04話 パーティー・レヴァーテイン


 エヴァンジェリンから放たれたボール大の炎の塊が、卵にように亀裂が起こし割れた。

 炎が勢いよく吹き上がると、炎は徐々に人型を形成して行き、元々のエヴァンジェリンの姿を取り戻した。

 ヨロヨロと歩き膝を地面に着く。

 これはエヴァンジェリンの奥の手の一つ。緊急時に使用する魔法である。

 本体が致死性のダメージを受けたとしても、分体を放っておけば、最悪死ぬ事は回避できる。だが、デメリットもあり、分体には最低限の魔力しか回せず、復活した直後は魔力が0の状態となると同時に魔力倦怠症候群に陥り、しばらく魔法を満足に使用できなくなるのだった。


(なんで、少女を助けようとしただけで、奥の手の『不死鳥』を使う事に、なるのッ)


 息切れを呼吸をして整える。

 なんとか立ち上がろうとするが、目眩もしているため、中々立ち上がる事ができない。


「エヴァさん!」


「姐さん。大丈夫ですかっ」


「……」


 やって来たのは、エヴァンジェリン率いるパーティー、『レヴァーテイン』の面々だ。

 シスター服に身を包んだ温和しそうな子の名前は、ルイーゼ・フィオリーナ。

 回復・補助系の魔法を得意とする女性で、病気を治すために薬学や医学も学んでいる。

 軽装備の鎧を着た活発な犬耳を生やした獣人の少女。シドニー・フィードラ

 パーティーにおいては斥候や隠密任務を主に担っている

 気怠そうな雰囲気を出し半眼の少女。ユタ=エル・ヤニングス

 とてもそうは見えないが数百年以上生きている賢者兼軍師。

 後、数人いる中規模パーティーであるが、他のメンバーは今回の任務にはついて来てはいない。

 お嬢様であるソフィアの戦闘稽古だった事もあり、エヴァンジェリンだけで十分だという判断から戦闘系メンバーは来なかった。


「……魔力の急激消費による魔力倦怠症候群。貴方がこんなになるなんて、何があった」


「そこに倒れている少女に触ったら、魔力が全部吸い取られた」


「姐さんの魔力をっすか!」


 シドニーはあり得ないと言った感じの顔をした。

 神霊級の精霊とハーフであるエヴァンジェリンの魔力は膨大だ。

 それを全部吸い取られたとなると、吸い取り、倒れている少女は普通の者ではないという事になる。

 ユタ=エルは倒れている少女に触れる。が、特に何も起こらない。


「なんで生きてる。これぐらいまで痩せ細ったら生きていけない。普通は死ぬ。エヴァの魔力を全て吸収したのも疑問。――興味深い」


「ユタ=エル様。私に診せて下さい」


「ん」


「……酷い、状態。シドニー。馬車を引っ張って下さい。荷台に入ってる薬や食料を使います」


「分かったッす」


 慌ててシドニーは、トュテエルス公爵邸に留めてある馬車へと向かう。


「栄養不足に酷い痣に傷……。どんな境遇だったのか想像堅くないです。エヴァさん、どうして彼女を?」


「ある人物からの依頼。この少女を助けて欲しいってね。依頼料は、バレスタイン大金貨2枚よ」


「大金貨2枚って、大金じゃないですか!?」


「エヴァの魔力を全て吸い取るほどの人物。色々と訳ありで当たり前だ。……本当に興味深い」


「……彼女を馬車に積んだら王都へ帰還する。王都ならきちんとした治療もしてあげられるでしょう」


「そうです、ね。ここでは出来る事が限られますから。エヴァさんの魔力回復薬も王都にならあります」


「そうだね」


 エヴァンジェリンは頷く。

 今回はソフィアの戦闘稽古であった事もあり、魔力回復薬は持ってきてなかった。通常の魔力回復薬ならルイーゼは馬車にある物で作る事が出来るのだが、エヴァンジェリンの膨大かつ濃厚な魔力を回復させるには、通常のものではほぼ効果がなく、専用の素材が必要となる。

 パーティーメンバーですら、エヴァンジェリンが魔力倦怠症候群に陥るところを今ままで見た事が無かった。

 それほどまでにエヴァンジェリンの魔力は膨大であり、魔力切れなどは想定外の出来事なのである。


「戦闘がメインのも誰か連れてくるべきだったね。今の私は、役立たずだし」


 今のエヴァンジェリンは、ただの娘と戦闘能力はほぼ変わりない。

 身体能力も普段は魔力で強化されているから圧倒的であるが、今はそれにすら回す魔力がない。

 だから、「役立たず」と言った表現は決して大げさではなかった。


(それにしても、痩せ細っているけどソフィアにどことなく似てる。もしかしてトュテエルス公爵家の隠し子、或いは忌み子のためにどこかに幽閉されていた可能性がある。――厄介だね)


 公爵家の誰にも言わないようにと念を押されていたので、その可能性は高いと考えた。

 貴族社会には、何かしらの理由で表に出せない子供がいるというのは、公然の秘密であった。特に忌み子は、禁忌とされており、生まれた直後に殺されるケースも少なくない。

 忌み子となるケースは双子だったり、占いで凶が出たりなど様々な場合が考えられた。


(一つ、気になるのはソフィアは『「私」は「私」を大切にしたい』と言ってたこと。隠し子、或いは忌み子で、血の繋がりのある姉妹だとしても、そんな言い方をするかな。それに私の魔力を枯渇するほどまで吸収するほどだ。――大金貨2枚だと安かったかもしれないね)


 下手すると今回のコレで、トュテエルス公爵家とトラブルを抱える可能性が浮上してきていた。

 貴族、それも公爵家と面倒事を構える事になると色々と面倒である。

 最悪の場合は、拠点を別の国に移す事も考えなければいけなくなる。

 その時はその時だと、エヴァンジェリンは割り切る。

 問題は、目の前の少女をソフィアと約束した通りに助けるのが先決であった。

 エヴァンジェリンが思考している内に、シドニーが馬車を走らせて来る。

 ルイーゼ達は少女を抱えて馬車へと乗り込むと、王都ロマニに向けて馬を走らせた。



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