01話 目覚めると地下牢


 目が覚めると、そこは薄暗く、松明の灯りで僅かに照らされた場所だった。

 なんで――私はこんな場所に居るんだっけ?

 意識が朦朧としているためか、記憶が曖昧だ。

 立ち上がろうした。けど、足に力が入らずに倒されてしまう。

 痛い――。


《……ようやく目が覚めたか》


 脳内に直接声が響いた。

 この声には、聞き覚えがある。

 デウス・エクス・マキナ。

 機械仕掛けの神。ナノよりも遙かに小さいヨクトマシン。出来る事はなんでも出来る存在。本人曰く、ナノマシンとの性能差は比べる事すら烏滸がましいほど隔絶されているのだと言う。分かり易く例えられた事はある。

 ザ○Ⅰがナノマシンだとすると、自分は∀ガ○ダ○だという。

 全く分かり易くない例えだよね。今にして思えば。

 とりあえずこの状況を知りたい。


《汝はこの世界に転生した》


 転生? 転生ってあのラノベで良くある転生?


《是》


 まってまって。

 えっと最後の記憶は――――、ああ、そうだ。

 世界を救うために、圧倒的強さを持つ存在に立ち向かったんだった。

 強かった。強かったなぁ。もう、それは無茶苦茶強かった。

 何回も死にかけて、なんとか勝てたんだけど……。そっか死んじゃったかぁ。


《否。そのような事実は無し。居酒屋でどんちゃん騒ぎの末に意思混濁するほどに泥酔。以前、奇怪な道具屋で購入して置いた、転生の魔法書を宴会芸として発動。現在に至る》


 やめて――。

 どの世界に宴会芸で、転生するバカがいるの!


《此処》


 そうですね。バカは私ですよね!!

 せめてトラックに退かれて転生とか、強者と相見えた末に転生とかが良かった。

 居酒屋でどんちゃん騒ぎをして宴会芸で転生とか、バカとしか言いよう無いじゃん。

 って言うか、止めてよ!


《汝の酒癖の悪さはかなり悪癖。一度、痛い目に遭えば改善すると思って放置。まさか転生するような事をするとは、我の想定外。反省する》


 あ、はい。ごめんなさい。本当にごめんなさい。

 これからは少しは控えます。

 それで話は戻るけど、今の現状は?


《汝の今世の名は、アリティナ・ディズム・トュテエルス。そして生まれて直ぐにこの地下牢に幽閉された》


 生まれて直ぐに地下牢に? なんで?


《原因は不明。汝に我の声が届く事無く、権限が大幅に制限されていた為、生命活動維持に全ユニットを使用。故に我自身も情報不足》


 デウス・エクス・マキナに分からないのなら、私に分かる事はないね。

 改めて見回してみした。

 地下牢って言うけど、ただ土を掘って空間を広げただけの場所。

 壁には1本の松明があるだけ。

 部屋にはベッドなんて物はなく、ただ一枚の毛布があるだけ。しかもかなりのボロボロ。

 トイレらしき物すらない。

 ……これって囚人以下の扱いじゃない?

 生まれて直ぐって事は、実の両親がこれをしてるって事だよね。

 子は親を選べない。転生者も転生先は選べないって事か。


 扉が開いた。向こう側も灯りはなく薄暗い。

 入ってきたのは、20歳半ばだと思われるメイドだった。

 外見は私が言うのもなんだけど普通だ。

 両手でトレーを持ったまま、私の前に来ると足で思いっきり蹴ってきた。


「げっほっ、あっぁぁ――」


「ああ、そこに居たのですか。暗くて分かりませんでした」


 嘲笑する顔で何を言って……ッ。

 メイドはトレーの上に乗っているパンを無造作に地面に落とす。

 見ただけでカビが生えている事が分かるほどに痛んだパン。

 その上にスープを落としてきた。

 ――くっ、今は食べる、しかない。

 手を伸ばしてパンを取ろうとすると、手のひらを勢いよく踏まれる。


「がぁっああ」


「何、人間と同じ手で食べようとしてるんです。畜生と同じく口だけで食べるんですよ」


 ――……思い、出した。

 私は、ずっと、ずっとずっとずっと、この地下牢で、この扱いを受けてきた。

 汚水を身体に浴びせられた事もあった。

 メイドやバトラー達が来ては、嘲笑したり、ストレス発散で暴行された事もあった。

 ああ、私にデウス・エクス・マキナが居なければ、もうずっと前に死んでいたはず。


 怒りのあまり踏まれ擦りつけられている手の痛みも感じない。

 なんで私がこんな扱いを受けないといけないの!

 生まれて直ぐと言う事は、何もしてないはずっ。

 怒りのあまりメイドを睨み付けると、それが気に入れないのか、身体に再び蹴りを入れてきた。

 一回、二回、三回…………。

 口からは吐血して、意識が朦朧としてくる。


「デウス・エクス・マキナ。アリティナ・ディズム・トュテエルスが命じる。コレを吸収してエネルギーに変換せよ」


「言葉を――」


 メイドは私が言葉を発した事に驚いた直後に頸が飛ぶ。

 そしてヨクトマシンが私の身体から出て行き、メイドの肉体に寄生して捕食する。

 出来る事はなんでも出来るには、それなりのエネルギーが必要だ。

 エネルギー効率はナノマシンよりも格段に良く。同じ動作でも、ナノマシンとでは消費エネルギーはずいぶんと違うとか。

 そもそもナノマシンを識らないので、なんとも言い様がない。


《栄養不足の所を我が一時的に補強。早急に栄養確保を推奨》


 デウス・エクス・マキナに言われて、なんとか立ち上がる。

 これだけでもかなりキツい。

 長年の栄養不足に虐待のダメージ。

 今の私は幼児と同等以下程度。なんとか歩くぐらいしか出来ない。

 出て行っても、直ぐに捕まるんじゃあ――。


《メイドを捕食した際に、知識と記憶を吸収に成功。このまま上に行っても問題なし》


 デウス・エクス・マキナに言われ、地下牢から出て、土で出来た階段を昇る。

 上は古ぼけた小屋だった。置いている物からして倉庫だろう。

 埃っぽくて長年、まともにきちんと清掃をされてないのが分かる。


《此処は不要品を置いておく倉庫。要らない物を、とりあえず入れておく場所》


 ははは。私は、不要品って訳だ。

 怒りのあまりにもう乾いた笑みしか出てこない。

 閉められた扉を開けて外に出ると、木と草木が多い茂っている。

 一応はここまでの道らしきのは、整理はされている。

 ――でも、これをそのまま行って、誰かに見つかるのは避けたい。

 さっきは怒りのあまりデウス・エクス・マキナにメイドを殺させてエネルギーにしたけど、あまりそういう事はしたくない。

 草木が茂っている中を隠れながら道沿いに進んでいく。


「あれは……」


《トュテエルス公爵家本邸。現在は、夜会が開かれている模様》



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