全員がのんべんだらりと歩き進んだ
「邪馬台国が宮崎ぃ!?。幸田はなんで、そんな戯言を?。アホちゃうか(ワラ」
と思われる方も、沢山いらっしゃると思います。
それはおいおい詳しく説明するとして、まずは「陸行一月」について幸田の考察を述べます。
この陸路の特徴は、延々
霧島連峰を通過する間中、ずっと木々の生い茂る山路が続きます。
想像してみて下さい。日中ほとんど、太陽が見えないのです。木々の間からわずかに木漏れ日が挿す程度の、昼なお暗き道を延々進むのです。
はたして方角がハッキリと判るでしょうか。
ましてや御一行様は、後ほど説明しますが概ね川沿いを歩いたと思われます。
川は蛇行しています。現在のように都合よくあちこちに橋が架かっているわけでもないので、それに沿って歩くしかないのです。くねくねと蛇行する川沿いを延々と歩けば、ますます方角もよく判らなくなったことでしょう。
ちなみにこのルート、現在は立派な道路が通っていますが、それまでは大変な難所でした。人吉えびの間の加久藤峠などは、標高差130mを複数のループ橋と6本のトンネルで貫いています。
これと概ね並行するように開通した九州自動車道は、八代えびの間の山間部に20本以上のトンネルを掘り、九州を東西に貫いています。そのうち肥後トンネルと加久藤トンネルは、6kmオーバーという長大なものです。
古代の人々が、ほぼ同ルートを大変な思いをして歩いた事は、想像に難くないでしょう。
このルート(八代-宮崎間)は、現在の道路であれば150km程度です。
「江戸時代の旅人なら1日30kmばかし歩いたそうだから、ざっと5日の旅程か……。それじゃあ、魏朝の一行はどうなの?。1ヶ月かかったって仮説は、そりゃ無理があるんじゃない?。1ヶ月の距離にしちゃぁ、短過ぎじゃないの?」
と思う方も、おられるでしょう。
いえいえいえ。大陸の人々の移動距離は、想像以上にゆるゆるだったようです。
例えば有名な孫子の兵法書に、興味深い事が書かれています。軍隊の理想的な移動距離は、「1日十数km」らしいのです。
そもそも軍隊は、騎馬のみならず歩兵もいます。おまけに兵糧等を運ぶ荷駄部隊もいますから、それ程早く進めるわけではありません。
ましてや大陸では、権力者の私利私欲で軍事作戦を興しますから、軍隊の士気が低い。行軍速度をわずかに上げただけで、途端に逃亡者が続出するのです。いざ戦場に辿り着いた頃には、兵も荷駄もゴッソリ居なくなっていた……という笑えない状況が生じました。
孫子は、軍隊の行軍速度をどの程度に設定すると兵がどの程度減少する、という研究まで行っています。
結局最適な行軍速度とはどの程度なのか。――
それが孫子
いわんや魏朝使者御一行様であれば、さらにそれ以下だった事は明々白々でしょう。
なにしろ倭国には牛も馬もいないと書かれていますから、荷駄車を牛や馬に牽かせるわけにいかないのです。全部人力運搬だったと考えられます。
おまけに贅沢で怠惰な高官連中が、
「腰も尻も痛いアル。もっとゆっくり進むアルよ」
とぼやいたことでしょう。
その証拠に「唐六典」などといった書物には、1日あたりの移動距離が物凄く短かった事実を示唆するような記述があるそうです。1日数kmだとか、あたかも祭りの屋台を冷やかして歩くかのようなスローペースだった可能性が(笑)あるのです。
夏場の霧島連峰山中であれば、猛烈に蒸し暑い、虫だらけの道なき山路でしょうから、尚更の事です。全員がのんべんだらりと歩き進んだに違いありません。
それを魏朝使者御一行様が「陸行一月」と記した。或いは陳寿が一行の報告書を諸々検討した上で、方角不明の「陸行一月」と記した。――
どこかに異論の余地があるでしょうか。
なお、佐賀平野から宮崎平野までの距離は、今日のルートで250km前後です。里数に換算して三千里余り。
各行程間の距離合計残(千五百里)から言えば、ちょっと長過ぎるかもしれません。しかし帯方郡からの総距離数で考えれば、誤差の範囲内に収まると言えます。
総合的に考えれば、北部九州伊都国から近くて遠い「矛盾」、陸行一月の距離不明方角不明の「謎」に、全て合理的説明がつくのです。
皆さんも直接、地図を見てご確認下さい。ここまで幸田の解説したルートは、帯方郡(おそらく現在の北朝鮮平壌付近)から宮崎までの、現実的最短ルートでもある……という事がお解り頂けると思います。
かつ、確かに総距離ざっと万二千余里(900km強)で、さらには会稽東治(現在の江蘇省蘇州市付近)の東という位置関係にも合致します。
いえいえ、それだけではありません。歴史観、政治力学的観点、考古学的成果……等々、ありとあらゆる視点から総合的に考えて、一番合理的説明のつくのが、実は「日向国(宮崎)説」なのです。
次節以降、それを詳しく解説致します。
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