第7話 譲れない想いとその自由の先に
電流により熱せられたアスファルトは焼け焦げた臭いと共に煙を放つ。
「あらら、こんなに周りを破壊して……
源犀さんに怒られちゃうよ?」
夜兎はその有様に笑みを浮かべて不安を漏らした。
そして、周囲は煙に包まれ視界を見失った。
「行け」
その木蓮の小声で発した言葉と共にハズキは全力で後方へ走る。
「……一体、何の真似だい?」
夜兎はその木蓮の行為に怪訝な表情を浮かべる。
視界は煙で見えていない。
ハズキが逃げていることも分かってはいないだろう。
だから、この煙が夜兎によって掻き消される前に、
「
一瞬にして夜兎の目の前へと詰め寄る。
そして、雷を纏った右腕で思い切り殴り飛ば――――……
――――ゴンッ!
その拳は何かに当たった衝突音と共に静止した。
「……な!?」
「あまいねぇ。目眩しなんて意味ないよ。」
驚愕が浮かぶ木蓮の右手は、夜兎の目の前に出現した見えない壁により塞がれてしまった。
「それに、せめてこの壁くらい破壊しようよ。木蓮くん。」
笑みを浮かべて呆れた様に、夜兎は語る。
そして、そんな夜兎に一帯に漂う煙幕の向こうからアンズが大きく言葉を発した。
「夜兎さん……! 近くには彼らもいるんですよ……!」
それは、周囲に意識を失い地に倒れる自身の従者を心配しての発言だった。
このまま戦いが始まれば、戦闘の衝撃が彼らにも被害を与えてしまうかもしれない。と
「大丈夫。僕の能力で守っていますから」
夜兎は心配を浮かべるアンズにそう答え、笑みを浮かべて木蓮へと右脚の鋭いハイキックを横から蹴り上げる。
「クッ……!」
木蓮はそれをなんとか左腕で塞せぐ……
――――ドカッ!!
が、思い切り吹き飛ばされてしまった。
飛ばされた俺の身体は建物に衝突し、大きな穴を開ける。
砂埃が舞う中、攻撃の手を休めまいと木蓮は即座にまた踏み出す。
――――ゴンッ! ゴン、ゴン、ゴン、ゴンッ!!
何度も何度も、高速で殴る蹴るを繰り返すが、夜兎を覆う見えない壁に全てを阻まれ意味をなさない。
「どうしたんだい? キミらしくもない戦い方だね。」
そう、囲まれた透明の壁の中で夜兎は疑問の表情を浮かべる。
だが、
(これでいい。
これなら、夜兎さんもその場から動けない。)
「つまらないなぁ」
退屈を浮かべそう吹く夜兎は、木蓮の腹を下から蹴り上げる。
――――お゛え゛ぇえ
胃液が喉を通り、口外へ放出される。
喉は熱く、酸味を感じ、腹部には激痛が走る。
漂う煙の中で、木蓮は蹲るように腹を抑え、それでも夜兎からは決して目を離さない。
「そうか。ごめんごめん。
今のキミじゃ僕の壁を破壊できないのか。
ちょっと待ってね。」
思い出すように少し考えると夜兎は「これで、よしっと。」頷き、項垂れる木蓮に微笑んだ。
「これで随分戦いやすくなったね。
僕は決して霊能力で直接キミに攻撃は与えないし、僕を守り覆ってた周囲の壁も無くなった。
うん。これで木蓮くんと戦いをもっと楽しめるはず。」
圧倒的な実力差がそこにある。
霊能力による直接的な攻撃を一切行わず、木蓮への反撃をしていた。
それは木蓮の驚異的な身体能力と体術を夜兎が凌駕している事を意味する。
(くっそ……成神を使うか……?
