した物とする一計。
それはアリティナが、悪魔を討伐した事でご破算となった。
「本当にヤツは死んだのか」
「間違いありません。ダンジョン内に確認した所、悪魔の姿は何処にも無く」
「あり得るの? あの場所に封印されていたとはいえ、悪魔バロナスと言えば、災禍の悪魔の一柱よ」
災禍の悪魔。
この大陸の各地に封じられたり、又は支配をしている強力な悪魔たちの事を指す。
中でも最強と謳われた悪魔王は、10数年前に当時大陸最強であったSランクハンターが相打ちという形でだが斃されている。
「例の計画をするには延期をするべきでは?」
「――災厄の悪魔を斃すほどの者が居るとすれば問題だぞ」
「計画の変更は不要だ」
「しかし……っ」
「悪魔が「居た」事には変わりない。作った証拠も機能はするだろう。監査さえ行う事が出来れば「レヴァーテイン」を王都から、いや、王国から追放することは出来る!」
声を荒げてリーダー格と思わしい男は言った。
「ヴィスティマール方面にある都市「ガリム」で反乱を起こさせ、『騎神』を派遣。『炎皇』と『騎神』と一軍がいなくなった王都で乱を起こす!!」
――面白い計画だな。もっと俺に訊かせろ
威厳のある声が響く。
そして周りの土で覆われた壁は半透明となり砕け散る。
唖然とする「ウロボロス」の面々。
当然だ。土壁がいきなり半透明となり、砕け散り広がった光景は、武装した騎士達に囲まれているのだから。
そして高い位置にいるのは、バレスタイン王国国王、シルヴェスター・オーディナ・バレスタイン。
金色の髪は獅子のようにも見える。
齢50に近い年齢だが、覇王の気質を現しており、見る者を畏怖させるほどの威圧を放っていた。
「その声は聞き覚えがあるな。確か……国防総省所属ゼニハ・シュール・ウォールス」
「うっ。な、なぜ、どうなっている!!」
ゼニハは逃げようと辺りを見回すが、王国騎士団に囲まれており、逃げる隙などはない。
「――反逆罪だ。引っ捕らえろ。それと各地に伝令を出し、関係者は全て捕縛しろ」
「ゼニハは国防総省で、上位の地位にいる者です。関係者まで捕らえるとなると、国防人事に穴が空くことになります。また仮面を取った顔には、王国の重要分野に携わっている者も――」
シルヴェスター国王に忠言するのは、宰相のエキウス・ジーズヴァン。
2人は幼い頃から友人同士で、三國志で言う孫策と周瑜のように断金の交わりをした義兄弟とも言える間柄である。
「もう一度言うぞ。関係者全員捕縛だ。徹底的に調べろ」
「はぁ。承知しました。各地に伝令を出しておきます」
「ああ。A級以上のハンターが所属するパーティーの監査は中止だ。監査の人材は調査に当てろ。後、ヴィスティマール方面に信頼置ける文官と武官を派遣して、反乱は絶対に起こさせるな」
「承知しました。念のためシヴァは王都に残し、配下で優秀な騎士リヴァルとアウラー。総合参謀部からはアイーシャを送りましょう」
「……全員若いな。まだ20から30ぐらいだろ」
「これからは若者の時代ですよ。貴方も私も、もう歳を取りました」
「……ふん。死ぬまで現役と抜かしていた爺が何を言う」
「私が現役を退くとしたら、貴方が退位されて、私の後を継ぐ才能有る者が現れたときですね」
「俺が現役を退くときか。……そろそろ、後継者を決めないといけないな」
今は平和で、大きな戦もない。しかし、今回は未然に防げたが、防げなければ、大きなうねりとなり王国を揺るがすだろう。
シルヴェスターも簡単には死ぬ気も殺される気もないが、明日、明後日のことは分からない。
後継者を決めたいが、息子達は優秀だ。三男は継ぐ気はないようだが、長男と次男は、それぞれ派閥を作っており、規模はほぼ同じ程度。
現状、どちらを後継者にするにしろ、国が割れる危険性があった。
内で争えば、外から攻め入られる可能性も大きくなる事から、それだけは避けたい思いがシルヴェスターには有り、中々世継ぎを決められないでいた。
「そう言えば。シヴァの姿が見えませんね」
「アイツならこの茶番劇を催してくれた鼠を捕まえに行かせた。厄介そうな相手だったが、まぁシヴァの武威を考えたら問題ないだろ」
******
疲れた。マジで疲れたよ。
ダンジョンから帰還してハンターギルドで行った所、私達が全員無事に帰ってきた事に驚いている人物が1人。今朝、私のギルドカードに不備があると言った男性だ。
