第8話 あの日に焦がれて、伝えたいその言葉
自身のすぐ脇を歩き過ぎ去るハズキ横目に、目の前に赴いたアンズへ夜兎は言葉を発する。
「それでは、銀露地アンズ様。
依頼は完了ということで。
「うん。ありがとうございます夜兎さん」
「いえいえ」
「それじゃあ夜兎さん、依頼の報酬は指定の口座に振り込んでおきますね」
「はい よろしくお願いします」
「源犀さんにも宜しく伝えてください。」
そう言うとアンズは、軽く会釈をしてハズキの後を追う様に夜兎の横を過ぎ去っていく。
「はい。かしこまりました」
夜兎もまた胸に手を当て軽く会釈をした。
そして、見据えるは傷つき呆然と立ちつくす目の前の木蓮だ。
ハズキとアンズの従者である黒服の者達のその多くの者が意識を取り戻し、目を覚ませば居なくなった2人の姿に不安の色がその表情に映る。
すると、向こう側から2人が歩み寄ってくる。
「アンズ様! ハズキ様も!」
彼らはすぐ様、2人の元へと駆け寄り安堵の表情を浮かべた。
「ご無事でしたか……!」
「みんなごめんね。ほら、ハズキちゃんも」
アンズは心配をかけた事への謝意を述べ横にいるハズキへと声を掛けた。
「……迷惑かけたわね」
合わせる顔が無いと少し抵抗を感じて、ハズキは目を逸らして、そう発した。
「いえ、とんでもありません!
ハズキ様がご無事なら、それで何よりです!」
黒服の者達は嬉しそうに表情を浮かべて答える。
そんな姿に「……そう」とハズキは小さく呟いた。
すると、アンズは近くにいた黒服の女性従者へと声を掛けた。
「それより、
お願いしたい事があるのだけれど……」
「はい。なんでしょうか……?」
ショートカットの黒髪に、さらりと伸びた足とそれを引き立てるハイヒール。
胸部には凸を感じる黒のスーツ姿。
山中と呼ばれるその従者は、不思議そうに首を傾げる。
***
「さて、木蓮くん。僕たちも帰ろうか。」
夜兎は呆然と立ち尽くす、木蓮へと声を掛けた。
「…………」
だが、返事はなく沈黙。
「それにしても、痛々しいね。大丈夫?」
夜兎の視界には木蓮の手の火傷と剥がれた皮と抉れた皮膚、そして流れる血が映る。
「……こんくらい、慣れてますから」
木蓮はその傷んだ手をギュッと握りしめてそう答えた。
思考が纏まらず、納得もいっていないのだろう。
悔しさや苛立ち、様々な感情が絡み合い、それでいて不本意で煮え切らない部分があるのだと、傷んだ手を握った木蓮のその行為に心中を察した。
そして、小さく「そう」と頷く。
「……はい」
と言葉を返す木蓮の後に、
「「――――」」
少しの静寂な時間が出来た。
「なぁ、夜兎さん。おれ……」
そう切り出した木蓮の「おれ……」の後に出る言葉は何も無い。
何を言えば良いのか、何をどうすれば良いのか、何をしたいのか、白紙に戻された依頼に困惑していた。
「……そんなに思い詰めなくてもいいんじゃないかな?」
夜兎は暗く表情を落とす木蓮にそう発し言葉を続ける。
「キミの依頼は無かったことになったんだし、失敗した訳ではないんだ」
そう、失敗では無い。
依頼主本人が、それを断ったのだから。
無かったことにしたのだから。
木蓮に何も非はないのだ。
「でもさ……」
それでも、あの表情が頭に焼き付いていた。
平然を装っていたが、それでも何処か哀しそうに微笑んでいた。
ハズキのその表情が頭から離れない……
「キミはさ、知っていたのかい? 彼女らの正体を」
そんな木蓮に夜兎は一つの問いを投げかける。
「正体……?」
と、考える表情を浮かべて
「いや……何処ぞの金持ちのお嬢様か何かだろうってくらいには思ってたけど」
と自身のハズキへ抱いた印象を口にした。
「あながち間違えではないね。
でも、少し知らなすぎるかな。」
間違えではない。
だが、それを説明するには少し情報が足りなすぎる。
