第30話『地獄の始まり』
魔導プラントのテロ事件から勇者を連れた本隊が、
この魔導法国へやってくるまでにそう時間が無かった。
教会の命とはいえ、魔王四天王でありながら、
離反行為をした
ただ、防衛戦線においては、
本人の意志もあり防衛の最前線に立つこととなった。
「いよいよ決戦の時が来たようじゃな……森の奥に教会の大軍勢が陣取っておる。ただの一組織が一国の軍隊並の兵を持っているとはのう……さすがに」
教会は王都だけではなく各都市に支部が存在する。
その正確な信徒の数や、戦時に戦える戦闘職の数は秘匿されていた。
魔王は教会の率いる軍のその圧倒的な数を前に、
額から汗が伝う。その兵数は王都の正規軍より多い。
更に、教会が指揮するのはただの軍隊ではない。
魔王ですら把握していない多数の戦闘用のアーティファクトを保有し、
さらには切り札としての勇者を有する軍だ。
人を殺すという一点に置いては教会は魔王よりも長けている。
「結界に魔力を供給するための魔導プラント爆破テロを未然に防げたのは我々の僥倖であった。おぬしのおかげだ、ブルーノ。あの結界がなければ兵数にものをいわせて、この国は蹂躙されておったことじゃろう。感謝する」
「――だが、奴らはその事実を知った上で全軍を率いてやってきた」
「そうじゃ、な。我らの知らぬ方法でこの結界をなんとかする方法を持っている可能性が高い。そう考えた方が良いじゃろう。おそらく何らかの結界を破壊するアーティファクトを持っているのじゃろう」
魔導プラントの破壊工作が失敗したことが、
教会側にとって致命的な出来事だったのであれば、
予定通り進軍などせずに時期をずらすなりしていただろう。
だが、奴らは予定通りに、大軍勢を率い攻め込んできた。
つまり、結界を打ち破るための何らかの方法を、
他にも持っているという事に他ならない。
「じゃが……この我の統治する国にたどり着くまでには、森の中に巣食う凶悪なモンスターの群れを突破しながら進まねばならぬ。血肉に飢えたモンスターの群れを倒しながら、ここまで辿りつけるものがどれほどいるものかの」
「…………」
敵の大軍勢が魔王の統治する国の森林地帯に侵入した。
だが、この魔導法国の森は天然の城塞。
魔導法国は過去の歴史においても、
攻め滅ぼされたことのない天然の要害だ。
第一の守りは凶悪なモンスター達が無数にひしめく森。
そして仮にその森を抜けるほどの猛者であったとしても、
強力な魔力結界によって歩みを阻まれる。
魔王のおさめる国が過去の戦争においても、
一度も敗北したことがない原因は、
この二重の守りによるところが多い。
「森に進軍中の敵軍の様子を偵察中の"影"より報告あり。……奴らはモンスターとの交戦はせずに、そのまま森を突っ切って来ます。なぜか、森の凶暴なモンスターは彼らを認識できないようです」
「ぬぅ……我らの知らぬアーティファクトを使っているということか。このまま森を抜けられるとなると、自然の要害は不発じゃ……最後の頼みの結界頼みというわけじゃな……」
森の中のモンスターを頼みにしていた魔王が、
モンスターを避けるためのアーティファクトにより、
天然の要害として機能しなかったことに頭を抱えている。
「大丈夫だ」
「おぬしは何を根拠にそう思うのじゃ?」
この森を突破されれば、結界。
結界を破られれば住民に被害が及ぶ。
「奴等が敬意無く森の中に入ったことを森の神は激怒している」
「森の神……?」
「……奴らは森を怒らせた。俺ですら畏れる森の神を怒らせ……生きていけるほど、この森は優しくない。森において本当に怖いのはモンスターなんかではない…その意味をこの森に敬意なく立ち入った者達は知るだろう」
それ以上は俺に魔王は何も言わなかった。
遠見の魔法と、"影"から入る報告のみに集中していた。
着々と魔導法国に攻め寄せてくる人の波に、
焦り、魔王の額に脂汗が伝う。
粗野な者が多く、本来は神に対する信仰とは無縁と思われる木こりが、
森の神を敬うのには理由がある。
彼らを怒らせたらどのような地獄を経験するかという事を、知っているからだ。
そして、山の中に進軍してきた教会の大軍勢は、
森の神を怒らせることの恐ろしさをその身をもって知ることになる。
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