第14話『勇者と木こりの尋常ならざる決闘』

「おじさん申し訳ないですがこの遺跡周辺の人払いをお願いします」



「分かりましたじゃ……相手は神託の勇者。ブルーノくんも無理をしないように」



「ご心配ありがとうございます」



 俺は目の前のクルスに向かい合う。



「おい。お前さぁ……汗で汚れた手ぬぐいを僕の高貴な顔に投げつけやがったな。今回ばかりは僕はお前に手加減なんてしてやらないからな。今回の僕は最初っから全力で挑む。お前のように一人だけじゃなく、仲間との絆の力で戦う。僕に決闘を挑んだことを地獄の底で悔やむがいいさ」



「好きにしろ」



 後出しで言い訳されるのも面倒くさい、

 ヤツの言う本気を出させてやろう。



「エリアルは俺の双剣に氷と炎の双属性を付与しろ。リーファは俺に継続治癒魔法を付与。フレイヤは超身体能力強化付与。オールフォー・ワン全ての犠牲は勇者の勝利のために――僕たちの絆の力に勝てる者などいない」



 クルスの足元に複数の魔法陣が同時展開。

 クルスの全身が様々な色の光に包まれる。


 クルスの持つ双剣には左の剣には火属性、

 右の剣には氷属性が付与されている。

 


「もういいか」



「今度は前回のようにはいかないぜ。蜃気楼ミラージュ!」



 確かに速い。


 前回の木剣の試合の時よりも更に速くなっている。

 レベル・アップとやらの効果だろう。


 だが俺とて每日聖剣での素振りを欠かした事はない。

 更に、いまの俺は木剣ではなく最も手に馴染んだ斧を持っている。



 目の前に双剣の剣先が迫る。



 俺は足腰のバネを使い腰だめにした斧を横一文字に切り結ぶ。

 だがそれは蜃気楼ミラージュによって作られた残像。


 まるで雲を切るかのように斧の刃をすり抜ける。



「ははっ! バーカ。そいつは僕の残像だ」



「知っている」



 今の一撃は遠心力を加えるために

 本命は慣性力を付加した二回転目に放たれるこの斬撃だ。


 回転力により速度と重量が増した渾身の一撃。

 本当の狙いはここだ。


 俺の二回転目の斧による斬撃によりクルスの両腕は、

 吹き飛びクルクルと放物線を描き、宙を舞う。



「……え?!」



「どうする。まだ続けるか」



「おい……。おい……リーファ、お前さあ……なにやっているんだよ、お前の役割は治癒だろうがグズ。早く俺の切断された腕をなんとかしろよ。おまえの治癒が遅いせいで、木こり風情にせかされているんだろうが!」



 リーファ呼ばれているエルフの少女はクルスに上位治癒魔法をかける。

 ほとんど奇跡ともいって良いほどに芸術的な治癒魔法。

 クルスの切断された左右の腕が完全に元通りになる。


 いや、本当に異常なのは魔法じゃない。


 いつものクルスであれば両腕を落とされたら、

 確実に痛みで悲鳴をあげるか、痛みで気絶する。


 今日のクルスは驚くほどに冷静。

 俺は状況を把握するためにクルスと距離を取る。



「おい木こり、おまえさぁ……僕にびびってんだろう? 腕を落とされた位でひるむと思ったんだろう? 僕は勇者だ。腕を切り落とされたくらいじゃ引かない」



「そうか。それなら別の部位を落とすまで。落として欲しい希望の部位はあるか?」



「木こり、てめぇ、僕を舐めてんじゃねぇ。次に落ちるのは――おまえの首だ」



 クルスはバックステップで距離を取るとともに、

 両腕に持った双剣を投げた。


 左右から回転子ながらまるでチャクラム回転式円盤刃のように、

 俺の頸部を狙い双剣が飛来する。



「無駄だ」



 双剣は投げるのに特化した武器ではない。

 ある程度の重量がある武器であり投擲武器には最適化されていない。


 ゆえに、その軌道を読むこともさほど難しくない。

 俺は斧を横一文字に振るい、左右から迫りくる双剣を叩き落とす。



 だが、クルスの狙いはそれじゃない。

 双剣は、俺との間の距離を詰めるための捨て石。

 

 本命は腰の鞘から抜いた致死毒の塗られた刀身の短い短刀。

 それを俺に突き立てること。



「てめぇもこれでしまいだぁ!!!!」



「どうかな」


 武器を隠し持っているのは俺も同じだ。

 腰の革の鞘から引き抜いた草刈り用のナタ――マチェットをただ、振るう。


 クルスの短剣を握っている右手首を切断、

 同時に腹部も横一文字に切開する。


 マチェットは切れ味の良い刃物じゃない。

 切断面もまるで肉食動物に噛みちぎられたかのようにギザギザになっている。

 その痛みは、真剣のように鋭利な刃物の比ではない。


 俺は叩き落とした双剣を、斧を振り下ろし、

 真っ二つ斬り落とし完全に破壊する。



「まだ続けるか?」



「だからさぁ……言っているだろ? 勇者はこれくらいじゃ倒れない。仲間との絆の力は無敵だってさぁ。また決闘の時のように勝ったと勘違いしちゃっているわけ?」



 手首を落とされ腹部を切開され、

 腸をぶら下げ血を地面に撒き散らしながら怯まないのは明らかにおかしい。


 しばらくするとクルスの体が光り輝き、

 同時に腹部の傷も完治し、斬り落とした手首も元通りになる


 クルスよりも、彼の後ろに控えている仲間たちの方が苦しそうだ。

 額から脂汗を流し、息が荒い。

 俺と戦っているクルスよりも満身創痍の様相だ。


 女騎士のフレイヤは地面に膝を付き吐血。

 そして……そのうちの一人姫騎士エリアルが、

 意識を失い、前のめりにバタリと地面に倒れ伏した。

 


 何かが明らかにおかしい。



「……クルス、おまえ外法を使っているな」

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