第23話『異世界での超特訓』

 ここが、太古の昔の旧人類が作った箱舟の世界という奴か。

 確かに魔王の言う通りここは現実の世界と変わらない。


 魔王いわくこの世界は旧人類が世界が滅びる前に、

 世界を模して創った世界だと聞いていたが、

 決してそのような作り物の空間には思えなかった。


 風の臭い、土を踏みしめる感触全てが再現されている。


 森をでて、人里に入り現地の人間とも会話もしてみたが、

 俺にはこの世界がとても虚構の世界と思うことはできなかった。



「元の世界に戻るにはこの世界の災厄の根源である、魔神を倒さなければいけないということだったな。どこにいるのか分からないが、木を切り、危険なモンスターを倒しながらゆっくりと進めよう。あくまでもこの世界にきた理由は、アリスとの幸せな生活を送るために強くならねばならない」



 それにしても、確かに旧人類が移住先の候補地とするだけのことはある。

 とてもこれが非現実なんて信じられない。


 さまざまな種族が暮らしている世界であり、

 どの種族もそれぞれに悩みを抱えていたりしてとても虚構の世界とは思えない。

 味覚も満腹感も現実と同じだ。



 目的を忘れて遊ぶわけにはいかない。



「取りあえずは寝るか……」



 寝て、起きる。やはりまだこの世界の中か。

 俺に与えられている時間は有限。


 強くなるためには何をすれば良いのか。

 ――より早く、木を切り倒せるようになれば良い。


 この世界に木ほど複雑で頑丈な物はない。

 木の繊維は複雑で斧を打ち込む場所によって、

 全く感触が変わってくる。


 更には天候にも左右される。

 たとえば雨季の水を吸った木はとても重く、

 切るのも容易ではない。


 木を切れるのであれば鋼を切ることなど容易である。

 鋼は木の繊維のように複雑ではなく一様である。


 真っ直ぐに水平にあるいは、垂直に斧の刃を

 打ち込めばすんなりと刃を通してくれる。



 木だ。木を一撃で切り落とせるようになれば、

 フルプレートアーマーを身にまとった騎士であれ、

 一撃のもとに屠ることができる。



「そのためには筋力が必要だ」



 俺は数ヶ月の間、何も考えずに斧で木を切り倒した木を

 人里に無償で持っていくという作業を繰り返した。


 木を切る動作により俺の技量は高まり、

 倒した木を担いで運ぶことで全身の筋肉が強くなる。


 数ヶ月後には木を一本担ぐことの重さを感じなくなっていた。



 この異世界にきてから半年が経った



 俺は木を切って切って切りまくった。

 だがこの世界は広い。


 切っても切っても全ての木を切り倒すなんてできない。



「だが、徐々に切るコツはつかめてきた」



 木を切り倒している途中に巨大な城を見つけた。


 複数の村の人から聞いた話によればこの世界の人間たちを、

 奴隷のように扱う悪の権化のような存在らしい。



「モンスターのくせに知性があるとは。厄介な害獣だな」



 このまま放置していれば多くの人が不幸になる可能性があった。

 たとえ、虚構の世界の住民と言えども人が不幸になる姿を見るのは、

 俺にとって気持ちのよいことではない。


 それに領地を森にまで拡大してきていたので、

 俺の訓練の邪魔になる恐れがあった。



 だから徹底的に殲滅した。



 巨大な城の最上階には玉座にふんぞり返っている人型のモンスターが居た。

 王冠などを被って王様きどりのようだ。


 なにやら俺に向かって難しい説教を説いていたが半分も理解できなかった。

 隣にアリスが居たら解説してくれたかもしれない。


 アリスの事を思い出しこの世界では会えないことを思い出し、

 そのことを思い出させた王冠のモンスターにマチェットを投げつけた。


 くるくると空中で回転しながら王冠のモンスターの首を跳ねて、

 俺の手に戻ってきた。


 巨大な城のモンスターを殲滅すると、転移ゲートのような物が出てきた。

 知恵だけは者な雑魚モンスターが考えそうな小賢しい罠である。


 王冠モンスターの首を人里に持ち帰り巨大な城のモンスターは

 もういなくなったことを報告した。


 俺の持ってきたモンスターの名前は『マジン・ノクビ』というらしい。

 この人里近くでは有名な害獣だったのだろう。


 その日は豪華な料理とお酒でもてなしてもらった。

 ありがたいことである。



 この異世界に来てから10年の歳月が経った。



「この世界は広い。魔神とやらの存在は未だに行方知れずか」



 巨大な城を構えた害獣を倒してから10年、

 モンスターの襲撃や人同士の争いもなく平和な時期が続いていた。


 魔神は行方知れずだがあまり早く登場されても俺が鍛える時間が無い。


 だから人里に木を運ぶついでに、悪さをしているモンスターはいないかを

 確認しつつ、怪しそうなモンスターは片っ端から狩っていったが、

 その中には魔神はいないようであった。



「魔神もまだいないようだし、訓練を続けよう」



 俺は山の中の木を切って切って切りまくっていた。

 もちろん俺が切る木は成長の止まった老木や、

 他の隣木の成長を妨げるような木のみに限定している。


 虚構の世界とはいえ、やはり有益な木まで切るというのは、

 あまり面白いものではない。



 俺はくる日も来る日も、木を切って切って切りまくった。

 だが、俺が木を切るスピードよりも木の成長の方が速い。


 つまり、一振りで一本の木しか切れないようであれば、

 いつになっても一人前の木こりになれないということだ。



 その時俺は気がついた。



 俺が相手取っているのは木ではなくこの星そのものなのだと。


 草木は土によって育まれ、

 土は生命の死骸などによって育まれ、

 その生命は草木によって育まれる。


 この無限の円環の中心にあるのが星のエネルギーである。


 つまり木と対峙するということは、

 星を相手どることに他ならない。



「なるほど。はは……俺の相手は星だったか」



 俺は自分の組み伏せようとしている相手の強さに気づいた。

 だが、その程度がこなせないようでは魔神など倒せるはずもない。


 魔神が倒せないということは現実の世界に戻っても、

 アリスを守ることができない。


 そんな程度の強さではまったく意味がない。



「まだまだ俺も青二才だな」



 訓練のために凶悪なモンスターが群生している地で、

 木こりをすることにした。


 思った通り、手入れのされていない森の中は、

 木の成長にも適さない環境になっていた。


 あまりに木が生い茂り過ぎて太陽の光が挿さないのと、

 寄生植物が繁殖し木の栄養が吸い取られ、

 どの木もやせ細ってかわいそうな位だった。



 ついでといっては何だが、

 強固な封印が施された洞窟があったので、

 封印された扉を斧で破壊しなかに入り、

 最奥に潜んでいた巨大なモンスターと戦った。


 数十メートルを超える巨体、

 巨大なタコに似たモンスターであった。

 タコと言っても触手の数は100を超えていた。

 

 更にはその触手にはタコの吸盤の代わりに、

 それぞれの瞳が張り付いていた。


 斧で片っ端から触手を叩き切り、

 何度も何度も頭部を潰しても蘇り、


 途中で人型の形態に変形した時には、

 何か難解な哲学めいたことを語っていた。

 だが、所詮は畜生の戯言である。


 俺には哲学など理解できないし、

 畜生の言葉など聞くに値しない。


 俺は何度も蘇るそのモンスターの頭部を、

 斧で三日三晩叩き続けたらピクリとも動かなくなった。



「やはり、これも魔神ではなかったか」

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