第38話 ハムの魔術

 5月5日、こどもの日。ゴールデンウィーク最終日のこの日は文芸部の部活がある。

 別に行っても行かなくても良いのだが、どうせ暇だし行くことにした。


 ガラガラ。


「おはようございまーす」

 私は挨拶をして旧図書室に入る。

「あ、菜千ちゃん!おはようございます!」

「なっちゃんおはよ!」

「おはよ」

「あれ?みんな来てたんだ」

 旧図書室には、いつもの三人が机を合わせて談笑していた。

 それと、あと一人。知らない人がハム先輩がいつも座ってる机に座っている。

 誰だ?大分スタイルが良いがあんな人いたか?

「………あの人、誰?」

「さあ……私が来た時には既にいましたけど…」

「私も知らなーい」

「右(清水)に同じ」

 一年生は私達四人しかいないから恐らく先輩だとは思うけど………。

「先輩………かな…?だとしたら挨拶くらいした方がいいよね」

「そうですね…一応同じ部活の人ですし」

「じゃあ、早速行こ」

 私達は四人で例の先輩の元へ向かった。

 ……どうかこの人が曲者でない事を願う。今のところ文芸部は曲者の溜まり場になっているし。

「あのー………」

「何かしら、揃いも揃って」

 ………ん?この声聞いたことあるな。

 少しスッキリした感じがするけど、確実にあの人の声だよな……。

 気のせいか?

「は、初めまして。一年生の桃井菜千です。よ、よろしくお願いします……」

「初めまして?何言ってるの。………まさかこの四日間の間で私の事を忘れたの?」

「え?」

 ………この喋り方。やっぱり……?

「もしかして………ハム先輩?」

「……あなたいつの間に私をあだ名で呼ぶようになったのよ……。まぁいいわ。そうよ。羽舞音よ、文句あるかしら?」

「………まじか!?」

 ……嘘でしょ!?ずんぐりむっくりだったあのハム先輩!?

 四日間で何があった!?痩せすぎでしょ!?

「まじか!?って何よ……そんなに痩せたのが驚き?」

「あ、自覚あるんですね」

 まさかの自覚ありだった。まぁ、そうか。自覚なしで痩せるなんてほぼないか。

「な、何で急に痩せたんですか……?」

「太ってる意味が無くなったから」

 うん。どゆこと?

 太ってる意味?

 何?今まで太っていたのは何か意味があったっていうんですか?

「ど、どういうことですか?」

「あぁ………私ね、絵を描いてるの。イラストレーターってやつ。そこで太った人を描きたくて太ってみたのよ」

「ど、どういうことですか?」

 説明されても分からん。 太った人を描きたくて太ってみた?同じ気持ちになってみたってこと?

「はぁ………だから、自分の体を参考にして描いたってこと。見本があった方が描きやすいでしょ?」

「そ、そうなんですか………?」

 だからってそのために太るの?何かすごいな………。

 っていうか。

「この四日間だけでよくそこまで痩せれましたね………」

 四日間で人はそこまで体型を変えれるのだろうか。

 いや、無理でしょ普通。

「秘密の特訓よ………ふふふ……」

「そ、そうなんですか………」

 ………それはそうとして。

 顔、お姉さんにそっくりだな。ちなみに、お姉さんとは保健室の先生の事である。

 太ってた頃についていた贅肉が削ぎ落とされたことによって本来の顔のフォルムを取り戻している。

 しっかりと小顔じゃん。うらやましい………。

「それで?まだ何か用?」

「い、いえ別に………」

 ……ハムの魔術。

 彼女の秘密の特訓が人知れずそう呼ばれているのを後日知った……。

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幸せと思うべき私の日常はどこかお(か)しい 1²(一之二乗) @sanichitasusi

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