それにデウス・エクス・マキナを寄生させてると、アジトまで案内させねように仕向けて、アジトに入ったところで時空間凍結。
机に置かれている紙を見たらやばそうな内容だったので、王城へ連れて行くことにした。
空間を切り取り、王城にある王の間に置き、凍結していた時間を解除。
べらべらと陰謀を喋り始めてくれたので、企みが一区切りした所で、周囲を土壁に見せていた半透明の物体を破壊して、
悪魔を吸収したとはいえ、デストロイモードに、空間系の術を多用した為、デウス・エクス・マキナのエネルギー残量は、結局1割近くになっていた。
もう今日だけで数年分は働いた気がする。
帰ったら癒やしにシドニーの尻尾でモフらせてもらうしかないね。
早いところ帰ろう。
「止まれ、そこのメイド」
背後から声をかけられた。
しかも重圧感のある声……。訊くだけで逃げ出したいと思わせるほどの声。
私は壊れた機械のようにゆっくりと振り返る。
そこに居たのは、30半ばほどの年齢だと思われる、青白い鎧を着た騎士が1人居た。手には大剣を持ち、鋭い眼光で睨み付けて来た。
怖い。凄く怖い。子供があんな眼光で睨まれたら、泣く前に気絶するよ。
「なにか、ご用でしょうか? 私は最近、採用されたばかりで、城の中は詳しくなくて、ちょっと迷子気味ですけど」
「王命により、貴様を捕らえる」
「――王様の命令っ!?。ま、待って下さい。私は、何も! ただの普通のメイド」
「謀るな。人の皮を被った獰猛な化け物め」
眼科に行って!
目が節穴過ぎるっ。私は獰猛な化け物どころか、愛玩動物のチワワぐらいでしかない。
王様の命令って事は、たぶん何が何でも捕らえる気だと思う。そう気配が物語っている。
今日、私は十二分に働いた。付き合ってられない。
空間移動系はタイムラグで捕まりそうだから、「阿頼耶識」に入って逃げよう。
全神経を集中させ、「阿頼耶識」へと入ると、周りがほぼ停止したように感じ見える。
騎士に背を向けて走り出そうとすると、目の前に逃げようとしたハズの騎士がいた。
私は慌てて後ろへと退避した。
何を言ってるか分からない? 私も分からないよ!
あまりの事に「阿頼耶識」を解いてしまう。
「俺の姉弟子と同じような技を使うな。化け物」
「――対応できた時点で、貴方も十二分に化け物ですよ」
もう、本当にイヤだ。
前世でも人外を極めたようなヤツには対処された事はあるけど、あれはイレギュラー。
「阿頼耶識」が効かないとなると、後はデストロイモードぐらいだけど、一日に二度はきつい。それにデウス・エクス・マキナのエネルギー残量も心許ない。
でも、捕まりたくないはない。
地下牢とかに入れられるのは本当に勘弁。もう一生分――15年だけど、入れられてたんだから、そういう所に放り込まれるのはイヤだ。
ごめん。
エネルギー残量が心配だけど、デストロイモードを使う。
《承諾。逃走などを考えると稼働時間は60秒が限度》
了解。
私の背中から視認が出来るほどのヨクトマシンが集まり蝶の羽のようになる。
そしてヨクトマシンを使い、剣を作り出す。
「やはり――化け物か」
「少女に向けて化け物、化け物と。流石に傷つくんですけど!!」
「戯言を言う」
「戯言じゃ無くて真言です!」
現状、使用できるエネルギーを全て剣に込める。
騎士も同じように手に持つ大剣に、魔力を注入しているのか、僅かに発光してバチバチと音を鳴らす。
そしてダメ元で全神経を集中させ「阿頼耶識」へと入り、剣を振るった。
「神ノ太刀」
「天断」
機械仕掛けの神が繰り出す太刀と、天を絶つに斉しい一撃。
王城の一角で、光と闇が交差。
衝撃は凄まじく王城の一区画が大破。衝撃に巻き込まれてる者が続出。ただ幸いにしてけが人だけで死者は出ることは無かった。
瓦礫と化した一角に騎士団長、ユタ=シヴァ・ヤニングスは立っているだけ、アリティナの姿は何処にもない。
「……逃げたか」
シヴァは珍しく笑みを浮かべていた。
身に纏っている鎧に亀裂が趨り砕け散る。もし鎧を着てなければ、肉体にダメージを受けていただろう。
久しく居なかった強敵と呼べる、相手と闘えた事に対する興奮を笑みだった。
だが、直ぐにいつもの顔に戻り、言い渡された任務を失敗した旨を、国王シルヴェスターに報告するため、この場を去って行った。
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