08話 ハンターギルド
ハンターギルドは5階立ての建物だった。しかも思っていた以上に大きい。
扉を開けて入ると、ラノベや漫画に出てくるみたいな装備をした人々がいる。
流石、王都だけあって実力がありそうな人が多い。
まぁ興味ないけどね。
私は万年最下位ランクで構わない。あくまでデウス・エクス・マキナのエネルギー供給さえ出来れば、それだけで良い。
前世でも外部エネルギーを摂取するため、山に入って熊と戦ったり、海に潜らされて鯨を吸収したりました。面倒くさかったけど。
「シドニーさん、こんにちは。今日はどのようご用件でしょうか?」
「ついこが試験を受けたいっていうから、その申請に来たっす」
「そうですか。『レヴァーテイン』の新人の方ですか?」
「違うっす。一時的に預かってるだけっす」
「では、こちらにどうぞ」
ギルドに入って直ぐに案内人の女性が来た。
まるで前世のケータイショップみたいな感じだ。
案内されてカウンターへ向かい、椅子に座る。
「こちらに記入できる項目に、記入をお願いします」
一枚の用紙が出されて来たので、置かれているペンを取り記入していく。
名前はアリティナ。性別は女。年齢は……。
《汝が年齢は15》
ありがとう。15と記入。
職業は……なんだろ。引き籠もりはいやだなぁ。ニートでいいや。
得意な武器は、剣って書いておこう。前世でデウス・エクス・マキナが作った黒い剣を振り回していたので、得意でいいと思う。
それから必要項目に適当に記入していく。
……なんだか視線を感じて振り向くと、シドニーが不審者を見るような目で見てた。
「な、なに?」
「文字を書けるんっすね」
「書けるよ。シドニーは書けないの?」
「書けるっす! あたしが言いたいのは、あんな境遇に居て、なんで文字の読み書きや、言葉が問題なく話せてるかって訊いてるっす!!」
「――!!」
言われてみて初めて気がついた。
私は彼奴らに地下牢に生まれた時から幽閉されていた。
なのに、文字は読み書きできて、言葉も普通に喋る事が出来る。
これか。シドニーが私に怪しさを感じていた点は。
《解。メイドを捕食した際に、知識と記憶を吸収。その際に文字や言葉を、この世界基準にアップグレード》
ああ、そう言えばアイツの知識と記憶を吸収したって言ってたね。
特に気にしないままやらかしたなぁ。
私ってあまり嘘が上手じゃ無いから、誤魔化せるかは微妙なところだ。
でも、何かしらの事を説明しないといけないよね。せっかく世話になってるんだし。
とりあえず先延ばしにしよう。
きっとその時が来たら巧く出来る。ハズ。
「シドニーが疑問に思ってる事は分かったけど、また後で良い? 答えられる事は答えるから」
「わかったっす」
唯々諾々と頷いてくれる。
「アリティナさん。この魔石に手をかざして下さい」
赤い魔石と、その下は二段に分かれていて、一段上には私が記入した用紙、二段目にはカードが置かれている。
言われたまま私は魔石へと手を置いた。
魔石は輝き始める。
《素晴らしい》
どうかしたの?
《魔石には汝の情報と指紋が紐付けされて三色の恒星に送られている》
三色の恒星って、ああ、夜に見たあの赤と青と黄の天体の事ね。
《是。きちんと調べないと確定した事は不明ではあるものの、あの三色の恒星は巨大な記録サーバーとして機能していると推察》
なるほど。この魔石はパソコンみたいな物。
送られた情報は恒星に保存され、魔石を通じて確認とかが出来るわけね。
異世界って嘗めてたけど、割とハイテクな事をしてるんだ。
……誰がやり始めたか知らないけど、した人は天才か、神様だと思う。
《我の分体も送信。情報収集に努める》
まあほどほどにね?