だが、それだと……オーラが持たない……)
木蓮は悩み考えていた。
夜兎が壁を消した今は、夜兎を縛れるモノがない。
これを打開するには、戦況を変えらほどの術式、夜兎と張り合えるほどの術式が必要になってくる。
しかし、それは多くのオーラの消費を伴い、今後の活動に影響を及ぼして兼ねないのだ。
(……ダメだ。今は使えない……。)
ハズキとの合流後を考え、術式の選択を変える。
「
その術式を唱えると、木蓮の右手に刀身から柄まで全て雷で形成された刀が出現する。
それは、雷 本来の電気と熱量そして「斬」と言う性質を加えたものだ。
そして、視界の無い煙の漂う中で――――
飛びかかり振り下ろす雷刀が
――――ギギギッ
と夜兎の頭上で動きを止められる。
「あれれ、夜兎さん……?」
その光景に木蓮は困惑を浮かべた。
「あ、ごめん。壁で自分を覆ったりはしないけど、防御はするよ?」
夜兎の頭上には四方50センチほどの見えない壁がある。
木蓮に宣言した通り、壁で身を覆うことはせず壁をピンポイントで出現させその雷刀を防いだのだ。
「おお、やるね。」
笑みが浮かぶ夜兎の視界の先には、空中に亀裂が入った光景が映る。
そう、木蓮の雷刀がその壁に亀裂を入れたのだ。
――――パリンッ
壁は割れ、夜兎に振り下ろされる。
だが夜兎は体の向きを変えあっさりと躱した。
「
そして、それを追うように木蓮は即座に夜兎に横から斬りかかる。
しかし――――、
「うーん。木蓮くん。僕を倒そうと思って戦ってないでしょう?
ただ、この視界の悪い中で攻撃を絶えず休まず繰り出してるって感じ」
そう何食わない顔で悩んだように発する夜兎の指先でピタリと木蓮の雷刀が止まっていた。
雷刀は夜兎の指で白刃取りされていたのだ。
(壁を指に……!?
いや……オーラを纏わせてるだけだ……。)
その光景に木蓮は驚愕の色を浮かべた。
壁を出現させていた霊能力術式を指先に。否、それは術式ではなくただの
(なんつう緻密なオーラ制御とオーラ密度だよこの人は……!?)
それは、指先のみにオーラを集中させる繊細なオーラ制御と雷を受け止めても意に返さない圧倒的な密度の濃いオーラを必要とした。
「あ、もしかして時間を稼いでるのかな?
あの子が逃げる時間を」
するとその時、夜兎は不可解な表情を浮かべた。
同時に、辺り一体に漂っていた雷より熱せられた煙が夜兎により霧散する。
「ハズキちゃん……」
広がった視界に、ハズキが居なくなったことを理解したアンズは困り顔を浮かべた。
「……な!?」
その動揺は、煙を晴らされたことにか。
それとも余りに、あっさりと雷刀の刀身を夜兎により折られたことにか。
「だったら、知るといいよ」
その時、雷刀の刀身は消滅し 見透かした表情で夜兎は一瞬にして木蓮の懐へと侵入する。
「グフッ……!!」
そして、強烈な拳が木蓮へと撃たれた。
「なによこれ……!? 壁!?
行き止まりじゃない……!」
ハズキはその場所で行き場を無くしていた。
目の前にまだ、道が進む。しかし、これ以上進めずにいた。なぜか目の前には見えない壁があり、それに阻まれ進行を妨害される。
するとその時、
――――ドンッ!!!
と高速で何かが、ぶっ飛んできてすぐ横の見えない壁に激突した。
「がはッ……!!」
そう、それは木蓮だ。
「……あんた!?」
ハズキはボロボロになる木蓮の姿に驚愕した表情を浮かべる。
「残念だけど、木蓮くん。キミ達が逃げる事は不可能なんだ」
そして、そこへ夜兎がゆっくりと近づいてきた。
「辺り一体は僕の術式支配下にある」
そう、夜兎はここ周囲一体をドーム状に見えない壁で覆っていた。
どこへも逃げることは不可能。
上空へ飛んでも逃げることも不可能。
彼らはまるで、鳥籠の中で飼われる鳥のように。
ハズキは動揺を浮かべ木蓮へと駆け寄るが――――
「念のため、囲んでおくね」
その言葉と共に、ハズキの周りを壁が覆い、
「ちょ!? なによこれ……!?」
ハズキは、その場から身動きが取れなくなる。
「さて、どうする木蓮くん?
