第3話 チキン野郎③

 今日で神戸に来て3日目。


 室内は、未だに荷解き途中の段ボールで散らかったままだ。家に居ても、ずっとポニーテール女店員の事で頭がいっぱいになり何も手に付かないのだ。


 コップに水道水を入れ、カラカラの喉に流し込むと、例のごとく、俺は昨日見たスマホの検索履歴を確認する。


【コンビニ店員 だーいすき】

【コンビニ店員 チェンジ】

【唐揚げ 揚げたて 美味い】

【ピアス穴 5個 意味】

【巨人軍 菅野 画像】

【巨人軍 菅野 奪三振集】

【レジ横の苺大福 罠 助けて】


 ふむふむ、なるほど。我ながら無駄の無い尖った検索履歴だ。とりあえず今日の予定もコンビニでポニーテール女店員を覗きに行こう。


 俺は、室内の片付けをそこそこに、身支度をして、玄関のドアを開けた。


 玄関のドアから、顔を出したその時、


 隣の部屋のドアノブに手を掛ける隣人さんであろう人物と鉢合わせになった。


「あっ」


「あっ」


 驚いた事に俺の視界に入って来たのは、白いワンピースを着た菅野だった。向こうも俺の事を覚えていた様で少し驚いている様子だ。


「どうも」


 軽い会釈をしてから、部屋に入ろうとする菅野。


「ちょっと待った!」


 俺は、菅野を呼び止めると手招きをして部屋の前へと呼び寄せた。


「色々と聞きたい事がある。ちょっと中に入れ」


「えっ?」


 菅野はキョトンとした顔をしながらも、俺の部屋へと入ってきた。菅野が部屋へ入ると同時に玄関のドアを閉める。


 靴を履いたまま、玄関で向き合う俺と、未だにキョトン顔の菅野。


「なんですか? いきなり」


「質問をするのは、俺の方だ。いいか菅野、お前はこれから俺がコンビニに来たらポニーテールの女の子とレジを変われ。いいな?」


「菅野?」


「どこに引っかかってんだよ! とりあえず、ポニーテールの女の子と俺を2人きりにしろって事!」


「ポニーテールの女の子? あー、昨日一緒にシフト入ってた聡美さとみのことですか?」


 考える時に人差し指を口元に置く菅野の仕草が癇に触り、土手っ腹にボディーブローをぶち込みたい衝動をグッと堪える。


「聡美……ちゃん……。そうだ! 多分、聡美ちゃんの事だ」


「もしかして……聡美の事好きなんですか?」


「好きじゃ悪いか?」


「それならー、これからウチ来ます? 聡美も来るんで」


 菅野の突然なナイス提案に俺は一瞬言葉を失う。


「……。でも、聡美ちゃんは、いいって言うのか?」


「多分大丈夫ですよ。私も聡美も結構誰でも仲良く出来るタイプなんで。どうします?」


 突如として舞い込んで来たチャンスに俺は唾を飲んで答える。


「是非!」


「オッケーです。そしたら、聡美にも連絡しとくんで1時間後に隣の部屋に来て下さい」


「おっ、おう。ありがとう」


「そいじゃ。また後で」


 菅野は、そう言うと後ろ姿で手を上げながら、玄関を後にした。


 頼もしい。頼もし過ぎるぞ菅野。伊達に巨人軍のエースを張っている訳じゃないんだな。


 よし、1時間もあればスマホで攻略法を模索する時間がある。


 待ってろ聡美ちゃん!


 それから俺は、靴を脱ぎ捨てると、スマホ画面にかじりつきで1時間の時を過ごしたのだった。

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離島の田舎モンが都会に飛ばされたってよ。 恋するメンチカツ @tamame

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