10話 模擬戦
なんだか引き籠もり生活から少しずつ遠ざかっている気がしないわけでも無い。
私の目標は、働かず食っちゃ寝出来る引き籠もり生活なんだけど、人生は中々上手くいかないようだ。
私が人生について塞翁が馬のように悩んでいると、シドニーが少女を連れてやってきた。
気怠そうな雰囲気を醸しだしている半眼の少女。
なんだか凄く気が合いそう。
「ユタ=エル様。お持ちのゴーレムを一体、模擬戦用に貸して貰っても良いですか?」
「構わない。私も、彼女には興味がある」
「私に興味? ふふふ、私は謎多き女だからね」
「自分で言うなっす」
「女の秘密は、常にベッドの中じゃないと聞けないって識ってる?」
「識らないっす。識りたくもないっす」
「シドニーってツンデレさん?」
「お前に対しては、ツンしかないっす! って、ツンデレって何っすか!?」
知らずにここまで対応してくるとは、天性のツッコミ気質だねぇ。
これはもう、竹馬の友と言っても差し支えないぐらい友好度が高まってるのでは?
友達としては、そろそろシドニーのデレも見てみたいなあ。
「何を考えているっすか。寒気がしたっすけど」
「んー。シドニーとどうイチャイチャできるかなぁーて」
「大丈夫ッす。あたしの予定にはお前とは、そういう事をする予定はないっす」
「なら、誰となら、イチャイチャしたいの?」
「だ、誰って、お、お前には関係ないっす!!」
一瞬、エヴァさんの方に視線を送った。
なるほどなるほど。
納得した顔をしていると、今にでも噛み付きそうな眼光を向けてくる。
……ちょっと揶揄いすぎかな。
でも、シドニーが可愛いのが悪いのであって、私はあまり悪くない気がする。
「準備が出来た」
シドニーと話し合っていると、ユタ=エル様?が鎧を身につけ西洋剣を持ったゴーレムを一体引き連れてきた。
「そう言えば。自己紹介をしてなかった。私はユタ=エル・ヤニングス。賢者で、このパーティーの軍師を務めてる。普通にエル、またはユタ=エルって呼んで貰って良い。此奴のように「様」付けや敬う必要はない」
「えっと、なら、ユタさんで」
「それで良い」
満足そうに頷いた。
見た目は若いけど実年齢が気になる。
同性とはいえ、女性に年齢を聞くのはかなり勇気がいる。あからさまな地雷のような女性なら兎も角、ユタさんは分からないなぁ。
まあ触らぬ神に祟りなしって言葉もあるから触れないでおこう。
「ところで、このゴーレムって自作ですか?」
「ああ。錬金術師のような本職と比べると性能は格段に落ちるが、書類などを運ばせるのに便利だから覚えた」
「なるほど。私は掃除洗濯家事とか面倒くさくて放置したりするから、ゴーレム造り覚えようかな」
「なんで、ずっと幽閉されてたのに、家事全般を面倒くさがるって分かるっすか?」
「――自分の性格は誰よりも自分が分かってるからだよ」
たまぁにシドニーのツッコミが鋭い時があるから困る。
そんな性格の自分自身が一番嫌いなんだけどね。
ありえないけど、もう1人の自分が出てきたら、速攻で抹殺したい程度には自分が嫌い。
それにしても、そろそろ幽閉されてたってだけは無理があるかもしれない。
別に転生者というのは隠すつもりはあまりない。ただ、言うタイミングが無いだけだ。
普通に言ったら、頭おかしいヤツに思われそうじゃ無い?
もう思われている可能性もあるけどさ!
悩みながらも、訓練場の隅に置かれている武具を選ぶ。
まぁ適当で良いか。弘法は筆を選ばずっていうからね。
……嘘です。どんな武器を選んでも、デウス・エクス・マキナに強化して貰うので、それほど差は生まれないからです。
適当な両手剣を選び終わると同時に、ゴーレムの調整が終わったようだ。
「調節は完了した。いつでも対戦可能だ」
「それじゃあ、お願いします」
ゴーレムの大きさは約2メートルと言ったところだ。
鎧を身に纏い剣を持っている。
さて、どう戦おうかなぁ。
《提案》
ん。なになに?
《汝が前世で苛められていた頃に記した必殺技を使用可能》
……え。それって、私が、現実逃避する為とストレス発散用に、ノートに書いてた、今風に言うと「わたしがかんがえたさいきょうのひっさつわざ」シリーズ?
《是》
絶対に使用しない!!
なんで知って――ああ記憶も共有してるんだった。
黒歴史の最たる物だからね、アレはっ。
前世。中学生の頃、私は酷い苛めを受けていた。その時の心の拠り所みたいなものが、自作のノート。妄想の中で必殺技を考えて、苛めっ子達へ復讐する物語。
ノートに書き記した内容は、もう全てが黒歴史と言っても過言じゃ無い。
《前方注意》
デウス・エクス・マキナが注意をしてきたので、前を見るとゴーレムが迫っていた。
剣を振り上げ斬りかかってくる。
それを剣で防ぐと、金属同士がぶつかりあった事で、一瞬火花が散る。
ゴーレムだけあった割と力強い?
全身を強化されているから、力負けすることはないけど。
剣を弾いて後ろへ飛ぶ。
全神経を集中させると、周りの時間を進むのがかなり遅くなる。
『阿頼耶識』。
通常では認識されないほどの極小の時間の進み。
これが使用できたから、色々とあった前世では、これを名字にしていた。妙に懐かしい。
停止して動かないように見える。実際はほんの少し動いているらしい。
私はゴーレムに近づき、剣を振り上げ、そのまま振り下ろす。
『阿頼耶識』を解くとゴーレムは真っ二つに分かれ倒れた。
……勿論、「阿頼耶識」は無敵の技じゃない。
ネタバレすると使用中は息ができない。そのため息をすると、効果が切れてしまう。
他は私よりも時間操作が得意な相手とか、またはあり得ないけど、私と同じくデウス・エクス・マキナを持っている相手とか。
デウス・エクス・マキナは、過去・未来・現在のどこにでも存在するようにしているようだけど、同時間軸同次元にデウス・エクス・マキナの別個体は存在できないらしい。
曰くバランスがどうのこうの言っていた記憶がある。
まぁ、今のところは破られる可能性は低いけど、異世界だからどんなチート存在がいるか分からないから油断は出来ないかな。
「――あんた。本当に何者っすか」
驚いた表情をしている面々がいた。
その代表としてか、シドニーがそんな事を訊いてくる。
私は少し考えて、こう答えた。
「前にも言いましたけど、少しだけ変わっている少女ですが?」
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