まだ、続けるかい?」
「はぁ……はぁ……」
その問いに答えることなく、木蓮は息を切らしたまま立ち上がる。
「逃げろ……ハズキ……。
体を揺らしながらハズキへと近づき、木蓮は術式を唱える。
両腕に雷を覆い、その腕を思い切りハズキを覆う壁へ突っ込んだ。
「……くっ! 」
両腕に衝撃が走る。
「やめたほうが良いよ。木蓮くん。
その術式は特殊でね。触れた存在を破壊しようとするんだ」
先程の壁とはまるで異質。
雷で腕を覆っていて尚、熱く痺れ痛みが腕を襲った。
「いくらキミが雷で腕を覆っても、雷を打ち消しキミの腕を焼くよ」
覆う雷が意味をなさず、壁が木蓮の手を焼き皮膚を抉っていく。
「あんたなにやって……!?」
「うるせぇ……黙ってろ……!」
それでも木蓮は壁を破壊しようと、手を突っ込み続けるのだ。
「黙ってられるわけないじゃない……!?
だってあんた手が……!」
「こんくらい、屁でもねぇ……」
「…………!」
必死に自身を助けようとする木蓮を前に、言葉を失った。
止めてなんて口にも出せず、だからと言ってこのまま続けて欲しくはない……。
するとその時――――、
「もう止めなよ、ハズキちゃん。」
その光景に、アンズは静かにそう言葉を吐いた
「もう、逃げるのを」
「……アンズ」
「分かっているんでしょう?
その子は自分がどうなろうとハズキちゃんを逃すために抗い続けるよ」
「手の皮が焼けようと、抉れようとね」
手の皮膚は焼け、爛れ始めた。
それでも木蓮は一向に止めようとはしない。
「キミも、もう……。お願いだから止めてよ。」
とても見ていられない。
アンズは哀しみを浮かべ木蓮に語りかけた。
「キミの信念も覚悟も、全部認めるから。」
依頼をやり抜くと言う信念も、ハズキを守り抜くと言う覚悟も、全てが本物だ。
称賛をも抱いてしまう。
それでも、やりすぎだ……。
「でもね、キミにも分かって欲しいんだ」
けれど、譲れないモノがこちらにもある。
「ハズキちゃんは大切な存在なの。」
何よりも――――誰よりも。
「キミがどれだけハズキちゃんの為に抗おうと、
私達も私達の信念と覚悟に基づきハズキちゃんの為に何でもするんだよって言うことを。」
引くことはできない。
こちらにも譲れないモノがあるのだから。
「ハズキちゃん。貴女もだよ。
その行動一つ一つが周りに影響を与えるの。」
だから、これを終わらせるには。
木蓮を止めるには、ハズキでなくてはならない。
「今だって多くの人がハズキちゃんを待っている。
ハズキちゃんを探す為に、これだけの人が動いた。
その子だってハズキちゃんを護る為に、自身の身を削っている。」
ハズキを待ち侘びる者達。ハズキの身を案ずる者達。ハズキを護ろうとする者。
それら全てが、ハズキの為に動いている。
「ううん。そうじゃないよね。
それはむしろ当然のことなんだ。」
けれど、それは当然のことだ。
「でも、だからもう……終わりにしよう?」
それでも、誰かが傷つくことは悲しく。心が痛む。
だからもう、終わりにしようと。アンズは哀しみに訴える瞳でハズキを映した。
「――――」
何も言わず目を晒すハズキ。
ここまでしてくれた木蓮を蔑ろにすることは、到底できない。だからと言って、このままでは……
煮え切らない思考が選択を阻む。
そんな、ハズキにアンズは決断を強いた。
「ハズキちゃん。貴女がもし、それ以上逃げると言うのなら心苦しいけど私は、その子を国家反逆罪で罪に問うことになるよ。」
そんなことはしたくない。
これだけ、彼はハズキを思い抗っているのだから。
でも、それでもアンズにはアンズの譲れないモノがある。
「当然だよね。その子はそれだけの事をしたんだ。
未遂とは言え、私に攻撃をした。
