13話 悪魔


 何事無く目的地の前までたどり着いた。

 道中はゴブリンとグレムリンしか出なかったので、ガイナムとナイルの2人でさくさくと無双ゲーム並みに倒していってくれるので、本当に楽だった。

 戦っている内に、2人のコンビネーションも良くなってきていた。

 ただ、それを見て少しメイリンがヤキモキしていたのは此処だけの話。


「ここがゴール地点で間違いないんだな」


「間違いない。マッピングをしてたけど、残りは此処だけだよ」


 行き止まりとか色々あったけど、このダンジョンは全て埋められたと思う。

 隠し扉とかないのが前提だけど。一層の初心者用ダンジョンにないよね?

 私達の目の前には、銅で出来た扉がある。

 万が一、ボスがいる事を警戒して戦闘態勢を取りながら、ナイルが扉を開ける。

 扉の先は大きな広間となっていて、一番奥の方に宝箱が一個あった。

 周りを警戒しながら進み宝箱の前まで行く。


「――開ける」


「ああ」


 ナイルは警戒しながら宝箱を開けた。

 宝箱の中には、4枚の証が入っているだけだった。

 ナイルは証を宝箱から取ると、私達に渡してきた。


「これでクエストは完了かしらね?」


「半分はな。後はギルドに行って、これを見せないと達成にはならない」


「戦闘はガイナムとナイルがいれば楽勝だから任せるね。マッピングは完了してるから、最短ルートで帰ろう!」


「……」


 早く帰ってシドニーの尻尾を弄りたい。久しぶりの癒やしだからね。

 少し気が緩んだ瞬間。

 開けた空間の床全体に赤色の魔方陣が浮かび上がる。

 一瞬、強い光を放つと、魔方陣は消え去った。

 なんだったんだろう。

 状況を確認するために周りを見回すと、3人が居なくなっていた。


「え。私だけ仲間はずれ?」


《転移型魔方陣と推察》


「こういうのって出口に飛ばされるんだよね。なんで私だけ取り残されるの!」


 ぼっちのコミ障の陰キャの引き籠もりだから?

 この魔方陣を作ったヤツを殴り飛ばしたい。


《否。彼彼女らは出口付近では感知できず。ここの地下20メートルで反応を感知》


「地下20メートルって隠し部屋か何か?」


《肯定。また、その空間に彼彼女らと異なるエネルギー体を感知》


「別って事はラスボス系の魔物かなぁ」


《可能性は大。彼彼女らの戦闘履歴を考察し、ボス(仮)のエネルギーを観測した結果。勝率1%以下。死亡確率99.9%以上》


「え。ここって初心者用のダンジョンだよね。なんで、そんな強キャラがいるの!?」


《不明》


「……なんで私が残ったのかは分かる?」


《是。ギルドが仮発行したカードが魔方陣に干渉した事を確認》


「つまり、このカードの所為で私は弾かれたって訳ね」


 ……これって私に対する罠だよね。

 もしも3人に対するのであれば、3人のギルドカードに仕込めばいい。

 あまり考えるのは得意では無いけど、私は生き残らせて、3人をボスに殺させることが目的って事になる。

 うーん、これで得するような人物に心当たりが無い。

 これが逆で、私だけが地下に飛ばされるなら、公爵家の仕業だと考える所だけど。

 デウス・エクス・マキナはどう考える?


《情報不足》


 だよねぇ……。

 何者かの罠である事は確定してる。なら、私がするべき事は、それを壊すことだ。

 誰かの悪意のまま思い通りに動くのが一番イヤ。

 私は指先を空間に伸ばすと、水面の波紋のように波打つ。

 空間を広げようとするとも静電気のような痛みが走る。


《空間移動不可。地下空間は隔離されている。強制的にすれば地盤が耐えきれずに崩落する可能性大》


 ここって初心者用の試験用ダンジョンだよね!!

 ラスボスダンジョン的な使用はやめてくれる……。

 まぁいいや。

 なら、物理的に行くしか無い。

 地下牢に幽閉されていて脱出するときは、エネルギー不足と私の体調不良で出来なかったけど、今は出来るよね?