「キミが護っていた少女の名は
そして、瓜二つのもう一人の少女の名前が
「……銀露地?」
その姓に、少し驚いた表情を木蓮は浮かべた。
その
「そう、銀露地はね。
十三の
そして、今代の
この国の霊能力者なら誰しもが知る、十三の彩を司る一族。
その中で、銀露地は『銀」の彩を司る一族の家系の一つであるからだ。
そして、今代の『銀』の一族を代表する彩師十三家の一柱なのだ。
だが、それは彼女らの正体の序章に過ぎない。
「けど、問題はそこではないんだけどね。
彼女らの今の姓は父方のもの。
そして、母方の前の姓は『鳳凰』なんだ」
その時、木蓮を更なる驚愕が襲った。
「じゃあ、まさか……」
「そう、二人の母 その父。
いわゆる彼女らの祖父は、
この国の国民にその名を知らぬ者はいない。
先代とは言え元国王だ。
そして、彼女ら二人はその血を引いている――と。
「まじかよ……。」
そう驚愕に言葉が漏れる。
「そして、現国王は二人の叔父にあたる。
そんな、彼女ら二人は次代の日本国王候補の一人だ」
「ってことは、ハズキだけじゃなくアイツもそうだったのか……」
その時、木蓮の脳裏に浮かぶのは相対していた首元まで伸びた銀髪の碧瞳の女の子――銀露地アンズ
彼女もまた、ハズキと同じ立場おり、自身もその状況に身を置ていた――――不自由と言う名の縛れた縄の中に。
「分かっただろう?
銀露地ハズキ。逃げ出した彼女の身があそこまで固執され保護される理由が」
先代国王の血を引き、次代の国王候補となれば致仕方のない事。
だから必要にハズキは追われ、彼らはあそこまでハズキの身を案じていたのだ。
「でもまぁ、キミは良かったよね。
知らなかったとは言え、日本国王候補の一人に攻撃を仕掛けてしまったんだ。
本来なら許されざる重罪。
刑罰も間逃れないところだったけれど、彼女の寛大な措置のお蔭でその事実が不問となったんだから。」
そう笑みを浮かべて話す夜兎の言葉は今、木蓮へと届いてはいない。
「ん? まてよ、僕が彼女を助けなかったら……ってことを考えると僕のお蔭でもあるのかな?」
木蓮の思考を遮るのは、
――――そうだね。でも……
と言葉を詰まらせ、哀しみを滲ませたアンズのその姿だ。
(あいつもそうだったって言うのかよ……!)
どれだけ知ったような口をきいたのか。
アンズの立場も状況も理解せず、知りもしないで、言った数々の言葉が胸に突き刺さる。
(それでいて、自分の事なんかより他人のことかよ……!)
―――― ハズキちゃんの楽しそうに笑うその笑顔を私に見せてくれて ありがとう。
アンズのこの言葉が鮮明にフラッシュバックした。
自身も同じ状況に身を置きながら、不満を漏らすことなく、ただハズキの身を案じていた。
そして、少しの自由を感じることの出来たハズキに喜びを感じ、それを実現させた木蓮に感謝を述べた。
ただの嫌味の一つも吐かず、妬みや嫉妬も吐かず、
―――― だからこそ、自覚しなくちゃ。
自身の行動が与える影響と、自身の価値を
その言葉を誰よりも理解し、ハズキにそして自分自身に言い聞かせていたのだ。
何も知らずに知ったような口を聞いてしまっていた。
アンズの内に秘める想いも、苦悩も、感情も何一つ鑑みずに言葉を吐いていた。
「なんてね。」
と冗談だと微笑む夜兎の言葉は木蓮には届かない。
「…………」
ただ、拳を握り愚かな自身の発言に怒りを覚えていた。
「さぁ、分かったところでもう行こう――――……」
そう夜兎が言い掛けた時、暗い夜道の街灯の下に人影が映る。
「……ほう。
これはこれは、銀露地家の執事様ではないですか。まだ何か?」
そこに居たのは、ハズキとアンズの従者である黒服の女性。
そう――――
「私は、山中と申します。
アンズ様のお頼みとあり、そちらの少年の手を治療しに参りました。」
山中と呼ばれる黒髪の女性だ。
