第24話『星の終焉と異世界からの帰還』
……うーむ。
なかなか強いモンスターだったのでもしかしたら、
魔神かとも思ったがどうやら違ったようであった。
奥の方には沢山の財宝を隠し持っていたので人里に、
材木を運ぶついでに持って帰ったら大いに喜ばれた。
この異世界とやらに来て100年が経過した。
アリスに会えない寂しさから木を削ってアリスを作るようになった。
それをいろんな村に持っていったら御神体として飾ってくれるようになった。
何かしらの神様と勘違いしているのかもしれない。
アリスがこの世界の神扱いされるのは悪い気はしない。
訓練の暇を見てはアリスの姿の御神体を木で作り無償で配った。
村人はまるで女神様のように祈りを捧げていた。
「やっぱり、かわいい。この世界での唯一の癒やしだ」
俺は、この世界にきてから100年の間に、
斧という道具の素晴らしさを理解しつつあった。
これ一本で木を切り倒すこともモンスターを狩ることもできる。
おまけにアリスの像を作ることもできる。
斧は無敵だ。
だが、その無敵の斧でも木には敵わない。
この100年の間に老木や、山火事を起こしそうな木を、
切って切って切りまくりながら世界を旅していた。
だが、100年前に切った木を見に行くと、
木を切り倒した同じ位置により太い木を生やしていた。
100年という期間で見れば何もしていなかったも同じである。
倒せたと思ってもそれはあくまでもそれは、
いっときの勝利であり本当の勝利とはほど遠い。
一瞬、その気のとおさに膝を折りそうになった。
だが、ここで屈するわけにはいかない。
「だが、負ける訳にはいかないのだ、友よ」
俺は、一度に一本の木しか切れないのでは、
永遠にこの戦いに勝てないと悟った。
それからは、同時に複数の木を切り倒すために修練を積んだ。
この異世界に来て1000年経った。
斧を横薙ぎすることで前方の木を同時に、
10本同時に切れるようになった。
詳細な理屈は分からないが斧を思い切り横に振るうと、
斬撃が飛んでいき10本の木を同時に切れるのだ。
だが、まだまだ完成されていない。
俺は誤って若木をかすめてしまった。
この斬撃を真の意味で完璧に使いこなせる時がくるとしたらその時は、
若木を切らずに老木だけを切れるようになる時だ。
斧を振るう時により繊細な動きが必要となる。
その方法を修得するために、更に年月を重ね修練を積む。
この異世界に来て10000年経った。
俺は理解した。
「俺は木に生かされている」
俺は悟った。
自分が生きているのは木があるからなのだと。
木が空気を作り、木が実らせる木の実や、
果実が生物たちの命を支える。
仮に木が空気を作るのをやめれば、
その瞬間にこの世界は終わる。
仮に木が木の実や果実を育むのをやめれば、
この世界の全ての生き物は飢えて死ぬことだろう。
そのような存在を切っていいのか?
――否。
俺は木を切っているのではない、木に切らされているのだ。
つまりは俺が木を切るという行為すら、木の一部にすぎない。
もし、人が木を無視して森の手入れをしなかったらどうなるか?
木を怒り、山を燃やし、人もモンスターもことごとくに焼き殺す。
人間が定期的に散髪が必要なように木も人に切られる事を望んでいるのだ。
俺はアリスの顔を思い浮かべながら眠りについた。
この異世界に来て1000000年が経った。
ついに俺は木が何を考えているのかを理解した。
木を理解するということは星を理解すること。
星を理解するということは万物の理を理解すること。
俺が木に愛情を注ぐ時に、木もまた俺を愛している、
その事実を理解した。
木は俺に語りかけ、俺も木に語りかける。
俺は木彫りのアリス相手に会話をするようになっていた。
100000000年が経った。
この星に暮らす人間たちは宇宙を駆ける船を作り、
この星を去っていった。
星を去る際にはこの星の苗木を持って、
必ず他の星でも木を育てると言っていた。
そして、アリスの姿を模して俺が作った像を、
創生の女神の像として持っていった。
そして彼らは旅立つ最後の日に『ありがとう』
という言葉を残して去っていった。
長い歳月をこの世界で過ごしたが、
この世界の人間と争うこと無く、
平穏に過ごせたのは幸いであった。
そして――数え切れないくらいの年月が経ち、その時が来た。
この世界の終焉の日である。
いたるところで火山が噴火し、
この星が限界に来ている事は明らかであった。
この最後の瞬間にこそ魔神が出てくるものと期待したが、
結局は出てこなかった。
俺に倒される前に何らかの事故で死んだのかもしれない。
この星に住まう人々もこの星の崩壊を予期して、
宇宙に旅立っていたようだ。
つまりこの世界に残された人間はたった一人、俺だけ。
俺はいつものように、木を切り、
木彫りのアリスを彫っていた。
いまでは、カンナを使わなくてもツルツルのまるで、
生きているかのような完璧なアリスだ。
我ながら完璧な仕上がりである。。
その木彫りのアリスが俺に向かって話しかける。
俺は自分の正気を疑った。
俺は世界に一人きりになり、
頭がおかしくなったのではないかと自分を疑った。
だがそれは違った。
木彫りのアリスを使って話しかけたのはこの星の意志であった。
『いままでこの星を守ってくれてありがとう。異界の木こりさん』
「……あなたはこの星の意志ですね」
『はい。そして、残念ながらご推察の通り、この星の寿命は尽きます。ですが、あなたのおかげで私の子たち……この星の生命体は、他の星に逃げ延びることができました。それもこれもすべては邪悪なる者達からこの世界を救ってくれたあなたのおかげです。異界から訪れたに関わらずに、この世界の文明に過度に干渉せず、最後までこの星の成長を静かに見届けてくれてありがとう。彼らはこれからもあなたにしてもらった恩を忘れることはないでしょう」
「いえ、俺は何もしていません……。ただ、一人で木を切っていただけです」
この星で多くのことを学んだ。
木の素晴らしさ、斧の素晴らしさ、そしてアリスの愛らしさ。
この長い歳月を通してより一層深く理解することができるようになった。
『異世界からの来訪者さん。元の世界にどうか、この星の種を持っていってください。私が最後の力を振り絞って作った種です。この種には星の蓄えた星の叡智が詰まっています。この種はあなたが護り通したこの星そのものです。きっと、あなた達の世界でも役に立つことでしょう』
「ありがとう。そういえばあなたの名前は?」
『僕は星……名前は無いんだ』
「それではアリス、なんてどうだ? 少し女性っぽい名前だが」
『アリスか。とても、いい名前だね……。ありがとう。さあ、そろそろこの星の終わりの瞬間がくる。その最後の瞬間を特等席で見届けよう。この星の終焉を見届けるのが、僕と君とのたった二人しかいないということは喜ばしいことなのだろうね。すべては君のおかげだ』
「この星の子たちは新しい星でも元気にやっていくんだろうな」
『ありがとう。君は最後の瞬間まで、静かにこの星の行く末を見守ってくれた。それが僕にはとても嬉しかった。君は異界からの来訪者でありながら、常に優しくこの世界を見守り続ける隣人であった。最後の最後に、君に感謝の言葉を伝えることができて僕は満足だ。これで、本当に終わることができる』
その言葉を最後に星の中心から膨大な光が溢れ出し、
次の瞬間に俺はあたたかな星の光に包まれていた。
俺は一人の木こりとして星の寿命を見届けたのであった。
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