2-2「消えた盗品」
「つまりはどうしてほしいんだ。本当の万引き犯を捕まえてほしいのか、それとも無実を証明してほしいのか」
「できれば、どっちも」
堂崎美琴は即答した。考えとしては、自分の無実をきっちり証明し、そして可能なら本当の万引き犯をとっつ構えて懲らしめてやろうという魂胆だろう。女の世界とは総じて恐ろしいものである。偏見ではあるが。
「しかし全く面倒な。万引きの無実の証明? 聞いた話では、自分のバッグからその盗んだものは出てこなかったそうだが、それで証明にはならなかったのか」
「ならなかったから停学食らってんだよ!」
「ねえ堂崎、もう少し丁寧に、正確に話できない?」
「あ?」
「あ? じゃなくて、もっと詳細に思い出せないかって聞いてるんだけど」
「あ、ああ、そういうことか」
香織はどういうわけか堂崎の扱いに長けていた。いや恐らくは、こっちは頼まれて仕方なくやっているんだから文句言わず従え、というのを暗に示しているのかもしれない。不良ギャルというのは個人的に子供と同じくらい取っつき難いが、香織がいるだけで進行がまるで違う。
「えっと……まず警報機が鳴ったんだよ。ほらあるだろ、出入り口にあるアレ」
「ああ、防犯ゲートだな」
「あたし、いままでそういうの鳴ったことなくて、急に鳴ったからビビっちまって。でもほら、盗んでないからさ、最初は大人しくちゃんと店員の確認に従ったんだ」
「ふむ。ちなみにその時なにか買ったりとかは」
「何か買おうかなとは思ったんだけどさ。化粧品。でもその日あいにく手持ちないのを思い出して買わなかったんだ。でも、鞄の中身確認した店員が、突然こそこそし出して……」
「こそこそし出した?」
「急に、ちょっとお待ちくださいとか言って、どっか行っちゃって。二、三分した頃だったと思う。店長っぽい人に、ちょっと来てくださいって言われて。で、どうやら防犯カメラであたしらが化粧品コーナーにいたのを見つけたらしくて、鞄じゃなくてポッケとかに入っているんじゃないかって疑い始めて」
「待て」
私はそこまで聞いて一度制止を掛けた。いくつか気になることがあったからだ。
「あたしら、ということは、複数人でその店に行ったのか?」
「お、おう。よくつるんでるやつと三人で。桜庭なら知ってるよ、
「あー、
六城弥咲と保屋朱音は、堂崎美琴とグループを組んでいる生徒で、同じく不良の部類に入る。聞けばこの二人は停学ではなく、自宅謹慎中らしい。というのも、盗んだのは堂崎、六城と保屋は見て見ぬふりをしたか、つるんでいたが万引きに気付かなかったとして、実行犯ではないが謹慎という形を取ったらしい。
「なるほど。じゃあその六城ってやつと保屋ってやつも、身体検査みたいなのは受けたのか?」
「当然。というか、サツ呼んでマジのやつやったのよ」
「……要約すると?」
「お巡りさん呼ばれて、一人ずつちゃんと調べられたって事じゃない?」
「あーそれそれ。ホントに一人ずつ。なんていうのかな、示し合わせ? とかしないために、女の警察官があたしらをくまなくチェックして。で、終わったら、どこにも盗んだとかいう奴出てこなかったのに、盗んだことにされてたんだよ!」
「チェックを受けて、君自身からは何も出てこなかったのにか?」
「そう! おかしくない? いやあたしもちょっとは、なんかの拍子に商品が入っちゃってーとか、思ったけどさ。何も出てこなかったんだよ? それなのに盗んだことになるってさ……ほんと……」
そこまで言って、さっきまで力強かった言葉が急に弱くなっていった。
「……あたしさ、親がめっちゃ厳しくて。親も別の学校で先生しててさ……。躾け厳しくて、勉強しろ勉強しろって言われ続けて。この高校入ったけど、親の敷いたレールで生きるのがつらくなってきたというか、だからちょっとした反抗心で不良みたいなことやってるけどさ……。本当の犯罪とか、そういうのは、本気でダメってそれだけは思ってて……」
「堂崎……」
「だってさ……やってないのに、親からめっちゃ怒られて、喧嘩して、ほぼ勘当みたいにされて」
「え、じゃあ今どこで生活してんの!?」
「……」
「堂崎、まさか今……」
「……なんでこうなっちゃったのかな……。親に反抗したのがいけなかったのかな……。もう……どうしたらいいかわかんなくて……」
三角に座り、顔を足に沈めて、表情こそ全く見えないがその声は涙を堪えきれずにいた。さすがの私でも、なにか直感的に、彼女はやっていないような気がした。
だがそれはそれ、これはこれである。急に呼び出されて面識もない人物の無実を証明するなど、一介の大学生には無理な話である。
「……事情は分かったが、無実を証明するというのは、残念だが難しい。なんせあの不法投棄の時とはわけが違う。本当だろうが嘘だろうが、物が盗まれたことで騒ぎになったのは事実なんだろう?」
「ちょ、小春何もそこまで言うことは……」
「……」
「けど、盗まれたはずのものが出てきていない、それなのに万引き犯にされたっていうのは、どうも引っ掛かる。そこが不思議でたまらない。なあ、もしその盗まれたって言う商品は、君は知っているのか?」
「……盗んでないから、何が盗まれたのかは知らない」
「分かった。じゃあこれから、自分が疑問に思ったことを調べてみよう。その結果が、君の無実を証明する材料に成り得るかもしれない」
「……ほんと?」
「可能性の話だから、ならないかもしれない。でも、やらないよりマシだろ? 君が本当にやってないのなら、堂々と胸を張って、自分を信じろ」
非常に面倒くさいが、どうしても消えた盗品は何処へ行ったのかが気になってしまった。気になったことは納得のいくまで調べる性分だ。この性質には抗えない。
「それじゃあ、まずはその万引き事件が起きた店に行ってみよう。案内を頼むよ」
「……ほら、行こ? 堂崎」
「……ん」
香織が優しく語り掛け、手を差し出す。堂崎は促されるままに、その手を取った。
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