彼らを傷つけ、ハズキちゃんを連れ回した。」
「アンズ……? 貴女、アタシを脅しているの……?」
「……そうだね。これは脅しだよ。」
思いもよらないアンズの発言に、ハズキの目は動揺を浮かばせた。
「でもね、ハズキちゃん。
だからこそ、自覚しなくちゃ。」
「――――」
「自身の行動が与える影響と、自身の価値を」
自身の逃亡と言う行動が、少年を傷つける。
自身の価値が、彼らに少年を傷つけさせる。
「私はこの考えを変えるつもりはない。」
譲らないし譲れない。
全てはハズキの為であるから――――
「けど、安心してハズキちゃん。
ハズキちゃんが素直に戻ってくるのなら、私はその子に何もしないよ。全ての行為に目を瞑る。」
それで全てが丸く収まる。
だから、考えて欲しい。
「さぁ、ハズキちゃん貴女がやるべきことを、もう一度良く考えて」
アンズは祈るように、ハズキを見つめた。
「…………」
少しの沈黙。
様々なことが頭に過る。
あれをしたい、これをしたい。あそこへ行きたい。
でも、それを望めば。誰かが傷つく。
現に今も、この少年が。
そう、だから。決断しよう。
「わか――――……」
「うるせぇつってんだろ……!!」
その時、木蓮の大きな声がハズキの発しようとした声を掻き消した。
「黙って守られてやがれ。
こんな壁すぐ破壊してやるから……」
木蓮の手はもう、皮膚が抉れ流血し酷い有様だった。だが、少し。少しだけだが、その壁に小さな穴が開き始める。
「……あんた」
「……どうして。キミはそこまで……?」
その光景に二人は息を呑む。
「さっきから聞いてればな。
なにがコイツの為だ。 」
「「――――」」
「居たくもねぇ、場所に縛り付けて。
やること全部、コイツの為だと押しつけて。
挙句の果てには、全てがコイツの所為か?」
「「――――」」
「行きたい場所にも行けねぇーで
やりたい事も、好きなこともできねぇーで。
何がコイツの為だ。」
「「――――」」
「それをしたいと願えば、周りに迷惑をかけるって?
だったら、コイツの自由はどこにある?」
「――――」
「それにアンタ知ってんのか?
コイツが今日どれだけ楽しそうに過ごしていたか。」
木蓮の脳裏に浮かぶハズキの表情や姿に。
カフェに行きたいと望むその表情。
コーヒーを不味いと言いながら嬉しそうに飲むその表情。
歌を勧めれば関心するように頷くその姿。
カラオケで学生証が無いからと入れないと思って焦るその表情。
ドリンクバーに困惑する姿。
――――ずっと楽しそうだったんだ。
「おかしいよな。全部普通のことなんだぜ?
カフェに行くのも、好きな音楽聴くのも、カラオケで歌うのも、コーラ飲むのも。
コンビニ寄るのだってそうだ。
誰もが当たり前に普通にやってることなんだぜ?
それをコイツは、目を輝かせて心の底から楽しんでた。」
ハズキは普通を知らない。
どんな人生を歩み過ごしてきたのかは分からないが。普通では無いことは確かだけど。
「アンタさ、それを縛ることがコイツの為なのか?」
木蓮はアンズに問う。
「――――」
だが、その答えは沈黙だった。
「ふざけんじゃねぇ。
だったら、俺がこの壁も全部……全部……ぶっ壊してやるよ!」
気合を込めて、その表情には笑みを浮かべ木蓮は壁に手を入れ穴を広げようと踏ん張る。
「そうだね。でも……」
そんなこと、元より言われなくても分かっていた。
誰よりも近くで、すぐ横でその表情を見てきたのどから。
ハズキが望むことを、ハズキがしたいと焦がれることを、ハズキが好きだと想うことを。
誰よりも何よりも、願った。
けれど、そんなアンズは想いを言葉にすることなく
でも……と飲み飲んだ。
「良いかい?
