11話 暗躍


 グラディヴァイス大陸には大小十数もの国々が存在する。

 その中でも、最大の土地と国力を持つ国家がバレスタイン王国である。

 そんな大国のため、国内外問わずに常に陰謀や暗躍に晒され続けていた。


 バレスタイン王国首都、王都ロマニ。

 大都市である此処には豊かと貧しさ、光と闇が例に漏れず存在している。

 スラム街近くにある教会。

 古ぼけて所々が破損しており、なんとか雨風を防げる程度であった。

 最早、主無しの廃墟と教会と化した場所は、家を持たない人々の寝泊まりする場所と化していた。


 1人、フードを被り顔を隠した男が教会へと入ってくる。

 破損しかけた長椅子には、数名の人たちがベッド代わり使用している。

 特に入ってきた男に気をかける様子は無い。

 彼、彼女らは他人を一々気にする余裕はない。今日を生き、明日を迎えるだけが目標であった。

 男もまた彼・彼女に気にする様子も無く、教会の中を進み、かつては教会の主がいた部屋へと向かう。

 教会の主がいた部屋は、何も無かった。

 壁は所々破損していて、隙間風が入ってきている。

 一先ず周りに誰もいない事を確認した男は、懐から魔石を取り出して魔力を込めた。

 すると地面に魔方陣が浮かび上がり、男は一瞬で姿を消した。

 男が移動した場所は、教会の地下深くにある隠し部屋。

 ここに移動するために、キーとなる魔石を特定の場所にある魔方陣の上で魔力を込める必要性があった。

 教会の主がいた部屋以外にも、対応する魔方陣はあるが、男の近くにある魔方陣はそこしか無かった。


「遅いぞ」


「申し訳ありません」


 部屋にはフードと仮面を被った者たちが複数名いた。

 部屋には松明と蝋燭の灯りのみ、木の机には書類が何枚か置かれている。


「で、明日の仕掛けはどうなっている」


「問題なく。「レヴァーテイン」の関係者が、明日ハンター試験を受けるため、何時も仕掛けにちょっとした細工を施してます」


「うむ。「レヴァーテイン」が悪魔と結び、ハンター達を生贄にしていたとなれば、王都からの追放を免れまい」


「証拠を作ることは終わってます。後は、監査に乗じて証拠を手のものが見つければ問題ないかと」


「ですが、大丈夫でしょうか? 「レヴァーテイン」には、あの軍師ユタ=エル・ヤニングスがいます」


「ふん。元王国軍最高軍師か」


 十数年前のこと。

 ユタ=エルは軍師として王国でその才気を振るっていた。

 しかし、軍務を仕切るトュテエルス公爵家の代替わりと、実の弟の諍いがあり、王国の軍師の座を返上。隠居生活をしていた所に、当時、Cランクだったエヴァンジェリンがパーティーメンバーに誘い、今に至る。


「それに、Sランク『炎皇』を抑えたとして、騎士団長『騎神』ユタ=シヴァ・ヤニングスがいる以上、早急な事は避けるべきでは?」


 バレスタイン王国において「最強は誰か」と言えば、まず必ず騎士団長ユタ=シヴァ・ヤニングスの名前が必ず挙がる。

 『騎神』とは、騎士の神の略であり、それほどまでに圧倒的な実力を備えた男である。

 また名前から察せられるように、ユタ=エルの実弟だ。


「『騎神』の方は問題ない。ヴィスティマール方面の反乱討伐に出発してもらう」


「ヴィスティマール方面――都市「ガリム」ですか」


「そうだ。あそこは亜人達や人語を解する半魔たちも多い。反乱を起こす材料は揃っている」


「そう簡単に反乱が起きるでしょうか?」


「心配無用。反乱は必ず起きる手筈になっている。『騎神』が最強だろうと、「ガリム」が反乱を起こせば、数十日は王都に帰還は出来まい。ヤツは殺戮者ではなく、あくまで騎士だからな! 騎士道に外れる行為はできんよ」


 男は仮面に隠れているとは言え醜悪な笑い声を出す。

 それに習うように、男や女達は笑い声を出す。


「では、計画は現状のまま進めるという形で宜しいでしょうか?」


「問題あるまい。『炎皇』『騎神』を抑えさえすれば、後はどうにでもなる」


「承知しました。では、手筈通りに明日のハンター試験は――」


「ああ。飼い慣らしている悪魔は、こういう時に働いて貰わないとな」


 彼らは結社『ウロボロス』

 バレスタイン王国、引いてはグラディヴァイス大陸に大きな変革を計画する者たちによって結成された組織である。




******




 あー、寝不足なんだけど!

 なんかフードと仮面を被った変な集会の夢を見ちゃった。


《我の分体が、空に有る天体に寄生。それに送られてくる映像の一部を夢という形で見たのだと推測》


 妙にリアルに感じたのは、そういう事ね。

 内容はあまり覚えてない。

 なにか重要な事を言ってたような、言ってなかったような――。

 思い出せないって事は大した事ではないと思う。たぶん

 現実に起きていた事とはいえ所詮は夢。胡蝶の夢だ。

 今はこれからするハンターの資格試験に集中しよう。

 試験が行われる10分前に、ハンターギルドへと着く。

 異世界で10分前集合が常識かどうかは知らないけど、時間ギリギリや遅れるよりはマシだろう。


「アリティナさんですね?」


「そうですけど?」


「良かった。機能発行したカードに不備がございまして、少し修正しますので、お預かりしても宜しいでしょうか」


「どうぞ」


 不備ってなんだろうね。

 まぁ、取られたところで所詮は仮免だから、警戒も特にせず、首から吊しているギルドカードを男性に渡した。

 ペコペコと頭を下げながらギルドの奥へと向かう。

 暇だったので周りを見ると、早朝だというのに、ハンター達が集まり、掲示板やファイリングされている依頼書に目を通している。

 一攫千金の依頼を受けるなら、この中に入らないといけないのか。うん。絶対に無理。

 残り物には福があると言うから、その言葉を期待する。


「お待たせしました。申し訳ありません。不備があると訊いてたのですが、特に問題はありませんでした。どうやら情報が行き違いになっていたみたいで――」


「あ、いえ、気にしないで下さい」


「本当に申し訳ありませんでした。ハンター試験の合格を、祈ってます」


 ここまで低姿勢で言われると、こちらとしても何も言えない。

 元々、何も言うつもりは無かったけど。

 受け取ったギルドカードを頸に吊して指定の場所に向かう。

 テーブル席に3人が、座って待ってる。

 ――早くない? まだ9時になってないよ。

 一番最後とか、余計に緊張するんだけど……。

 少し帰りたくなったけど、意を決してテーブル席へ行き、挨拶をした。


「今日、皆さんと一緒にハンター試験を受けるアリティナです。宜しくお願いします」



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