(また、アイツか……。
どこまで他人を気にかけてんだよ……)
自身にまで気を遣い回してくれた、アンズに負い目を感じてしまう。
「これは珍しい。
治癒術式がお使いになられると」
夜兎は関心するように頷く。
「はい。」と頷くと山中は、徐に木蓮へと近づいた。
「では、失礼ながら術式を施させて頂きます。」
そして、ブレスレット型のSPO装置を起動させ――――……
「いらねーよ」
けれど、その行為を木蓮が一蹴する。
すかさず山中は「しかし、私は」と口にするが
「いらねーって言ってんだろ……」
と木蓮は苛立った様子で否定をした。
これは、自身への戒めだ――そんな罪悪感が心に浸る。
「なりません。」
しかし、山中はそれでも引こうとはしない。
SPO装置を起動させ、緑白い光が眩く輝く。
「それほどの傷を負う貴方を前に、放っておくなど出来ません。」
「…………」
頑として譲らないその想いに、木蓮は言葉を詰まらせた。
すると横から、
「木蓮くん。そう言うのは素直にして貰うべきだよ。
つまらない意地なんて張らない。張らない。」
黙り込む木蓮の背中を押すように、夜兎は治療を受けるように促し、山中も微笑んで木蓮に語りかけた。
「アンズ様のご好意もどうかお受け取りください」
その言葉に、木蓮は小さく頷いた。
「……分かった。……お願いします。」
「はい。かしこまりました」
そして、山中は嬉しそうに微笑んで治療を開始するのだ。
いくらか沈黙が続くその時間。
その途中に、木蓮が言葉を吐いた。
「すみません……でした」
木蓮の唐突のその言葉に、疑問の表情で山中は首を傾ける。
その姿に木蓮は
「さっきの俺の……」
と言い辛そうに言葉を濁らせた。
黒服の彼女らに迷惑を掛け攻撃をした上に、治療までさせて貰っている。
そんな状況に悪気を感じていた。
「あぁ。気にしないでください。」
けれど、山中は気にも留めないようなそんな表情で笑い微笑んだ。
「元々、傷つけようとは思っていなかったのでしょう?」
そして、全部分かっていたのだと語り始める。
「貴方が本気で私達を傷つけようとしたならば、本当はもっと強力で私達は今頃、生死を彷徨うほどの重症を負っていた。違いますか?」
そう木蓮は、発動する術式の威力を大幅に低下させていた。
傷を負わせるものではなく、あくまで相手への行動不能を目的として。
「でもアレは私達の体の自由と、意識を奪う程度に上手く調整された術式でした。」
「そう……っすけど」
それでも、攻撃したことには変わらない。
それに――――、
「貴方のような年齢で、あの様な術式を行使出来るとは驚きましたけど。」
――うふふ。と微笑むその女性に優しくされる度に、優しい言葉を投げ掛けられる度に、自身の行ったその行為に
「でも……」
と非を感じてしまう。
「謝らないでください。
貴方のあの行為はハズキ様を必死に護ろうとした為だと分かっておりますから。」
「…………」
その優しさが心に響く。
「それにしても、何も出来ずやられてしまうなど
ハズキ様やアンズ様を護る従者として失格ですね。私達は。」
その謙遜、配慮が心に響く。
「その点、貴方はとても優れたボディーガードでした」
その気遣い、心遣いが心響く。
「でも次は、負けませんから!
油断しただけで、本当は結構強いんですよ? 私達!」
慰めてくれているのか? ユーモアで優しく振る舞い「なんてね。うふふ。」と笑うその姿に、吐こうとした謝意の言葉が失っていく。
「はい、これで治療は終わりです。」
そうして、すっかりと元どおりとなった木蓮の両手は綺麗に修復されていた。
「ありがとうございました……。」
「どういたしまして」
何処か暗い表情で感謝を述べた木蓮に、山中は優しく微笑みそう答えた。
今、目の前の少年は思い悩んでいる。
ハズキやハズキと何があったのだろうか?
