第27話『教会実行部隊の潜入工作』

 俺はこの魔導法国内に群生している木から情報を得て、

 この国にはすでにトロイの木馬となる、

 教会の実行部隊が潜入していた。


 教会の実行部隊の潜入先は魔導プラント。


 この魔導プラントでマナを魔力に変換することで、

 街中に魔力の供給可能とすることができる。


 このプラントが破壊されるということは、

 この魔導法国の人間の日常生活はもちろん、

 防衛機能も失うことになる。


 この国の周囲をドーム状に覆う魔力による結界は、

 この魔導プラントから供給される、

 魔力無しに稼働させることはできない。


 この国にとってこの施設は重要な施設ということもあり、

 魔王は四天王の一人をここに派遣し、

 外敵が侵入することが不可能なようにしていた。


 このプラントには四天王のなかでも、

 単純な破壊力では最も強い炎鬼えんきが配置されていた。


 だが……妻子を人質に取られた炎鬼は、

 教会の手に落ちているのであった。



 俺は、魔王の玉座の間で現在の状況について説明する。



「……というわけだ。教会の実行部隊は、魔導プラントの破壊工作の準備を進めている。魔導プラントの職員を含め、施設全体がまるごと人質にとられている」



「ふむ……どうやら……ことは一刻を急ぐ状況のようじゃな。それにしても、我が重要拠点の防衛力強化のために配置していた炎鬼えんきの存在が、今回に限っては仇になった形じゃな……守るものがある者を所有拠点の防衛に回していたのは我の采配……。教会の方が我よりも一つ上ということか」



「いや、奴らが手段を選ばない外道なだけだ。まともな道徳をもった人間には思いつかない卑劣な戦術だ。そのような人間が相手な以上、俺も今回は一切躊躇することなく徹底的に殲滅することに専念する」



「魔導プラントを破壊されたらこの国は大混乱じゃ。市民の生活は成り立たなくなり、この国の結界の外のモンスター共が侵入してくる。教会の狙いはこの国を混乱に陥れることかの?」



「いや、もっと具体的な目的だ。1週間後に教会の本隊が攻め込んできたタイミングでこの魔導プラントを爆破し、結界を解除させた上で、大軍勢を攻め込ませようとしているようだ」



「今回の件は、我の不覚じゃ……まさか、我の精鋭の四天王の一人が教会側につくことになるとは思いもよらんかったのじゃ。しかも、四天王の炎鬼えんきは機動力こそ低いがこと拠点防衛能力においては、四天王の中でも最強。じゃが、これが完全に仇となった感じじゃな」



「陛下も気に負う必要はない。その四天王も進んで、陛下を裏切っているわけではないだろう。教会の実行部隊に従っているのは自分の妻子を人質に取られているからだ。魔導プラントの全職員と、炎鬼の妻子――つまり、人質たちの首には任意のタイミングで爆破させることが可能な、首輪型の爆弾が仕掛けられている。だからこそ、炎鬼えんきも従わざる負えないという状況だ」



「くっ、なんとも卑劣なる連中……。そして、これだけ長い時間を生きていた

 我が敵の戦術に出し抜かれるとは、本当に情けない……。魔導プラントを破壊されればその時点で我らの敗北は確定的なものとなる。何としてでも死守しないといけない重要拠点なのじゃ」



「魔導プラントの破壊工作は、教会の連中がこの領域まで進軍する予定のちょうど1週間後を予定している。だから、今すぐにプラント爆破させる事はないとは思うが、人質のストレスや体力の問題もある。だから、俺が人質を救出し、魔導プラントを解放しよう」



「この国に関係のないおぬしに負担をかけてすまぬのじゃ……。作戦成功の可能性をあげるため我の精鋭部隊をつけよう。数で攻め込めば鎮圧も可能かもしれぬ」



「いや、俺が一人で行く。あまり大軍勢で向かえば向こうに察知される可能性が高くなる。決行の予定は1週間後だが、大軍勢を送ればその時点で作戦を前倒しにし、自爆覚悟でプラントを破壊しかねない。最終的には結界を解除さえできれば良いのだから」



「異国の出身のおぬしにすべてを任せなければいけぬこと、申し訳なく思っておる。我が、魔王としておぬしに協力できることはあるか?」



「今はあえて陛下には我慢してここで待機していて欲しい。陛下が動けば、教会の実行部隊を刺激することになりかねない。だから、俺が戻ってくるまでに一つだけお願いしたいことがある」



 俺は異世界で星にもらった種をポケットから取り出し、

 魔王の手に渡した。



「この種は俺にとって特別な物だ。陛下がこの城の中庭のなかで最も良いと思った土に植えて欲しい。もしかしたら大きな木に育つかもしれないからできれば広いところに種を植えて欲しい。そして、枯れないように水や肥料を丁寧にあたえて欲しい」



「……おぬしのその目つきを観る限りは、決してふざけているわけではないようじゃな。うむ、承知した。その種を植えたそばには柵でかこった上に鳥や小動物に食われないように衛兵にも監視させるゆえ、安心して任せるのがよいのじゃ」



「申し訳ないが、頼む。長い長い付き合いのあった友人からもらった大切な物だ。俺にとってはとても重要なことだと理解してくれると助かる」



「分かった。この種の件は我に任せよ。きちんと責任をもって育て上げるのじゃ」

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