第339話 豪毅のおじいちゃんありがとーっ!(エピローグ )
正人が札幌遠征してから一ヶ月が経過した。
鳥人族の生き残りを捕まえると探索協会と警察が協力して情報の収集を行い、いくつかのことがわかった。
地球に侵略してきている異世界の種族は鬼人族、蟻人族、鳥人族の三種族に加えてラオキア教団を支配している人間族がいる。正人の活躍によって鬼人族はサラとレイア以外は全滅しており、鳥人族も壊滅状態だ。北海道の支配が失敗し、巫女も死亡しているため新たに異世界から仲間を呼び寄せることも不可能であり、侵略するほどの戦力は残っていない。生き残りは隠れながら生活していくしかないだろう。
問題は蟻人族と人間族だ。
特に蟻人族は急速に数を増やしつつ世界に広がっている。探索者のレベルが二以上であれば蟻人族の一般兵士級とやりあるが、隊長級、エリート級、その他特殊な階級の蟻人族相手だとレベル三は欲しい。また倒しても新たに生み出される蟻人族の方が多く人類は疲弊するばかり。物資の輸送も地上へ進出したモンスターに襲われてしまい、弾薬の補充もままならない。
現代兵器を使ってなんとか拮抗しているが、レベルとスキルが浸透して間もない地球にとって厳しい状況は続く。
そういった世界情勢の中で日本が蟻人族に襲われていない理由は一つだけ。
鳥人族、鬼人族が狙っていた場所だからだ。
異世界の種族同士の潰し合いを避けるために、蟻人族は日本の周辺国を避けており今だ仮初めの平和は維持できているが、それも時間の問題だ。侵略が進めば日本だって最後は攻め込まれる。しかも孤立した状態で。
勝てる見込みはゼロだ。
絶望的な戦況になってしまう前に手を打つ必要がある。
それはラオキア教団を潰すことや鳥人族を殲滅するよりも優先度は高い。
すぐに動かなければならないため、尋問を終えた豪毅は正人たちを探索協会に呼び寄せた。
◇ ◇ ◇
「物資輸送の護衛、鳥人族の調査、ラオキア教団の幹部捕獲、鳥人族の尋問協力……いやぁ、正人君には大分世話になったね。日本最強は伊達じゃない。助かったよ!」
広い会議室の最奥に座る豪毅は笑顔を浮かべながら、依頼を遂行した四人を笑顔で褒めていた。
探索協会の実質的な支配者である彼がこういった態度に出るのは異例だ。
ヒナタを除く三人は警戒心が高まっていく。
「豪毅のおじいちゃんありがとーっ!」
活躍を認められて嬉しくなったヒナタがお礼を言うと、一瞬だけ豪毅の心は緩んだがすぐ元に戻る。
「実は、ようやくエスト枢機卿も聞き取りが終わった」
目覚めた後、一時的に幼児退行していたエスト枢機卿に対し、探索協会は定期的に薬剤を投入して動けないようにしてから尋問を行っていた。あまりにも非人道的な行いをしているため実態を知っているのは数名ほど。捕らえた正人ですら何をされているかは知らない。
現在は実験材料として何度も殺されては蘇ることを繰り返していて、今後も自由を得ることは出来ないだろう。
「よく彼が話しましたね」
「異世界人だろうが所詮は人間だ。蟻とは違って、やりようはある」
薄暗いことをしているとほのめかしながら豪毅は話を続ける。
「ラオキア教団の創設理由や組織構造は把握できた。教団の上層部は異世界人で占められていて、地球の侵略を目的に活動しているらしい。ダンジョンが発生した時期から活動していたというのだから、ヤツらは入念な計画をして行動していたことがわかる」
さらに豪毅はダンジョンが地球に発生した理由や異世界の事情についても正人たちに話していく。
ほとんど知っていることではあったが、驚きや相づちをうちながら静かに聞いていた。
「ラオキア教団の話はこんなものだ。次は現在発生している蟻人族の侵攻である。アレを早く止めなければ人類は滅ぶぞ」
「そんなに酷い状況なんですか?」
あまりにも重い言葉に冷夏は思わず聞き返した。
「うむ。非公開にされているが今の状況は持って五年、早ければ一年以内に崩れるだろう」
突然の余命宣告に四人は息を呑んだ。
まさかそこまで人類側が押されているとは思ってもみなかったのだ。
会議室内に重い空気が漂っている。
この結果は豪毅の狙い通りだ。金や権力で押さえつけられない正人に命令を下すのであれば、遠回しに家族が危険だと伝えるのが効果的なのである。
副会長までの地位まで上り詰めた男は当然、無能ではない。人を動かす術を心得ていた。
「だが希望は残っている。蟻人族反攻作戦は進んでいて、正人君にも協力をお願いしたいのだ」
「具体的な話を聞かせてください」
正人の言葉に里香、冷夏、ヒナタの三人はうなずいた。
全員から蟻人族を止めたいと強い意思を感じる。
豪毅は予定していたとおりに話が進んでいると確信していた。
「実は蟻人族は今もダンジョンから仲間を呼び寄せているらしい。倒しても数が減らないのは、これが原因だったようだ」
「巫女が生きているのですか?」
「いや、死んでいる。エスト枢機卿の考えでは『召喚』スキルを覚えた個体が生まれたんじゃないかと推測していた」
異世界から地球に召喚するスキルを使い継続的に仲間を補充しているとしたら、補給を叩く必要がある。正人は何を依頼されるかわかったのだ。
「その『召喚』スキル持ちの個体を討伐すれば良いんですね?」
「もしくは類するスキルを持っている個体だ。危険な任務だがお願いできないか」
「私以外に参加する人はいます?」
「むろんだ。各国から有名な探索者が派遣される。しかし一緒には行動できない。ひとまとめに移動しているところを狙われたら終わりだからな。その代わり正人君が必要だと思った人材であればパーティに加えてかまわない。それこそ犯罪者でもかまわんぞ」
豪毅はユーリの参戦まで許可するようなことをほのめかした。
人類の歴史上に残る犯罪者でも使わなければいけない。それほど人類側は劣勢なのだ。
「それで蟻人族を倒した後に捕まえるんですね?」
「そんなことはしない。地球を救った功績で過去の罪は問われなくなる。要は恩赦だな。日本だけじゃなく世界でそういった方針になっており、世間に公表されるから覆ることはない」
利益や権力の為には立場の弱い探索者を使い捨ててきた組織だ。簡単に信じることはできないが、ユーリと美都を救う最初で最後のチャンスになるのは間違いない。
断れば近代日本において最大級の犯罪者として追われ続ける。
追跡系のスキルが発見されれば、すぐにでも見つかってしまう。捕まるのが時間の問題であるなら、高値で売れるうちに行動するべき。それが正人の出した結論であった。
「報酬の後払いは信じられません」
「先に恩赦をだせと……相手は誰だ?」
「武田ユーリ、それと協力者の美都です」
「蟻人族が支配するダンジョンに二人とも入ると約束できるか?」
「説得します」
「…………いいだろう。三日後の参加メンバー発表会に参加するのであれば、その場で恩赦を出すことも公表する」
「わかりました。それでお願いします」
交渉は終わった。
追跡されるのを懸念した正人は、里香たちを魔力で包み『転移』で自宅に戻ると、武田ユーリが待つ部屋に入っていった。
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【あとがき】
先ほど発表されましたが、本作がコミカライズされます!
これも長く応援続けてくれた読者さんのおかげです!
詳しくは近況ノートをご確認ください!
また電子書籍版がKindle販売されているので、そちらも読んでもらえると続きを書くモチベーションとなります!
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