デウス・エクス・マキナは妙にやり過ぎる所があるから少し心配だ。
そのやり過ぎた事で、トラブルに巻き込まれたのも一・二回じゃない。
でも、私の半身で、私の保護者だから、それも悪くは無かったけどね
そうしていると、魔石の光は収まる。
「はい。これでギルドカードに登録が完了しました。あくまで、これは仮免となってまして、試験に合格する事が出来ましたら、正式に使用可能となります」
渡されたのはブロンズ色をした手帳サイズのカード。
カードには、名前とランクが記入されているだけのシンプルな物だった。
ただしランクの所は、まだ試験に合格してない為、空欄となっている。
きっとギルドにある専用の道具に通したら、三色の恒星にアクセス出来て、情報を引き出せる仕組みなんだと思う。
「試験はいつありますか?」
「明日か、または7日後になってます」
どうしようかなぁ。
明日にするか、7日後にするか――。
うーん、明日で良いか。7日後とか、何が起きてるか分からない。
そもそもやる気が私にその時まであるのかが一番分からない。
「……明日で」
「分かりました。では、明日の王国標準9時にまたギルドへお越し下さい」
王国標準……?
あのメイドの知識によると、――王都ロマニにある時計台の時間を基準とした時間のこと、のようだ。
国や地方によって時間が違うらしい。
不便に感じるけど、これは仕方ない事だと思う。転生前も国によって時間のズレはあったわけだからね。
試験はクエストをパーティーを組んで行うタイプのようだ。
パーティーは、当日に振り分けられるということ。
……出来るだけ陰キャな私でも混じれる感じのパーティーが良いなぁ。
装備は配布しないので、用意しておくように言われた。
後は簡単な注意事項を言われ、ハンターギルドを後にした。
元々、引き籠もり体質の私は疲れて『レヴァーテイン』の拠点へと帰る事にした。
「それで、何か訊きたい事がある?」
「――なんで言葉や文字の読み書きができるっすか」
「親切なメイドに教えて貰ったからだよ」
まぁ、嘘は言ってない。
殴る蹴るなどの暴行などの虐待をしてくれたメイド。
今、思い出しただけでも腹立たしい。
デウス・エクス・マキナが居なかった、私はきっと死んでいた。そのデウス・エクス・マキナも、私の栄養源として自らを消費していき、かなり亡くしていたけどね。
殺した事は少しは後悔してる。でも、あの時は、ああするしか助かる道は無かった。
「私からも質問だけど、私の事、どこまで知ってるの?」
「…………貴族の屋敷で、災いを齎すという言い伝えによって地下牢に幽閉されてたって事しか知らないっす」
「え。私ってそれで幽閉されてたの?」
「知らなかったっすか!?」
「知らなかった。親切なメイドも、教えてくれなかったからね」
メイドの記憶にもその事に関しては無かった。
ただ、ああいう扱いをして良い物、という認識でしか無かったのだ。
迷信深い異世界――前世の世界でも、迷信を信じて、信じられないような事をする場所はあったので、仕方ないかもしれない。
それで赦す赦さないは別の話だけど。
あんな扱いを受けて、迷信だから仕方ない、と割り切れるほど私は人が出来ない。
「シドニー。私はほとんど何も知らないよ。言葉とか読み書きは、なんとか出来るけど、それ以上は何も識らない、非常識な子だからね? だから、尻尾をモフらせて下さい」
「絶対にイヤっす!! ――ちょっとは同情したあたしがバカだったっす」
「えー。安心してよ。もう今まで感じた事がない快感を味合わせてあげるからさ」
「全く安心できないっす!! 尻尾に触ったら、頸と胴体がお別れさせるっすよ」
お尻の所にある大きめのナイフ二振りを手に掴み、尻尾を上に立てて威嚇するシドニー。
――何がダメだったんだろ。
まだ尻尾をモフらせて貰うには、まだ好感度が足りないのかもしれない。
でも、尻尾のところにある「腰百会」のツボを押して、いつかは愛でたいな。
私とシドニーは、そんな感じで和気藹々と話しながら「レヴァーテイン」の拠点へと帰っていった。
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