異世界に弾かれた「異」世界。
大空 殻捨
平和
異世界から弾かれた、「異」世界
大空 殻捨
朝日に問いただされるように目を開ける、まだ寝ていたいのに。少しの頭痛と立ちくらみをかき消すようにクローゼットの前まで歩き服を着る。
「少し痩せたか」
クローゼットについている大きな鏡が自分の姿を包み隠さずに示してくれる、道路の標識とは少し違うかな?
この世界は少し前から少しずつ狂い始めた、二階から降りる音も以前よりはっきり聴こえてくる、僕には妻と子供がいた、いつもカーペットには子供のおもちゃが溢れかえっていた。玄関の戸を開ける前から愛しい声が聴こえていた。
「でももういない」
キッチンでお湯を沸かしインスタントコーヒーを入れ椅子に座った、椅子の軋む音もカップを置く音も耳を劈いてくる。僕は置いて行かれたのだ“あの日”から世界は止まった。
「平和なのか?」
そう、この世界からある日を境に僕以外の生き物が消えてしまったのだ。ある日ニュースで自殺者が増えていると報道されてから、知らず知らずのうちに人が消えていった、水の中の音を聞くみたいにそれは半透明で信じ難い物だった。
静まり返った別世界からは違和感が溢れ出していて、僕は生きながら死んでいて、体から出る汗と肺の感覚だけが頼りだった。
近くの海も水たまりとかし今日も一つも波を立てない、「そうだ船の勉強をしよう」この世界の絶景を全て見てやる、エベレストも富士山も全部だ。僕は早速車を走らせ大きな本屋がある町に車を止めた。あそこにいても何にもない。
本屋の扉を叩き壊しその音が世界とはっきり一体化する、そのお店では一週間くらい時間を使って本を読んだ。
それから日本中の本屋を回った、なるべく燃費の低い車にも乗った、でも僕には時間がなかった、この世界には食べ物がない、草も花も何一つ。
だんだんと焦りが近づいてくる、とりあえず飛行機に乗って僕はできるだけ飛び続けた。雲を超えないように飛び続けた。
異世界に弾かれた「異」世界。 大空 殻捨 @syoukk
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