05話 王都ロマニ(1)
……どこ。ここ?
目を開けると、見知らぬ天井に、見知らぬ場所。
身体を起こして窓から外を見ると、大きな街だということは分かる。
《遅い目覚めだな、汝》
デウス・エクス・マキナ?
私は生きてるの?
《是。トュテエルス公爵家を脱出した後、Sランクハンター、個体名、エヴァンジェリンと、そのパーティー「レヴァーテイン」に拾われ、王都ロマニへ移動。現在、パーティー『レヴァーテイン』の拠点で静養中》
なるほど。
私は手を動かして気がついたけど、身体の怠さがない。
《汝は体調は良好。栄養不足も現時点では解消。「レヴァーテイン」のルイーゼ・フィオリーナの貢献が多大》
お礼言わないといけないね。
ところで倒れるまでの記憶はあるんだけど、あれから何日ぐらい経ってるの?
《一週間経過》
へぇ、一週間かぁ。
じゃあ後一ヶ月ぐらいはベッドで寝てようかな。
クーラーとかテレビとかパソコンとかタブレットとかスマートフォンが無いのは不満だけど、まぁ問題ない。
欠伸をして起き上がった身体を再び横にした。
《……》
痛い痛い痛い!!
ごめんなさい。身体に電気を流さないでよ!
起き上がります。起き上がれば良いんでしょうッ。
ああ、もう。後1年……せめて半年ぐらいは寝てたかったのに……。
ってデウス・エクス・マキナも、なんかエネルギー十二分になってない?
《汝が気絶した直後に、上質なエネルギーを摂取。汝を生存のために我自身を栄養源に変換してた事で、1%以下になってた我も増殖に成功。本来の性能にはほど遠いが、自己改良した結果。20%ほど回復》
……本当にありがとう。
って、1%ってかなり危険な状態だったんじゃ。
《以前も言ったが、我が大切なのは汝のみ。また我は1個体でも残っていれば問題無》
ありがとう、いつも感謝してる。私の事を本気で心配してくれるのは、デウス・エクス・マキナだけだもの。
ベッドから起き上がり、背伸びをする。
うー、骨が鳴る。一週間は寝てたようだから、身体も凝り固まるよね。
とりあえず目標は、私を不要品扱いして、10年以上もあんな所に閉じ込めてくれた両親に復讐をする事。
次にのんびりと引きこもり生活をするための地盤を作る事。
一番良いのは、不動産でもして働かなくても定期的に収入が入る方法が一番だけど、異世界に不動産収入って可能なのか疑問。
ハンターは……出来ることならしたくない。したくないけど、闘いは本当に面倒だけど、デウス・エクス・マキナのエネルギー確保の為には、最低限はしないとダメかな。
デウス・エクス・マキナが私を大切に思ってくれてるように、私もデウス・エクス・マキナの事を大切に思っている。
「彼女。何者なんでしょう。あんな驚異的な回復は見た事も、聞いた事もありません」
「それは私も知りたいな」
入ってきたのはシスター服の女性と、深紅の髪の先が燃えている女性。
視線が合う。
異世界の場合って初対面ってどう挨拶するのが正しいんだろう。
前世でも、国によってハグとかする所もあるようだし……。
悩んでいるとシスター服の女性が勢いよく近寄ってきて肩を掴んできた。
「立ち上がって大丈夫ですか!?」
「えっと、まあ、はい。ちょっと身体が凝り固まってるだけです」
「あんな酷い状態だったのに、一週間で全快とか。貴女、何者なんですか?」
「私も気になるね。魔力を枯渇するほどまで吸収されたんだ」
「……」
自分が何者なのか……。
それって難しい問いかけだよね。
私としては、普通の少女って答えたいけど。絶対に納得してくれないよね?
転生者。
不要品を置く倉庫の地下に幽閉されてた公爵令嬢。
機械仕掛けの神――デウス・エクス・マキナに寄生されている少女。
うーん。どれも微妙な感じがする。
とりあえず全て纏めると、
「少しだけ変わっている少女ですが?」
ほんの少しだけね?
「少しだけ?」
「変わっている少女?」
訝しげな視線を二人は私は向けてきた。
前世でも、何度か向けられたので慣れた。まぁ、慣れたくはなかったかなぁ。
ただし、その視線もほんの一瞬だった。
流石は異世界。
魔物やら精霊とかいそうな世界観なのだから、私も少し変ぐらいで構わないと思う。
「姐さん、居るっすか」
「シドニー、何か用?」
「速達でオリヴァー達から言づてが来たっす。帰ってくるのに、まだ少しかかるみたいっす」
「珍しい。どんな魔物狩りをしてるの?」
「砂漠地帯に出現した超大型モンスターみたいっすよ。それと姐さん宛てに、いつもの令嬢からの手紙かが届いてるっす」
「……そう。分かった。シドニー、歳も近い事だし彼女を帝都案内してあげて」
「了解っす」
そう言って赤髪の女性は部屋を出て行った。
やっぱりSランクのハンターにもなると、令嬢とかと色々と付き合いがあるんだね。
それよりも今は一番気になる事がある。
「あたしの名は、シドニー・フィードラっす」
「あの、お尻見せて下さい!」
近づいてきた犬耳少女に、思わず言ってしまった。
いや、獣人だよ。しかも犬耳に白い犬尻尾。
尻尾ってどんな風になっているか気になってたんだよ。。
「いやっすよ。なんで、見せないといけないんっすか! この変態っ」
「ええ、初対面で変態って酷くない?」
「初対面でお尻を見せてとか言ってくる奴は、変態で十二分っす!!」
……一理あるね。
私も初対面でそう言ってくる人が居れば、間違いなく変態の烙印を押す。
ここは言い直しておこう。
「間違った。言い方が間違ってた。尻尾の付け根を見せて、触らせて下さい」
「このド変態ー!!」
「ええ」
「えっとね、犬の獣人の中には、その、性感帯の人が居るの。さっきの言い方だと、性感帯を見せて触らせてって言ってるのと同じ事なの」
《地球の犬に「腰百会」というツボが有。獣人にとってそれが性感帯になっているのだと推測》
シスターさんの言葉に、デウス・エクス・マキナが補足してくれた。
シドニーは耳をピーンと張り、警戒と怒りを露わにしている。
戸惑っているシスターさんが、シドニーの所に行き、何やら耳打ちをした。
苦々しそうな表情をして何か言い返しているようだが、年の功、……え、なに、なんかすごく寒気を感じたんだけどっ。
なにから、シドニーはしぶしぶと納得して、近づいてきた。
「まぁ、常識がないのは、経緯から仕方ないっすよね。今回は許してあげるっす」
「ありがとう」
好感度上げたら触らせてくれないかなぁ。
やっぱり喘ぎ声とか漏らしたりするのかな?
「何か不埒なことを考えてないっすか」
「ううん。そんなことないよ。全くないよ」
「……はあ。あたしは名前を名乗ったんだから、あんたの名前を教えて欲しいっす」
「名前……」
私の名前は、デウス・エクス・マキナから聞いたのだと、アリティナ・ディズム・トュテエルス。
でも、流石にそのまま名乗るのは憚られる。
私は公爵家から脱走した身。本名を名乗って、万が一にでも連れ戻されたり、最悪、殺し屋でも雇われて命を狙われる事態は絶対に避けたい。
……あんな場所に幽閉した奴等には、恨みしか無いけど、名前は、彼奴らからの最初で最後の子供への贈り物。
だから、私は、こう名乗った。
「アリティナです。アナって呼んで下さい」
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