第26話『兄妹の結婚を妨げる教会を滅ぼそう!』

「それじゃあ……そうね……仮によ……仮に、ベッドの上で一糸まとわぬ裸でお互いにマッサージをする場合はどうかしら? お互いにベッドの上でマッサージをする行為、これは法律的な面で問題がある行為かしら……?」



「マッサージももちろん合法だ。まったく問題ない、どころかむしろ心身の健康を保つためにはむしろ推奨される行為だ。按摩師あんましさんからマッサージを受けるときは基本的に、半裸か、全裸だ。ときにアロマオイルを使うことすらある……そして、もちろん按摩師あんましさんは王都のお偉いさんが認める職業であり、全くの問題ない合法的な行為だ」



「……オイルも合法なのね……ぬるぬるのオイルも、合法」



「そうだ。オイルも、合法だ。……滑りが良くなるが法律的にはなんら問題がない。仮にオイルでぬるぬるすることで、手元やいろいろなところを滑らせるかもしれないが、それはケアレスミスなので合法だ。それにオイルを使うことで肌の保湿効果が高まり女性には特に良いそうだ。更に、体を暖め、血行を促進する効果もあり健康にもよい。マッサージのときにオイルを使うのはむしろ推奨される行為だ」



「そうだったのね……ぬるぬるは合法。うっかりも合法だったのね。健康にも美容にも良いというのだから、マッサージの時にオイルを使わない手はないということね……うん。とっても勉強になるわ!」



「ああ。もしベッドの上でマッサージを受けることが犯罪になるのであれば王都の全按摩師が犯罪者になる。そんなことになれば肉体的に疲労が蓄積した冒険者や、木こりのような労働者はどこで筋肉のこりをほぐせば良いというのだ。多くのものが、体を癒やすことができず、その結果王都は活気をなくし衰退していくことだろう」



「そうね。確かに……ブルーノは正しいわ。あなた、本当に見違えるほどに賢くなったのね。私、惚れ直しちゃうわ」



(何かがおかしいのじゃ……このブルーノの言う言葉、部分部分は正しいかもしれないなぁ……と我ですら納得してしまうことがあるのじゃが、全体を通して聞いてみると何かがおかしい気がするのじゃ……)


 ――――。


(でも、我も……一度は異性とぬるぬるのオイルマッサージ……経験してみたいものなのじゃ。我がブルーノの言葉に疑問を感じるのも、ひとえに人生経験の不足によるものかもしれんのじゃな。永劫に近い人生のなかで、そのような体験をしてこなかった我の見識が狭いのかもしれんのじゃな。うむ、こんど最強の四天王の"影"にでもオイルマッサージとやらをやらせてみようかの)



「俺も異世界で鍛えてきたのは筋力だけでは無いということだ」



「そうね。あなたが筋力だけではなく知性も磨いてきたという事はもはや疑いのない事実だわ……それならば……仮に……子供ができた場合はどうなるの……かしら?」



「…………」



「…………」



(…………)



 少し考えたあとに俺は答えた。



「大丈夫だ。子供はコウノトリがキャベツ畑から運んでくるものだ。だから問題がない。それに神様も処女懐胎だ。特になにもしなくても子供が産まれることはある。それこそベッドで一緒に寝るだけだって自然とできることがある。だから合法だ」



「なるほど……。さすがはブルーノ。賢いわね。一緒に暮らしていたら子供ができることもある。確かにあなたの発言は一理あるわね」



「もともと法律などを破ることは恐れるに足りぬとは思っていたが、冷静かつ客観的な視点で考えると法律的にも兄妹間で結婚することが問題のないことだということが分かるな。なにごとも冷静な思考が重要だ」



「ブルーノ。あなた……とってもかっこいいわ。賢くて、強くて、勇気がある。私はあなたのような人と結婚できて幸せよ」



「うむ」



 アリスからの熱い視線を感じる。


 普段は筋力しか見せることができなかったが、

 異世界での無限に近い時間を過ごすことによって、

 俺も少しは賢くなったようだ。



(椅子に座りながら、黙ってこの二人の言葉をそば耳立てて聞いておったのじゃが、さすがに狸寝入りを続けるのはそろそろ限界かの? そろそろ起きた振りをして会話に加わってみようかの? まずはあくびのマネじゃ)



「ふわぁ……。なんじゃ、ブルーノおぬし、目覚めておったのか。それにしても、おぬしら、妙に艶っぽい雰囲気になっておるのじゃな。一体、おぬしら二人は我の寝ているあいだになにを話しておったのじゃ?」



「私、ブルーノと結婚します。兄妹で結婚することは合法でした」



「おっ……そっ、……そうか。アリスよ、ご結婚、おっ、おめでとうなのじゃ」



「陛下。俺とアリスは結婚します。何故なら合法だからです」



「でも、法律の上では確かに兄妹が結婚することは完全に合法だと理解したわ。だけど、教会の定めた教典の中には"兄妹間の結婚を禁ずる"という文面があるわ。わたしたちが結婚しても神様は怒らないかしら?」



