夜の子ら

アーカムのローマ人

世俗カンタータ『夜の子ら』歌詞

伯爵……アルト

花婿……バス

従者……ソプラノ

婚礼の客達……ソプラノ、テノール、合唱


1. 客達が集会にやって来る


従者:さあ、昼の炎なる太陽は死に、その血で西空を染めている!

金星が輝くのを見たならば、おいでください、夜の貴族よ、高貴な方々よ!

呼びかけに応えておいでください。

女声合唱:蝙蝠はもう翼を広げてねぐらから飛び立った。

私達も社交に赴きましょう。

男声合唱:狼の交わす遠吠えが山々にこだまする。

俺達も集会に参上しよう。

従者:そして今夜の主役をお迎えしましょう。

我々の伯爵と、その腕の中に寄り添う花婿を!



2.招待客達は花嫁を讃える


従者:伯爵の髪は黒い!

女声合唱:夜のような髪を覆う婚礼の帽子を、私達百人で縫った。

従者:伯爵の歯は白い!

女声合唱:あの方は鋭い歯を、乳のような歯を見せて微笑む。

従者:伯爵の唇は赤い!

合唱:そして彼こそが、血のような唇を受けるべき男。

従者:いかなる鏡が私の主人をその身に映すのに値するだろうか?

女性合唱:いいえ、いいえ、どんなに磨いた鏡でもそんな栄誉には値しない!

従者:ああ、皆様、この結婚の立会人となってください。

花嫁となる美しい主人のために、どうか喜んでください。

全員:大いなる貴婦人よ、ご自身の婚礼へおいでください。

ご夫君となるべき人間を連れておいでください。

彼をあなた様の同胞に、我々の同胞になさってください。

花嫁と花婿よ、婚礼へおいでください!



3.新郎新婦の登場


伯爵:わたし達を集会場に入れておくれ。

従者:ご主人様、どうぞお入りください。

お手を取ってお迎えいたしましょう。

テノール:美男の婿殿、どうぞこちらへ。

燭台を掲げて案内いたしましょう。

夜目の利く我らには、最早必要のないものですが。

合唱:霧深い西の都からやって来た花婿は、山脈のように背が高い。

厳めしい眉の下に、二つの深い湖がたたずんでいる。

テノール:婿殿、どうぞお掛けください。

伯爵の夫君の席が、黒玉に飾られて待っております。

合唱:花婿は黒いマントをさっと払い、磨き上げられた玉座に腰を下ろした。

テノール:彼の姿のなんと完璧なこと、世の始まりから夫君の座にあったよう。

伯爵:黒い森の彼方、冷たい海を超えた向こうの島から、永遠を共にすべき男を連れ帰った。

合唱:我々の国へようこそ!

ソプラノ:ここには朽ちることのない美があり、輝かしい夜があり、いつまでも続く喜びがある。

合唱:我々の国へようこそ、美しい花婿よ!

永遠に歓待をお受けください!



4.新郎新婦が出会いを物語る


合唱:おお、貴婦人よ、お話しください。

いかにしてご夫君を探し当てられたのですか?

従者:婿殿、どんな運命に導かれてここにいらしたのですか?

花婿:私は独りで待っていた、でも何を?

伯爵:わたしはずっと探していた、だが誰を?

花婿:満月が部屋の中まで光を投げかけていた。

赤いシュミーズの若い女性が窓の外で微笑んでいた。

両の手を取って招き入れた。

影すら落とさぬその軽やかさ。

首筋に深いキスを押し付けてきた……

伯爵:彼の吐息がわたしを呼び寄せ、鼓動がわたしをかき立てた。

わたしが遠い昔に失ったものは彼の血潮の中に流れていた。

花婿:彼女の両目、輝く魔法の眼、灰色の瞳!

過去の喜びと苦しみは葬られ、人生に新たな扉が開いた。

伯爵:おまえの中には原初の海の波があり、温かで規則正しく打ち寄せる。

おまえの血はわたしの血、わたしの肉はおまえの肉。

伯爵と花婿:あらゆるものを二人で乗り越えていこう。

国境を跨ぎ、戦火を逃れ、時代を越えよう。

従者:祝福を!祝福を!祝福を!

合唱:さあ、金と柘榴石ガーネットの指輪をどうぞ!

花嫁の帽子には千の真珠を、花婿のマントには夜開く花々の刺繍を。

夜はあなた方のもの、我々の君主たる二人のもの!



5. 従者が新郎新婦を寿ぐ


伯爵:わがしもべよ、歌っておくれ。

恋人たちの歌、生命の歌、愛の歌を歌っておくれ。

従者:歌いましょう、古い歌を。

ラースローはエルジェーベトの手を取って言った。

「欠けた月は満ち、麦は刈られて実りを残し、人は死んでまた蘇る。

そのように僕も戻ってくる、美しいお前を残しはしない」

欠けた月は満ち、麦は刈られて実りを残し、人は死んでまた蘇る。

麦を刈る月、満月の夜にラースローは戻ってきた。

エルジェーベトの家の扉を叩いて言った。

「行こう、愛する人よ、森の彼方に行こう」

エルジェーベトは答えた。

「行くわ、二人でどこまでも行くわ」

合唱:かくてラースローとエルジェーベトの血肉は我らが祖となった!



6. 花婿の嘆き


花婿:故郷の土よ、お前を離れてどこへ行くというのか?

海の向こう、森の彼方の国に私は来てしまった。

おぼろげな太陽から、優しい友から、親しい街並みから去って。

故郷の土よ、故郷の土よ、私はどこへ行くのか?



7. 新郎新婦が口付けを交わす


合唱:ツィンバロムをもっと高らかに鳴らせ!

最上の命の水を席から席へと三度回しなさい。

無情な雄鶏が最初の声を上げるまで、七つの晩を踊り明かそう。

閣下、婿殿に口づけを!

伯爵:なんと甘いことか、わたしの夫は……

この男はわたしのものだ!

わたしはこの男がほしいのだ!

花婿:魂の母よ、あなたの与えるものを自ら受け取ろう。

伯爵:遠い昔、わたしも同じ決断をした。

過去の全てを捨てて死に、新しい命を得るために。

合唱:婿殿の勇気は我らが誇り、彼こそ我らが戦士。

さあ、婚礼の成る時が訪れた!



8. 結婚の完成


合唱:妻は夫に婚礼の杯を与え、花婿は命の糧を飲み干す。

最初の一口は切望を満たすため、次の一口は血族よりも固く結ばれるため、最後の一口は新たな命を得るために。

従者:結婚は完成され、妻と夫は血によって結ばれた。

花婿は不死なる同胞として迎え入れられた。

伯爵と花婿:山脈の向こうから何百万回と昇る月を、二人で永遠に眺めよう。

全員:結婚は完成され、妻と夫は血によって結ばれた。

永遠に!


Fin.

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夜の子ら アーカムのローマ人 @toga-tunica

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