この世界はキミみたいに良い人ばかりではないんだ。」
その苦悩。想い。感情。
アンズの表情は儚げで何処か哀しい。
「ハズキちゃんの正体を知れば多くの人が利用しようと近づいてくる。
中には傷付けようとしてくる人達もいる。」
ハズキを己の欲と出世の為に利用しようとする者達がいる。
ハズキを傷つけようとしてくる者もいる。
だからアンズは――――
「そんな人達からハズキちゃんを守る為だったら私はどんな事でもするよ?」
大事な人を守る為に、己ができるすべき事をする。
「そう。だから――――
キミから自由を奪うことも厭わない」
決意は揺るがない。
例え木蓮を貶めても、ハズキを護れるのならと、その行動を取るのだ。
「さぁ、帰ろう? ハズキちゃん」
アンズはハズキに手を差し向けた。
ハズキは目の前で必死に、壁を破ろうとする木蓮を見つめた。
(アタシがここにいれば、コイツは傷つき続ける。)
そして、脳裏に浮かぶアンズの言葉。
――――その子を国家反逆罪で罪に問うことになるよ。
(コイツの自由をアタシが奪ってしまう。)
「ふふふっ。」
そして、数時間前の出来事を思い出して笑いを浮かべ
(そうね。楽しかったわ。
アンタにやり返せないのは残念だけど。)
少しの悔いを抱いて、哀しさを含ませ微笑んだ。
(でも、もう十分。十分楽しんだ。
だから終わりにしよう――――)
だからもう、決断しなければならない。
「依頼はここまでよ。
私を日の出まで護るという契約は破棄。」
ハズキはそう、言葉を発した。
「……は?」と木蓮の表情に困惑が浮かぶ。
「あんたの経歴に傷はつけないわ。
これはアタシの身勝手な判断。
依頼主のアタシが破棄するの。」
依頼失敗なんてことはさせない。
だったら白紙に戻そう。
何も無かったことに、何も頼まなかったことに。
「でも、安心しなさい。お金はちゃんと払うから。」
ハズキは微笑んでそう言った。
でも、その表情はどこか寂しさを滲ませている。
「何言って……?」
木蓮のその手が止まる。
驚愕を浮かべ、ハズキを映した。
「夜兎さん」
「わかりました」
アンズのその声と共に、あっさりと壁は消滅する。
木蓮の腕からは血が滴り落ち、酷く手は痛々しい。
「行くわよアンズ。」
「うん。」
けれどハズキは、驚愕を浮かべる木蓮の言葉に答える事なく歩み出してしまう。
「おい……! 何言って……?」
納得のいかない。納得できない木蓮は立ち尽くし、問い詰めるようにそう言葉を投げかけた。
すると、ハズキはその言葉に足を止める。
「うるさいわね。もう、ここまでと言ったでしょ。
あたしにもう付き纏わないでよね。」
―――― もう付き纏わないでよね。
こうまで言わないと、木蓮が止まらないと思ったからだ。
本当は言いたいことも沢山ある。
伝えたい言葉もある。けれど……
今はもう、行こう。とハズキは止めた足を再び前へと進めた。
「ありがとう。ハズキちゃんを想ってくれて。」
アンズは嬉しそうに笑って木蓮に伝える。
そして、脳裏に浮かんだハズキを見つけたその時に観た、嬉しそうにはしゃいでいたその姿に
「ハズキちゃんの楽しそうに笑うその笑顔を私に見せてくれて――――ありがとう」
そう嬉しそうに語ったアンズは、去り際に念を押すように言葉を置いていく
「でももう、これ以上。
ハズキちゃんの覚悟と決意を無駄にしようとは思わないで欲しいんだ。」
その言葉の後、アンズは一礼し振り返ってハズキを追うよう歩き出した。
(さっきの歌詞が心に響く。)
木蓮の目の前から、立ち去るその途中、あのカラオケで聴いたあの歌のあの歌詞がフラッシュバックした。
《だから神様、少しだけ
――――私が誰かの自由でありますように。》
自分が縛られることで、誰かの為の自由であるならと、
(
ハズキはその想いを抱き、
最後に誰にも聞こえないくらい小さな言葉を吐いた。
「ありがとう」
――――と。
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