《是》


 なら、昔と同じように穴掘りをしようか。




 ******




「――皆、大丈夫?」


「あ、ぁあ」


「……問題無し」


 メイリンは周りを確認する為に再び火炎球を出した。

 声がしたように、ガイナムとナイルはいるが、アリティナの姿はなかった。

 周りを照らしてみると、さっきまでと同じように土岩で出来た空間が広がっている。


「おやおや。今回の贄は、実に若く活きが良さそうですねぇ」


 声がした。

 同時に、今、メイリンが出している火炎球が要らないほど、壁に炎が灯る。

 3人が声をした方向を見ると、男がいた。

 黒い蝙蝠のような翼を大きく生やし、光を飲み込むような漆黒の瞳。服は黒のタキシードのような物を着ている。


 「名乗りましょう。私は悪魔バロナス。絶望を糧にする、」


 バロナスが喋っていると、ナイルが先制攻撃を行う。

 両手の雷を溜めて放つ「雷霆拳」を放つ。

 獣人としての直感と、バロナスが放つ威圧が、速攻で攻めないといけないとナイルを突き動かした。

 雷の閃光は魔方障壁に遮られ拡散。バロナスには届かない。


「全く。畜生はいつも悪魔の言葉を最後まで訊こうとしない」


 バロナスは不快そうに言った。

 ナイルは魔法障壁を展開された時点で、地面を蹴り素早く移動。悪魔の背後へと周り「雷拳」を叩き込んだ。


「なにか、しましたか? 雷の拳とは、こうするのです」


 バロナスの拳に黒い雷が纏い激しい音を出す。

 危機感を覚えたナイルは後方へ退避するものの、バロナスは一瞬で距離を詰め、拳をナイルの腹部へと当てた。


「ぎゃぁっあああああ」


 全身の激しい痛みを感じたナイルは大声で叫ぶ。

 黒い光が空間を黒で覆うほどの雷撃。

 攻撃が終わった後も、ナイルの全身に黒い雷が奔っているため、黒い雷が残留している事が分かる。


「いい感じですよ。死を目前にした絶望感。実に美味しい。ですが、少しスパイスを付けてみましょうか」


 バロナスが指を鳴らすと、ゴブリンとグレムリンが姿を現した。


「最下級の魔物です。此処に来るまで苦戦すること無く倒すことができた雑魚。貴女は、その魔物に抵抗できないまま、輪姦されるのです」


「――」


「先ほどの雷で、全身が麻痺して、何一つ動かすことができないでしょう! ただ意識だけはハッキリとしている……」


「――」


「ああ、素晴らしい。絶望感が伝わってきます。凄く、凄く、美味しい。ゴブリンやグレムリンに最悪な形で犯された後に、無様に殺してあげますよ」


「やめろぉぉぉ!!」


 悪魔の威圧で動けなかったガイナムは、怒りのあまり威圧を解き、槍を構えてバロナスに突撃していく。

 槍に全神経を研ぎ澄ませ、ガイナムを繰り出せる最大級の技「閃」を、バロナスへと放つ。

 しかし、槍はバロナスに当たる直前に、半分ほどが砂となり崩れ去る。


「な、」


「吹き飛びなさい」


 バロナスの蹴りを受けたガイナムは、蹴り飛ばされて地面に何回も打ち付けられる。


「ガイナム! あ、ぁっああ」


「ほう。貴女は、彼の幼馴染みというものですか」


 バロナスは瞬時にメイリンの前に現れる。

 漆黒の目――魔眼がメイリンの表層記憶を読み取る。


「それに貴女は、彼に特別な想いを寄せているようだ。素晴らしい。なら、彼の前に私が犯してあげましょう」


「い、いや、いやぁぁ」


「や、やめ、ろぁ」


「ふふふ、もっとです。もっと絶望しなさい。そうだ。彼は槍に自信があるようですから、両腕を切断して、何も出来ないまま、貴女を犯せば、更に絶望をしてくれますかねぇ」


「ぐっ。」


「やめてっ」


「やめませんよ。私は絶望を糧にする悪魔。貴方たちが絶望してくれるのが、最大の食料なのですから!!」


「――っ。誰か、誰か、助けてっ」


「ああ。言ってませんでしたね。ここは地下深く。私を閉じ込めておくように、空間系魔法も遮断しています。貴方たちが、ここに居ることすら、誰も分かりません。誰にも知られずに、私に玩ばれながら、絶望して死んでいく。それが、貴方たちの」


 バロナスが「運命」と言いかけた直前。

 天井の一部が崩れ去った。

 それに最も驚いたのは、バロナスである。

 ここは地下20メートルにある空間。崩れることはあり得ないからである。

 崩れ去り出来た穴から、人影が落ちて来た。


「昔、徳川埋蔵金探すために掘ったことを思い出すなぁ。結局は見つからなかったけど」


「――貴様。何者ですか」


「え。私? 何者って言われても、少しだけ変わった所があるただの少女ですが?」


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