14話 絶望を知る者


※少し胸くそ悪い描写が含まれています。

 


 デウス・エクス・マキナに土を喰らわせて穴を作り、地下空洞まで降りた。

 因みにあまりしたくないらしい。

 ここの土は幾ら喰らってもエネルギー源にはならず、霞を食べているようなものらしい。

 地下に降りると、似非イケメンの黒いずくめの男と、倒れているガイナム、泣いているメイリン、魔物に犯されそうになっているナイルがいる。

 神経を集中させ「阿頼耶識」に入り、ナイルの側に居るゴブリンとグレムリンの頸を剣で刎ねた。


「大丈夫?」


「――」


 ナイルは声を出さない。

 良く見てみると、体中に黒い雷のような物が纏わり付いている。

 これって吸収可能?


《是》


 ナイルの身体に触れて、纏わり付いている黒い雷をデウス・エクス・マキナに喰わせる。

 雷による麻痺から解放されたナイルは立ち上がり、黒い男に飛び掛かろうとした。

 私は慌ててナイルを羽交い締めにする。


「落ち着いて! アレは私が相手するから、ね」


「……分かった」


「ありがとう。あの男を殴り飛ばすから、私が戦っている間、ガイナムとメイリンを守ってあげて」


 ナイルは頷いてくれた。

 私は再び意識を集中させて「阿頼耶識」へと入る。

 歩き似非イケメンの男の前に立つと、デウス・エクス・マキナによって強化された拳を全力で顔に打ち込み、「阿頼耶識」を解除した。

 その衝撃で、似非イケメンは壁際まで吹き飛んだ。

 イケメンの顔って殴ってみたくならない? 私はなる。

 壁に激突した似非イケメンは、蹌踉めきながら立ち上がって来た。


「アリティナ、気をつけて! あいつは絶望を食べる悪魔みたいなの」


「絶望を食べる悪魔?」


「そうです。私は悪魔バロナス! 絶望を糧にす、」


「あ、そういうの良いから。どうせ斃すんだし、食事のえり好みとかどうでも良いよ」


「ほう。面白い、冗談です、ね。私を、斃す? まぐれで私を殴った程度で、良く言えました」


「――それに、私は絶望を知ってる。お前如きの低級悪魔に、私を絶望させる事なんてできやしない」


 そう。私は絶望を前世で何回も体験した。

 学校の同級生の男女に色々と苛められ、強制的に色々な相手に援助交際もさせられた。稼いだ金は全てアイツらに奪われた。

 そして援助交際している最中の映像が、実名や私のスマホの番号や住所などの個人情報を含んで、インターネットに流された。

 話題となり、テレビや週刊誌などマスコミがそれを取り上げた結果。

 父さんは会社を辞めて家で家庭内暴力を振るい、母さんは鬱状態となった。

 そして、母さんは鬱状態が酷さを増し、父さんの暴力に耐えきれず、家にあった包丁を手に取り父さんを殺した。私達の前で。

 一瞬、意識が戻ったんだろうね。母さんは手を震わし、雄叫びをあげ、自身で頸を切り裂いて死んだ。

 それを終始みていた私と妹。母さんの遺体に泣きながらしがみ付き、そして私を大声で罵倒して詰る妹。

 父さんを殺し、母さんが自害した包丁を妹は握りしめると、私を殺そうとしてきた。

 ……絶望していた。死にたかった。死んで当然だと思った。父さんも母さんも死んだ。それは私が原因だ。だから、妹に殺されるのなら、それも仕方ないと思った。

 なのに、包丁を振り下ろされた時になぜか抵抗してしまった。

 妹ともみ合う形となり、バランスを崩した際に、包丁は妹の心臓を貫いた。

 そう。私が妹を殺した。


「は、ハハハ」


 全て、全ては私が悪い。

 もう誰にも邪魔をされたくなく、誰にも知られたくなくて、私は自殺の名所である富士の樹海・青木ヶ原へと向かい死ぬことにした。

 一番の絶望は、死のうとしたのに死ねなかったことだ。

 死のうとした直後に、天空から運が悪いことにデウス・エクス・マキナが降ってきて、私はデウス・エクス・マキナと魂レベルで融合。死ぬことが出来なくなってしまった。

 それから色々とあり、私は、デウス・エクス・マキナの能力の一つである『阿頼耶識』と、好きな物語のキャラ「輝夜姫」からそれぞれ取り、■■■■の名前を捨て、「阿頼耶識・輝夜」と名前を変えて生きることにした。


