第12話
あれは大体何年前?いや何百年前?どれほど前のことかは定かではない。今はコバルティアの旧階層と呼ばれているこの場所が、まだ分断されていない頃の話。
その話をする前にまずコバルティアがなぜ地下にあるのかを簡単に説明したい。かつてコバルティアを開拓したいわゆる開祖と呼ばれる人間たちは元々地上の大国に仕える宮廷魔導師であった。宮廷魔導師といえば今でも地上の花形職、魔法の素質のある人間というだけで大変重宝される存在である。収入も安定して高く、謀反でも起こさない限り半永久的な雇用が約束され、万が一解雇されてもお抱えにしたい貴族はごまんといるという。
そんな宮廷魔導師であったコバルティアの開祖たちはなぜ地下に都市を造ったのか。謀反を起こした?否、彼らは逃げたのである。
その頃地上では大きな戦争が起こっていた。突然蜂起した魔族たちが地上を蹂躙し、人間たちはそれに立ち向かうためにあらゆる魔法の研究をしていた。しかし、人間たちは次第に研究から得たさまざまな魔法を用いて魔族ではなく人間同士で争い始めたのである。
「お前の確立した魔法の理論を使えば国をひとつ滅ぼせる」
「あの国の研究成果を盗め。不可能なら、研究に携わった者を始末しろ」
「戦況が思わしくない。お前の魔法で一掃せよ」
むちゃくちゃな話だとお思いであろう。だが全て起こったことである。宮廷魔導師は花形職であるとはいえ、宮廷内での身分はそれほど高くはなかった。反逆を恐れた国上層部は魔導師に様々な足枷をつけて無理矢理服従させていたのである。
大切な人のために自分の魔法で大勢の命を奪うように仕向けられた者、自国の魔法発展のため共に魔法を学んだ他国の魔導師を殺すように命じられた者……。その苦悩といったら想像を絶するものだったろう。
そんな苦しみを味わった各国の宮廷魔導師たちはある日突然逃げ出したのだ。ちょうど大陸全土を巻き込んだ大戦が開戦する日の前夜のことであった。各々の国を脱した若い宮廷魔導師たちはまるで示し合わせたかのようにある山中に集まる。追われることを恐れた彼らは、逃れた山中に隠れ里を造り少しずつ地下に都市を開拓した。それがコバルティアの始まりである。
さて、地下に住む上で彼らはいくつかの問題にぶつかった。水、空気、食料、そして灯りである。隠れ里で作っていた作物で地下に適応したものがあるので、食料の問題は解消された。空気と水も《ヴィーダ》という蔓植物の特性を利用して確保することができた。とはいえ、この二つはさまざまな困難の末にようやく確保できたものなのだが。
しかし、灯りの問題は《火》の魔法を使える魔導師がいたためにそれほど苦労することはなかった。地上から持ってきたろうそくに火をつけて、ガラス瓶に入れたものを通路や壁に据え置いたのである。大風など滅多なことがない限り起こらない地下空間では《火》は灯りとして最適で、比較的安全であると言われ彼らの生活に欠かせない物の一つとなったのだった。
水、食料、火を得た彼らの生活は想像していたよりも豊かになった。理不尽な命をするものもいない、追手もなく、静かで平穏な日々がしばらく続いた。しかし、突然事件は起こる。逃げた魔導師たちの行方を追ってきた暗殺者によってコバルティアの隠れ里が明らかになり、彼らが廻廊へと押し寄せて来たのである。魔導師たちは必死に応戦した。懸命な抵抗を嘲笑うように、暗殺者たちの猛攻は三日三晩と続いた。
三日目の夜、一向に引かない魔導師たちに痺れを切らした暗殺者たちが、とうとう廻廊に設置されていた無数のガラス瓶を叩き割り始めた。瓶には火が灯っており無数の火の粉が岩壁に飛び散る。それらが偶然、岩壁にむき出しになっていた鉱石に燃え移ってしまったのである。燃え盛る火を前に魔導師たちは退避するしか術はなかった。この火災では到底生き延びることなどできまいと思ってか、暗殺者たちは早々に引き上げていた。残されたコバルティアの魔導師たちは、廻廊と階層の間に頑丈な扉をこしらえ火の勢いが衰えるのをひたすら待つより他なかった。
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