絶望の色は……

星月 猫

絶望の色は……

ある日突然、神は言った。

『このセカイにはもう、ヒトは入り切らぬ。新たなセカイを作る事も出来ぬ。──ならば仕方なかろう』


そしてセカイは2つに分かたれた。

その時の人々はこれを"ラジオの電波を合わせるように、人の半分をココとは違う周波数のセカイに送ってしまった"と考えた。

そして。

家族は、友はどこへと──絶望した。


そして、長い長い月日が流れた。


***


雪に閉ざされた、色の無いセカイのとある場所に風車がぽつんと建っている。

その中に老人と小さな男の子が居た。

「かつてセカイには『色』というモノが有ったそうじゃ」

「いろ?」

「そうじゃ。赤、青、緑、紫、黄……『色』のあるセカイとはどんなモノだったか、今となっては伝説に残るのみじゃが……」

「でんせつ?」

「曰く、分かたれたセカイの片方には色が残った。そのセカイは明るく、とても美しいと言う。しかし、もう片方……こちら側には2つしか残らなかった。それは白と黒。これが色の無いセカイに唯一残された色だそうじゃ」

老人の瞳は何も映していなかった。

しかし、その手は男の子の髪を優しく撫でている。

「……残されたと言われているが、白とは、黒とはどんなモノを指すのか、こちらに住むわしらにはもう分からぬよ」


***


数年が経ち、“男の子”は“少年”になっていた。

そして、老人の姿は見えなかった。

少年はずっと冬を生きている。

四季とは、片割れの世界にあるという幻想にしか過ぎないのだ。

「それでも時間は進んでいるらしい」

今は昼でも太陽が登らない極夜だ。

しかし、壁際の大きな鏡の上にある時計は……

「……動いてないな。ついに壊れたか」

すぐにでも直したい。が、周りは一面が雪景色だ。とても街に行けそうはなかった。

仕方ないという顔になった少年は窓を開ける。

窓枠に腰掛けて、ぽつぽつと歌いだした。

いつの間にか雪は結晶となり、部屋を照らすランプの光でキラキラと輝いた。

ぽつり、と少年の瞳からも光が漏れる。

しかしそれを見た者は、ぼんやりと鏡に映る少年だけだった。


あくる日も少年は窓枠に腰掛けていた。

もう、歌は聞こえない。

時計はときを刻む事を忘れている。

少年はただ星を見ていた。

その瞳に光はない。

──突然、強い風が吹く。

思わず、顔を背けた。


しばらくして、やっと風が止んだ。

それを確認しつつ、顔を上げた時。

少年の瞳が見開かれた。

「……明る、い?」

空に太陽が登りつつあったのだ。


キラリ


その光に引き寄せられるように、少年は背後を見る。

そこには鏡"だった"モノがあった。

「えっ……?」

そこには少女の姿が映っていた。しかも少女は"踊っている"のだ。

少年は恐る恐る、鏡の前に向かう。

少女は歌っていた。声も聴こえる。

そしてその歌は、かつて少年が口ずさんでいた歌ではなかったか──?


少年は歌った。

少女が口ずさむ、その歌を。


その声に少女も気づいたようだ。

初めこそ驚いた顔をいていたが、歌う事をやめたりはしなかった。

2人の歌声は、遠く、高く、青空に響いた。


やがて歌が終わり、2人は同時に微笑んだ。

ふと彼らは、ある事に気が付いた。

鏡の向こう側には──


「「そちらが、『色』のあるセカイですか?」」


風車の周りの地面に積もった雪の隙間から、色とりどりの草花が芽吹いている事を。

彼らはまだ、知らない。

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絶望の色は…… 星月 猫 @hosidukineko

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