07話 後悔
(くそっ、どうなってるだアイツの胃袋は! 女が一人で食べられる量じゃないだろ)
シドニー、アリティナと分かれたグレミーは一人路地裏を歩いていた。
昼間であるが、建物に光は遮られて薄暗い。
焼肉屋ではほぼアリティナ一人が暴食。
料金25万ジン。
量もそうだが、一部、希少部位の肉も含まれていた為、この料金になっていた。
「奢る」と軽々しく言った事を、グレミーはため息を吐き後悔する。
「で、そろそろ出てこいよ。屋根裏の小人さん?」
「……」
シドニーの前に現れたのは、全身黒ずくめとした人物。
影に同化するような衣装を身に纏い、目の前にいるにも関わらずシドニーは、ほぼ気配を感じる事ができなかった。
「――何時から、いや、ずっとか。巧く王城から抜け出せたと思っていたが、甘かったみたいだな」
「……いえ、そのような事は」
「ああ。いいんだ。俺に、巻かれて、気配で分かるようなら、そういう立場ではやっていけないだろ? 実際。よくやってるよ。Bランク上位で斥候・隠密担当の犬っ子も気づかないぐらいだからな」
グレミーは苦笑しながら言った。
実際、斥候・隠密担当でBランク上位のシドニーに関知されない時点で、かなり優秀で実力者である事は間違いない。
そこで気になるのは、目の前の護衛の気配を看破した少女――アリティナだ。
光すら吸い込みそうな黒い髪に血のように紅い瞳。
『レヴァーテイン』の新規メンバーではないとシドニーが言っていたが、こうなってくると何者かグレミーは気になった。
「黒髪の彼女のついては部下を張らせています。我々の気配を看破する人物を、情報無しでは放置できませんから」
「……読心は止めてくれ」
「申し訳ありません。グレン=ヘイミー・カルナ・バレスタイン第三王子」
「王城じゃないんだ。本名で呼ぶな。街では、グレミーで良い」
「畏まりました」
バレスタイン王の子供は男女含めて6名ほど居る。男が4人、女が2人だ。
その中の一人が、グレン=ヘイミー・カルナ・バレスタイン第三王子である。
王子の中では末に辺り、自身は2人の兄たちと比べて才能が無いのは自覚しており、権力争いに巻き込まれない自衛策として、王城にはあまり顔を出さず、街で遊び人として暮らしていた。
実際、グレン=ヘイミーは街での暮らしが好きだった。王城のようなキツさもなく、ある程度は自由を謳歌出来たからだ。
権力争いからは一歩どころか何歩も引いている事から、兄2人との仲は悪くない。
姉からは王城で大人しくはているように小言を言われるが、妹と弟からは街での出来事を話しては喜ばれていた。
「グレミー様。言づてがあります。今回行われるパーティーには、必ず出席するようにとの事です」
「断る。あんな所で飲む酒より、こっちの方で飲む安酒が旨い」
「……今回のパーティーでは、ある発表が行われます」
「発表? ついに世継ぎでも決めたか」
「……いえ。今回のパーティーで行われるのは、婚約発表です」
「へぇ。ついに姉貴にも相手が見つかったか。気が強いから、中々相手が見つからなかったからなぁ」
「いえ。今回、婚約発表があるのは、グレミー様です」
「は? 俺?」
「はい。お相手は、トュテエルス公爵家長女、ソフィア・ナイルス・トュテエルス様です」
あっああああ!!
第三王子って何?
どこの暴れん坊将軍? どこの徳川吉宗?
屋根裏の小人の事もあり、ほんの少し何者か気になったので、デウス・エクス・マキナを寄生させて、盗聴してたら知りたくない事実を知ってしまった。
何か婚約発表とか言ってたけど、それどころじゃなくて盗聴を切断した。
ああ、どこかの金持ちのボンボンかと思ったら第三王子とか。
私って第三王子に、かなり無礼な態度を取ったよね。これって処される?
でも、向こうは遊び人って名乗ってたし!
「あ、ああああ」
「どうしたっすか。なんか呻き声をあげて……」
「今後の人生がお先真っ暗だなぁって絶望に打ち拉がれているだけだから気にしないで」
「なんで肉を食べただけで、そんなに後ろ向きな発言が出てくるっすか」
呆れたようにいうシドニー。
いや、グレミーが第三王子だって分かったら、似た態度になると思うよ?
いっそのこと暴露して、懺悔仲間を増やそうか。
……無理だね。証拠が何一つとしてない。
グレミーが第三王子と分かったのは、デウス・エクス・マキナで盗聴した結果だからね。証拠もないのに言っても信じては貰えないだろう。
それに私とシドニーってまだ2時間ぐらいしか一緒にいないんだよね。そんなほぼ初対面なヤツに、グレミーが第三王子なんだって言っても、きっと信じて貰えない。
私だって唐突にそうんな事を言われても、信じられない自信はある。
と、いうかさ、シドニーになんか怪しまれている気がするんだけど?
なんか色々とやらかしたかなぁ。訊くのが怖いから、訊かないけど。
目標として、奢らせて分の金を返却して土下座かな。
できるだけ大勢の前ですれば、向こうも悪いようにはできないハズだからね。
「ねぇシドニー。ベッドの上に寝てて金を稼げる職業ってある?」
「――娼館じゃないっすか?」
「シドニーってむっつりスケベ?」
「意味分からない言葉を言わないでほしいっす! 感じからして、碌でもない言葉っていうのはわかるっすよ」
えぇ、この異世界ってむっつりスケベって言葉が通じないんだ。
「そういうのじゃなくてさ。ずっとベッドの上で何もせずに寝ててお金が貰える仕事」
「そんな仕事があるわけないっす」
「……ニートには厳しい」
ため息を吐く。
やっぱり外に出て人と関わらないと厳しいかぁ。
仕方ない。引き籠もり生活は後々の楽しみに置いておこう。
「ハンターって儲かる?」
「ピンキリっすよ。ダンジョンに潜って高価なお宝があれば一財産築けるし、無かったら時間と費用が無駄になる事もあるっす。討伐系は強い魔物を倒す事が出来れば良いっすけど、そんな強い魔物は頻繁に出ないっすから、日頃は雑魚を討伐して日銭を稼いでるっす」
……良い事を聞けた。強い魔物は頻繁にはでないんだ。
つまり雑魚相手にするだけで良いって事だよね。
デウス・エクス・マキナに定期的にエネルギー供給をと考えるとハンターも悪くないかもしれない。
「因みにだけど、どうすればハンターになれるの?」
「ハンターギルドで行って申請を出して、7日から10日に一回開かれる試験に受かればなれるっす」
「毎日じゃないんだ」
「田舎の方の街だと応募が少ないっすから即日な所もあるみたいっすけど、王都は希望者が多いっすから、試験日を設定して、その日にまとめて行ってるっす」
「へぇ、なら、受けようかな。ハンターって証明書とかあるの?」
「当たり前じゃないっすか。証明書がないと、他の街に行ったときに分からないじゃないっすか」
「なるほど。つまり身分証にもなるって訳だね。――私って何も身分を証明できる物は持ってないんだよね。よし。ハンター試験を受けて、身分証を貰おう!!」
思い立ったら吉日。
もし違う日に延ばしたら、私って絶対に面倒くさがって行かないからね。
私はシドニーに案内して貰い、王都にあるハンターギルドへと向かった。
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