分からない。最後までその場にいることができなかったから
もしかすれば、自分達に攻撃したことをまだ気に病出るのかもしれない――――そう女性はその少年の姿に思考を過ぎらせた。
(そうではないのに……)――――と。
貴方が気に病むことはないのに。と
だから、山中はそれを想いを語る。
「いいえ――――」
少年のその姿に、そう否定して。
「むしろ貴方に感謝をしているのは私達の方なんです。
ハズキ様があんなに楽しそうなお顔をされていたのを久しぶりに見ました」
彼女らの見るハズキは、常に退屈そうで憂鬱を抱えるそんな表情をしていた。
でも、気付けば追われるハズキは、不機嫌ながらもどこか楽しそうで、過ごすその
何故かなんて、そんなの――――
「それは、貴方のおかげなのでしょう?」
あんなに、はしゃぐハズキを いつぶりかに見た。
「どうかな……?」
その違いが多分、少年には分からない。
でも、自分達にならハッキリと分かるんだ。
だから――――
「それでも、感謝を伝えたいのです。
我が主人を護って頂き、そして我が主人のあの様な表情と姿を、私達に見せて頂きありがとうございました。」
その想いを
気に病む、暗い顔などしないでほしい。
山中は嬉しそうに微笑むと、「では、私はこれで」と会釈をして背を向けた。
そして、歩き出さずに
「でも、もし貴方のようなお友達がハズキ様やアンズ様のお側にいたなら――――……」
とその言葉を言い掛けるが、
「いえ、やっぱり何でもありません。」
木蓮へと言うことはなく言葉を飲み込んだ。
「失礼致しますね。」
最後にそう言葉を置いて歩き出す。
二人を背に道行く途中に吐いたその言葉は――――
「お二人はもっと自由に生きられるのかもしれない。私達なんて居なくとも」
輝く月が照らす夜道に、誰にも届くことなく、消えていく。
「じゃあ、源犀さんの所へ戻ろっか木蓮くん。」
夜兎が発した、その先に映る木蓮の表情に暗さは消えていた。
そして、吐くその言葉――――
「……夜兎さん俺やっぱり行かないといけねーや」
記憶に蘇るハズキの表情。
楽しそうな顔も嬉しそうな顔も、最後に見せた哀しさを滲ませたあの微笑みも。
記憶に甦るアンズの儚げなその表情。
抱いた想いも、抱えた苦悩も、抱く感情も、何も知らずに言ってしまったこと。
まだ、守ってない約束がある。
見せなきゃいけないモノがある。
言わなきゃ、いけない事がある。
言ってしまった事への謝意もこの手に負っていた傷への感謝も。
――――二人の元へ。
「どこへだい?」
と不思議そうな表情を浮かべる夜兎だが、その心の内では直ぐに理解していた。
その後に続いた言葉は「……なんて愚問だったかな」であり、
「行ってどうする?
キミが、そこへ行くその
本当の問いは、この疑問だった。
ハズキを護る依頼はもう無い。
では、何故いくのか?
「理由ならあるさ」
木蓮が抱く想いも感情も分からない。
ただ、そう言うのであれば。
その決意が揺るぎないモノであるのならば
「そう……かい」
そう止めはしない。
「でも、分かっているのだろう?
彼女らと僕らの生きる世界は違うんだ。
キミが一人でどうこう出来る問題ではないんだよ」
しかし木蓮が彼女ら二人に、どう思おうと感じようとその現実は変え難い。
一介の民間人が、たかが霊能力に秀でている人間が、この一夜でどう足掻こうと何も変わらない。
「知っているさ。分かってもいます」
「それなのに行くのかいキミは?」
だが、少年はそれを理解の上だと語る。
では、なぜ。それでもその場所へ行こうとするのか。
「別にどうこうするつもりは有りません。
ただ、あんな顔で終わって欲しくないんすよ。」
最後に見た少女の表情が脳裏に映り焼きついて離れない。
「それに、
もう、護る理由はない。その依頼は無くなったのだから。
でも、あの時交わした契約はそれだけではなかった。
「だから、今だけは。明日の朝までだけは。
クソ生意気の我儘でうるせー女でいて欲しいんだ」
――――あたしに美しい日の出を見せなさいよね
だから、その約束を果たすために。
「それと、言わなくちゃいけない奴に言わなくちゃいけないことがある」
その人に言葉を伝えるために、木蓮はその場所へ行かなければならない。
「うーん。僕じゃキミを止めれそうにないね。」
その揺るがない決意を現す真っ直ぐな瞳に、夜兎は頷きそう答えた。
そして、徐に電話を掛ける。
――――プルルル プルルル プルルル
「なんだ夜兎、終わったのか?」
その電話の相手は、二人の上司であり金木犀の社長である源犀だ。
「はい。無事、銀露地ハズキを銀露地家の元へと行き渡しました。」
「そうか。よくやった」
「はい。それでですね――――と言う事なんですが。」
これまでの経緯を話す夜兎に
「……なにぃ!?
