3-4「垣堅くして犬入らず」
「ご、ごめんなさい。昔から男性を実家に連れてくるときは、結婚前提の相手だけをきつく言われてて、その、初めて男性をあげるので、その……」
犬養柴乃はもじもじしながら私と香織に打ち明けた。どうもこの家の事情は深刻層である。話によれば、幼少期より異性を家にあげる際は、その者が結婚前提であるという条件を祖母より提示されていたらしい。犬養柴乃にとっては男性選びはことさら慎重にならなければならなかったことだろう。私の友人の安達が大して見向きもされていなかったあたりからも感じられる。
「それは、もう少し早く話してくれれば、もう少し私たちも心の準備もできたのに……」
「変に委縮されては困ると思って……。ごめんなさい」
「まあ、もう起きたことは仕方ないですし。それより、犬養家では結婚前提の異性しか家にはあげてはいけない、というのは昔からの風習なんですか?」
「うーん、祖母から話を聞いていただけなので、そうなのだろう、としか。実際に穂積
柴乃さんとやり取りしていると、香織が割って入ってきた。
「なんか普通にやり取りしてるけど、結婚だよ!? もっと事の重大さに気付いた方がいいんじゃないの?」
「今更慌てたってしょうがないだろ。とにかく、今はこの家の呪い、とかいうものの正体を突き止めることに集中した方がいい。他者の風習に口出しなんでしたくないのが本音だが、実際に柴乃さんが訊かされた話と、亡くなったご両親の馴れ初め話に矛盾があるのは気になる」
「えっと、二十歳の誕生日を迎えた後の一年以内に結婚をするしきたり……なんでしたっけ、柴乃さん」
「はい。ですが私の母は父とは五歳差。姉さん女房だったので、二十歳そこらで本当に結婚していたんだとしたら、婿に迎えた父は結婚当時中高生あたりと、いくらしきたりとはいえ法律上矛盾してます」
犬養柴乃の両親は、母を
気になるのは、この柴乃さんの周りで起こっている全ての出来事の出発点が、柴乃さんが物心つく頃に遡る点だが、これが何を意味するのかはいまだ解らない。だが、穂積さんの夫である和騎さんと、その娘であるレオナさんは、柴乃さんの物心つく頃にはこの屋敷にいなかった人間であるため、この家について偏った見解を持っていなさそうである。とすれば、いきなり家長である金之助・一蝶夫婦やこの家を長年にわたってみてきた田北家政婦よりもずっと、穂積親子にことを聞いた方が安全に調査出来そうだった。
何度も話しているが、他人の風習に土足で踏み込むなど、個人的にはしたくないことだった。しかし、この犬養家には気になることが多すぎる。私はそれを、確認せずにはいられなかったのだ。
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