第4章:灯り作り
第25話
ヤコウソウの花開く薄暗闇、一筋の光がスゥっと駆けていく。その正体は青白く輝くカラスであった。
しばらく進んでいると分かれ道が姿を現した。カラスはそれを確認すると、せりだした岸壁に留まりまぶたをおろす。同時に、図書館にいるエレオスの目が開かれた。すかさず『地下動植物図会』の地図を見て方角を確認する。分かれ道の目の前に留まっているので、正しい道は地図通り右方向。再び彼が目を閉ざすと、今度はカラスのまぶたが上がった。
カラスを操って探索をする欠点は、使役するエレオスが実際にその場に赴いていないため、方向感覚が掴みにくいことである。道を外れては目も当てられない。慎重に進まねば。
「待って、レオ。進行方向になにかいる」
「チッ、さっきからなんなんだよ」
「絡繰り、じゃないね。獣かな?こっち来る」
カラスの頭上にいる蜘蛛の視界がジズのまぶたの裏に映っている。図書館内調査の片手間にカラスに一匹乗せておいて正解だった。
「魔法を無駄撃ちしたくない、少し待つか」
「それがいいね」
エレオスが目を開く。カラスの光は彼の魔力が源なので、その流れを止めれば発光しなくなる。光りながら動くものを珍しがって見ているだけなら、これで状況は変化するはずだ。
「通過した。あっち向いてるから今のうちに道に入って」
「わかった」
カラスはまぶたを上げ飛び立つ。再び青白い光が生じるが、ソレは背を向けているため気がつかない。脇を通り過ぎる時にジズがそちらに視線を向けると、それはノソリと動く大きなモグラのような生命体だったことが判明した。あの鋭い爪に攻撃されることなく道を抜けられたのは本当に良かった。
「ジズ、魔力は大丈夫か?」
彼が今使役してる蜘蛛は、図書館に放ったものも合わせて五匹。そのものが魔力の塊である蜘蛛を動かしていれば、当然魔力の消費量も膨れ上がる。
だが、それはエレオスも同様のこと。
「俺は平気。レオこそ、結界読み解いてからほとんど休んでないじゃんか」
「お前も状況は同じだろ」
「その言葉をそのまま返すよ」
「へいへい。…じゃあ、地図のここに着いたら一度休むぞ。お前もだからな」
二人は背中合わせに座りながら後ろ手に拳を付き合わせた。
カラスといる蜘蛛の視界に動くものはない。そこで、ジズは図書館内の蜘蛛の方に気持ちを向けた。
ジズの使う蜘蛛の複眼は通称 《捕食者ノ目》と呼ばれており、本来は自分自身が敵と認識したものと同質の気配を探る能力として使っている。これを応用すれば、敵だけでなく味方や探し物などあらゆるものの位置を探ることができる便利な能力だ。ただし、蜘蛛の目は八つ、人間の目は二つだ。放つ蜘蛛が多いほど目は増え、視野は通常の何倍にも拡張される。その先で起こっている事象は、当然同一のものではない。常に視界の変化に気を向けねばならないため、ジズは今魔力と同時に集中力を極限まで研ぎ澄ませていた。
「そっちはどうなんだ?」
目を閉じたまま、エレオスが問いかける。ジズは視線を中空に巡らせながら唸る。
「今のところ見つからないね。本来は地上の植物だってレウムは言ってたし、やっぱり地下深部にはないみたいだ」
仕方ないさ、ダメで元々だもの。
「最悪、蝋燭とやらを作るのは諦めた方が良さそうだな。あとはヴェーツがどこまで考察を進めてるか……」
「そういえば、さっき奥の方にある司書室にレウムと入っていくの見たよ」
司書室という名前はついているが、個室ではなくカウンターで仕切られたのみの空間。ヴェーチェルはそこでカウンターを埋め尽くすほどの大量の本を広げたり積み上げたりして一心不乱に読み上げていたらしい。エレオスは呆れたように深々と息をついた。
「おいおい、研究モード入っちまったか?時間忘れてんじゃないだろうな」
「……忘れてそうだね。しばらく出てこないんじゃない?」
ジズはため息こそつかなかったが、その目には諦めの色が宿っていた。ちょうどその時、カラスが先ほど決めた目標地点に到着したようだ。
「仕方ねぇ、少しやす…っ」
「待ってレオ!何か来るよ!」
エレオスがビクッと肩を揺らす。同時にジズの蜘蛛が視界の隅で何かを捕らえていた。
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