木蓮が銀露地ハズキの護衛を引き受けてただと!?」
源犀は驚き困惑した声を発した。
「はい」
「たく……何やってんだ木蓮は……。
それで、どう言うことだ……?」
「ですから、まだ一つ残る彼女と交わした契約の為、それと何か伝えたい相手がいるとかで
彼女らの元へ馳せ参じたいと」
「……。おいおい、木蓮は全部分かってて言ってるんだろうな?」
疑問を浮かばせるその問いに「はい、その様ですよ」と夜兎は答える。
「……たく……仕方ねぇな木蓮の野郎は……」
呆れ溜息を吐くように源犀はその言葉を述べると
「木蓮に伝えろ――――……」
と夜兎へ言伝を頼んだ。
そして――――、夜兎は電話を切り木蓮へと語る。
「クライアントとの契約は絶対だ。
金木犀の名のに恥じぬ仕事をしろ。健闘を祈る」
輝く月下、上下黒に身を包むその白髪の男は、伝えられたその言葉を届ける。
「――――だそうだよ、木蓮くん」
その口元には愉びの笑みが浮かび、受け取った少年には
「わりぃな、源犀さん」
同様にやる気に満ちた笑みが浮かんだ。
「木蓮くん。
悪いが、僕らは何もキミの手助けをすることはできないよ」
「分かってますよ。夜兎さんや源犀さん。
金木犀には迷惑かけません」
「そうかい。すまないね。」
クライアントであった、銀露地家を妨害するような行為はできない。
それにこれは、ハズキと木蓮との間にある契約であり金木犀とは関わりのないもの。
「いいえ、銀露地ハズキによって金木犀としての俺への依頼は白紙に戻った。
だから、これは俺個人としてアイツとの契約を、約束を守るために行う行為。」
故に、この行為は篠宮木蓮。その少年のみが勝手に行うこと。
そう――――
「ただ、それだけっすよ」
木蓮はそう言葉を吐くと両手をポケットに入れたまま歩き出す。
「……もう、行くのかい?」
「はい」
「気をつけなよ。」
自身に向かい歩いてくる木蓮に、夜兎は静かにそう言葉を吐いた。
そして、語る――――、
「キミが行こうとしている場所に居るのは銀露地家の
鳳凰家とそれを守護する者達もいる。一筋縄ではいかないよ」
「その中に、夜兎さん……アンタくらい強い奴いんの?」
笑みを浮かべその問いを投げる木蓮に、
「いるわけないじゃん」
迷うことなく、夜兎は笑って答える。
「そうっすか。安心しました」
そう語る少年の表情に安堵はない。
さも、その解答が来ることが分かっていたと言いたげな表情だ。
だが少年も、それを躊躇いなく語った青年も、それが揺るぎない事実だと自信と確証をもって疑うことはない。
「でも、今のキミ レベルならゴロゴロいるかもね。」
圧倒的強者から発せられるその言葉。
だがそれに木蓮が怯むことなどなかった。
「大丈夫かい? その
キミ本来のモノを持って向かったほうがいいんじゃない?」
指すのは、木蓮が右手人差し指につける指輪型SPO装置。
そして、それは本来の木蓮のSPO装置ではないのだ。
「いいんすよ。
あれは、敵から大切なモノを守る時だけ使うと決めているんで。
向かう先に居るのは敵ではありません。
アイツの家族だ。」
ただ、今は
と、堅い意志の元、木蓮は夜兎の脇を通り過ぎていく。
「それに少しだけ、
側から見れば悪は少年で、少し悪戯好きの少年だ。
「そう、頑張ってね。」
脇を去りゆく木蓮に、夜兎は笑顔で囁き
「――――はい」
少年はそう小さく吹くと、術式を唱えた。
「
少年の髪が少し逆立ち体表を静電気が覆う。
そして、少年を中心に電磁波が放射され周囲へ球状に拡散した。
瞬く間にその電磁波は、大きなこの街一帯を包み込み。
「みつけた。」
容易く、
金木犀 月観 紅茶 @black-tea
★で称える
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