 教会……アリスの故郷を滅ぼし、勇者を使ってこの国を攻め落とそうと企て、

 さらには、兄妹の結婚を禁止する教典などという怪しげな、

 ルールを作った世の中に不幸を撒き散らす集団だ。



「陛下、おれたちは先ほどお伝えした通り結婚します。ですが、まずは先に教会を滅ぼします。やつらは、人の定めた法律の上に教典や教義を作り、教会の都合の良いように人々を洗脳しています。兄妹間の結婚がまるでよくないことであるかのように教義で説く彼らを討ち滅ぼさねばなりません。俺とアリスが祝福されるためには、教会を滅ぼす必要があります。一刻も早くに」



「お……おう、おぬしの言う通りじゃの。教会も勇者も我の仇敵であり、過去にアリスの祖国を滅ぼした悪逆非道の徒じゃ。思う存分にやってしまうのじゃ」



「ねぇ……ブルーノ……兄妹の間で子どもを作ると神の怒りに触れないかしら?」



 アリスは少し頬を赤らめている。かわいい顔だ。

 俺はいまや神の罰などは怖くはないが、

 アリスが安心する答えを与えてやろう。



「安心しろ、神様は祝福してくださる。大丈夫だ、神様に至っては、義理の兄妹どころか、実の兄妹や実の親子同士で子どもを作っていたりする。そのような神様達が、俺たちのことを批判することがあるはずがない」



「……っ! 確かに私の知っている神話の本でも、神様は親子や兄妹で子どもを作っていたわ。しかも血のつながった者同士で。つまりは……そういうことなのね! ブルーノ!」



 アリスは何かの天啓を得たのか歓喜の表情を浮かべている。



(うわぁ……のじゃ)



「安心しろ。アリス、むしろ神様が俺たちのことを見ているとしたら応援してくれるはずだ。重要なのは、アリスが俺と結婚したいかどうか、それだけだ。俺は、アリスを愛している。だから一緒になって欲しい。俺の親父やオフクロのようにずっと仲良く一緒に暮らしたいと思っている」



「そうね……分かったわ。そもそも……教典は、私の産みの親であるパパとママを殺して、私の祖国の研究都市国家のアーティファクトを盗んだものの末裔ですものね。そんなものが作った教義なんて一切守る必要はないわね。むしろ破ることこそが、正しい行いのような気がしてきたわ」



「そうだ。神託の勇者などを使い、今まさにこの国を襲おうとしている奴等の作った教義も教典も守る必要はない。とはいえ、教会の作った教典や教義のせいで、王都のみんなから俺たちの結婚の祝福をしてもらえなくなるのは困るな。アリスの両親の仇をち、この国を救い、そして教典に洗脳された王都の民の目を覚まさなければいけない」



「そうね。私のパパとママの命を奪うのみならず、私達が結ばれることを邪魔する教義を作った者達を許すことはできないわ! 絶対に!」



「そうだ。法律も、教義も、信仰も、道徳も、国も、神も、勇者も、王も……何もかも俺たちの仲を裂くことは許されない。目の前に立ちふさがる壁をぶち壊して、俺と一緒になろう。俺はおまえが好きだ、アリス」



「私もよ……私もブルーノが好き。ずっと一緒に居たいと思っている」



「なら、まずは教会を片付けて、結婚しよう。人生は長いようで短い。善は急げだ。もとより王都に出る時にそう決意して出てきた。ゆえに、いまさら怖いものなどあるはずがない」



(よし……。結婚の下りは、我にはよく分からなかったのじゃが、結果的に教会や勇者をやっつけようという気持ちが強くなってくれたのは、我としては超ラッキーなのじゃな。よしよし、ここで一つ我ももり立てようじゃないか)



「そうじゃな! ブルーノの言うとおりじゃ。教会も、その手先の勇者も、兄妹の結婚を妨げる極悪非道な連中じゃ。おぬしら二人の明るい未来のためにはまっさきに排除をしなきゃいけない相手じゃな。我も、おぬしの意見に賛成じゃ!!」



「俺としては、はやくアリスと結婚式を行いたい気持ちはあるが……まずはこの近くに潜伏している教会の小隊を殲滅してくる」



「おぬし、その情報をどこで手に入れたのじゃ? この近くに教会の一味が忍び込んでいるなどという情報は、我もしらぬ情報なのじゃ」



「俺は木の声が聞こえるようになった。木から聞いた情報だ。間違いはない」



(木と喋る? 一体どういう意味じゃ?……アーティファクト、箱舟はこぶねが脳に与える影響については今後改めてよく調べてみないといけないのじゃな。ブルーノの脳に何らかの後遺症が残っていないことを祈るのじゃ)



 そんな心配をしながら二人のおバカなやり取りを苦笑いしながら聞きつつも、

 少しだけ、ムラっとした気分になる魔王なのであった。

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