第28話『魔導プラントに潜入せよ!』
俺は木と会話をしながら、人質をとった四天王の一人、
この世界に群生する木の声が聞こえるからだ。
妄想と思われるかもしれないが、事実である。
いまの俺には木の声が聞こえる。
異世界の木と、この世界の木は若干言語体系が異なるため、
完全な意思疎通を行うことはできないが、それでも、
敵の動向を探るには十分過ぎる役割を果たしてくれる。
大軍勢で攻めればプラント内の教会の連中が自爆覚悟で、
人質もろともにプラントを破壊するだろう。
俺が一人だけで向かえば相手に警戒されることもない。
それに、今の俺であれば制圧している連中を、
単騎で切り伏せることも可能だ。
慎重に行動しなければいけないのは人質の存在だ。
四天王の一人炎鬼の妻子の他にも、無作為にこの国の
女子供が人質として捕らえられている。
見せしめとして処刑するという姑息な方法を、
奴らならとりかねない。
だから俺はあえて堂々と木こりの姿でその場所に向かった。
魔力プラントがあるところまでは、
森の中のけもの道を通り向かった。
だが、プラントの中に入るためには一旦ひらけた所に出なくてはならない。
俺はプラントの一般職員に擬装した男に声をかけられる。
「おい、止まれ。こんな夜道にこんなところに何の用だ? 道に迷ったのか? ここから先は、この魔導国家の魔力エネルギーを生成している魔力プラントだ。木こりが入っていい場所ではないぞ。分かったならさっさと帰れ」
「そうか――ならば俺の歩みを止めてみろ」
一般職員を擬装しているが、筋肉の付き方、呼吸の仕方、
その全てが明らかに戦闘職のものであった。
俺が木こりの見た目だったから、油断しているのかもしれない。
「ほう……お前、ここで何が起こっているのか知った上でここにたった一人でやってきたのか。それは勇気ではない、蛮勇というものだ」
「そうか。勉強になった」
「ききっ……どうやって俺たちの目的を知ったのかは知らないが、ここに出向いたということは生きては帰ることはできないと思うのだな。その覚悟でいることだな。くっくっく……お前は木こりに擬装してはいるが、ここに一人で来たということはさぞや名のある武人なのだろう。我は曲芸師のクラウン。お前の名をあかせ」
「俺はただの木こり。そして、お前ごときに語る名などはない」
やせ細って顔が青ざめ一見ガリガリに見える男は、
どこからか
右手の人差し指でくるくる回転させる。
そして人差し指のなかで回転力が上がりきった瞬間、
超高速で回転した
速いといっても見えない速さではない。
俺はそれをかわす。
「お前、フザケているのか? 輪投げ遊びがお前の趣味か」
「ひゃーっはははははっ! 言ってくれるなぁ。みんなそうだ……最初はそうやって格好つけたセリフを言うんだよ。耳、鼻、目、指、少しずつ自分の体が欠損していくごとに俺に惨めな泣き言を言い出すんだ! 木こり、お前がどこまでその強がりを言い張れるかどうか、楽しみだ。お前のような大男が、涙を流しながら泣き叫ぶ姿は最高に傑作だろうなぁ。ひーっひっひひ」
今度は、左右の薬指で回転させた、
二つの
頸部と、足を狙って放たれる。
たった二つ。これも最低限の動きでかわす。
「数が増えただけで芸がないな。曲芸師とやら、もうお前の輪投げ遊びには――飽きた。これ以上は遊びはやめて、本気でかかってこい」
プラントの前で戦闘を長引かせればことが大きくなる可能性がある。
俺は、この辺りに待機している教会の人間を全て把握したので、
さっさと決着をつけるために、挑発をし決着を促す。
「ひゃはっ! 強がりもそこまで行けば本物だぁ! では……真髄を見せてやろう。きききっ! 冥土の土産のとっておきだぁ! 残念、俺は四本腕の一族だ。つまりは、いま俺が放っている
男の背中が隆起し、背中の服が避け、背中から二本の腕があらわれる。
それぞれの腕の指先で
限界まで加速された瞬間に解き放たれる
頭部、頸部、眼球、左右の腕、左右の足、
左右の手首、心臓、背中、腹、股間、
合計12の円月輪が俺を襲う。
「はひぃっ? そんな馬鹿な?」
俺は、前後左右背面から迫る12の
全て自分の左右の人差し指に輪投げ入れのように挿し込み、
クルクルと回転させたまま、元の所有者へ返す。
「お前もサーカスの雑技団にでも勤めていればマシな人生を送れたかもな」
治癒魔法でも回復不可能な完全なる死をもたらした。
そして、この戦いの行方を物陰に隠れ監視していた者達に、
残りの
隠れていた教会の実行部隊たちの頭部に突き刺さり絶命。
「悪いな。本当は命を取る気まではなかった。だが、人質を取られている以上は俺にも余裕がない。おまえたちの運の悪さと卑劣さを恨みながら地獄へ行け」
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