「素晴らしい。素晴らしいぞ!! なんという美味。どれほどの絶望をしたのかぁ」


 狂喜の声をあげる悪魔バロナス。

 ああ、思い出しただけで、コイツの餌になったのか――。

 むかつく。苛つく。

 これは私だけの絶望だ。他の誰にも、ましてや、誰かの糧にするためのものじゃない。


「お腹いっぱいになった?」


「まだ。まだですよ。もっともっと絶望を!」


「……そう。でも、もう無理だよ。私はお前を必ず殺すからね」


 もう「阿頼耶識」は使わない。

 デウス・エクス・マキナ、デスロトイモード。

 私の背中に黒い蝶のような羽が生まれる。

 前世で、デウス・エクス・マキナが、■■■■から阿頼耶識輝夜に変わったのを、蛹から蝶に変わるように例える形でこうなった。

 視覚で認識できるほどに集合したヨクトマシン。


「な、なんで、なんですか、それはぁぁぁぁ」


 答える気は無い。そもそも私も全ては理解してない。

 羽を動かすと、悪魔バロナスの周辺の空間が爆ぜた。

 痛みのあまり悲鳴をあげる。

 地面にうつ伏せになっていながらも、ふらつきながら立ち上がって来た。

 両手に炎の球体を出すと、私に向けて放ってくる。

 ――メイリンの数倍の威力があるね。まぁ関係ないけどさ。

 私と悪魔バロナスの中間地点で、消え去った。デウス・エクス・マキナが喰べたのである。ぶっちゃけて言えば、蝶の鱗粉の如く、この空間に無数のヨクトマシンを散布しているから、指一つ動かさずとも、念じれば目の前の悪魔程度は瞬殺できる。

 しないのは、私の、私だけの絶望を食べた事に対する怒りからだ。


「あ、あ、ああ」


 絶望を喰べる悪魔が、絶望に顔を染めるのは皮肉が効いてて面白い。

 バロナスは翼を大きく動かして、空を飛んだ。

 目指しているのは、私が降りてくるために作った穴だ。

 穴に半分ほど身体が入ったのを確認すると、羽を少しだけ動かして重力操作。

 地面に向けて真っ逆さまに落ちて来た。


「絶望を糧にする悪魔も、自分の絶望は喰えないんだね」


 地面に倒れている悪魔の頭を思いっきり握りしめて持ち上げる。

 悲鳴を上げるけど、今更気にしない。

 ……デウス・エクス・マキナ。

 もう良いよ。まだ万全な状態じゃ無いのに無理に、このモードにさせてごめん。

 エネルギーもだいぶ使用したから回復を込めて、コレはもう喰って良いよ。ゆっくりとね。


《是》


 バロナスの身体は、徐々に粒子となり消え始める。


「ひぃ。ひぃぃ。私が、この私が、何かに、食べられている!! いやだ。いやだ。まだ死にたくない。もっともっと、絶望を!!」


「ハハハ。良かったじゃない。最後の最後で、自分がとびっきりの絶望を味わえたんだからさ」


「あ、あっ、――この悪魔、めぇぇ」


「悪魔に悪魔なんて言われたくないなぁ。私は、少しだけ変わっているだけの人間だよ」


 身体全体が粒子となり、悪魔バロナスはデウス・エクス・マキナに喰われて死んだ。

 今までどれほどの冒険者の絶望を食べてきたかしらないけど、自業自得、因果応報だ。

 ……斃してからクールダウンしてみると、ちょっとやり過ぎた気がする。

 此処までしなくても良かったんじゃ無いかなぁ。

 3人の居る方向へ向かう。

 すると、ナイルは敬うように膝を折り、頭を下げる。


「え。なに?」


「――貴女様は、神さまでしょうか?」


「違うよ。さっきも言ったけど、ちょっと変わっているだけの人間。だよね。メイリン」


「……、あ、あっ、は、はい。その通りです」


 えぇ。なにこれ。

 私は敬われるような人間じゃ無い。どうしようもないダメ人間だ。

 だから、畏怖と畏敬の視線は辞めて。本当に居心地が悪いから、ちょっと前と同じような感じでお願いします。

 正直、この場で色々と言っても無理だろうなと感じた私は、指先を空間に当てると水面のように波紋が拡がり、それは渦のように大きくなる。

 私が落ちるために開けた穴の影響で、空間封鎖していた術式は無くなったようだ。


「とりあえず、此処から出ようか。その先は、ダンジョンの入り口付近の地上に繋がってるからね」


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