第40話 エピローグ
「おい太陽。放課後ゲーセン行こうぜゲーセン。ツイッターで知り合った女の子が友達連れてくるって言ってたから頭数いるんだよ」
5月23日
あれから約3週間、例えるなら世にも奇妙な物語(バッドエンド系)、もしくは笑うセェるすマンのような体験をした俺は、修正されずに終わった自分の運命を嘆くことなく今日も元気に生きている。
「お前彼女できなかったっけ。UFOキャッチャーがきっかけで?」
「……何のことか忘れたな」
その一言で全てを悟ってしまった。
まあ、あの時の電話もあるし。
こいつのことだ、きっと下半身がアクセラレイションしたんだろうな。
性的に常にバグっているからな、こいつは。
そりゃ振られるわ。
「ゲーセンか……どうするかな、中間テストも近いし」
「いいじゃんいいじゃん。テスト前にパーッと息抜きってことで! 他にも色々誘ってさあ」
「女子、ねぇ……」
「何だ太陽テンション低いな、そんなんじゃモテねえぞ。ただでさえお前は彼女イナイ歴17年の記録ホルダーで魔法使い候補生なんだからよお、自分から積極的にガンガン行かないと手から炎出したり宙に浮いたり、瞬間移動したりするようになっちまうぞ」
「……もし本当にできるんなら、俺、彼女イナイ歴30年の童貞になってもいいかもな」
そんなことができれば大道芸人どころか一流のマジシャンにだってなれる。
アカシックレコードに書かれていた最悪の運命だけは回避できそうだ。
「おいおい……あまりにも童貞をこじらせすぎて悟っちまったのか? まだ悟るには早すぎるぜ。なんてったって俺たちはまだピッチピチの17歳。油がのった男子高校生なんだからよ」
微妙なピッチピチ具合だ。
油がのっているという表現はいかがなものだろうか。油ギッシュな中年を連想させる。
「だから行こうぜ。もしかしたら新たな出会いがあるかもしれねえだろ? 他の奴等も誘ってさあ。もちろん女子も。何なら俺が誘ってやるから……いや、むしろ俺に誘わせてください!」
塚本はそう言うが早いか、飯を食っている俺たちの席から立ち上がると、真っ先に女子の下へと駆け出した。
初めに八舞さんたちが飯を食べている一角に特攻をかけるとは無謀とさげすむべきだろうか?
それとも勇気と賞賛するべきだろうか?
多分前者だ。あいつは自分よりはるかに強大な敵に挑むノミと同じように、本能で動いており恐怖を理解していない。
「ねえ、茂手くん」
塚本が特攻してしまったので誰も話す人がおらず、外を見てボーッとしながら飯を食っていた俺の近くにいつのまにか八舞さんが。
モテ電が壊れて、あのときの記憶がないので俺の呼び方も元に戻っている。
もちろんアクセラレイションからも解放され、普段の、いつもどおりの、俺が好きだった、好きになった彼女にもう戻っている。
「今、塚本くんが遊びに誘ってきたんだけど、それってあなたも行くの?」
「ああ、振られた友達につきあってやるのも友達の義務だしさ」
あの日、俺の部屋の前で包丁を握り締めて倒れた彼女を居間のソファに寝かせ、目が覚めるまで介抱した。
目が覚めた後、俺は彼女に「近所で倒れていたのを発見したから連れて帰った。大丈夫、何もしていないから! マジで! 嘘じゃないぞ!?」という嘘をついて誤魔化し家に帰した。
彼女が家を出るとき家族についた嘘とは矛盾が生じてしまったが、どうやらうまくいった様子。
その後彼女からあのことについて追求されることはなかった。
「ふーん……じゃあ、私も行こうかな」
まるで俺に気があるかのようなことを言って参加を決めた彼女。
ヴォイドが運命に巣食っているため、そんなことはありえないというのはわかっているが、何となくだが嬉しくなってしまうのは男の性というヤツだろうな。
「用件はそれだけ。じゃあねっ」
それだけ告げると彼女は友達の元に戻った。
友達と一緒に俺のほうを見て何か話しているのは、きっとあの時のことを聞かれているんじゃないかと思う。
――うん、『じゃあね』八舞さん。
俺は心の中で彼女に別れを告げたあと再び外を、空を見る。
空を見ながら思うことは「キズナは助かったのか?」。
八舞さんをソファの上に寝かせた後、すぐに仲間の天使が家に来訪し、彼女を連れ去っていってしまい、あいつがどうなったのか俺にはわからない。
返しそびれた通信機兼発信機で、何度もキズナに呼びかけたのだが何も返ってはこなかった。
キズナは無事なのだろうか?
何もしていないとそのことだけを考えてしまう。
「太陽おおおぉぉぉおおおっっっ! 喜べ! 他に四人と約束をとりつけてきたぞ! しかもそのうち三人は女子だああぁぁぁっっ!」
塚本が戻ってきた。しかも意外な戦果を引っさげて。
とりあえず今日の放課後は心配事からは解放されそうだ。
☆
そして放課後。
家に一旦帰ることもなく、塚本が別れたばかりの彼女と付き合うきっかけにもなった隣街のゲーセンへと繰り出す。
他の4人はそれぞれ寄りたいところがあるとのことなので、俺と塚本だけ先に来ている。
こりゃブッチされる可能性大だな。
「ジュースでも買ってくるけど、太陽はなんか飲むか?」
「ああ、俺コーラを頼む」
150円、ペットボトル一本分の金額を投げて渡す。
塚本は見事にキャッチ、自販機コーナーへと消えていった。
さて、これで少しの間は一人ってわけだ。
楽しくなる時間に暗いことを考えるのはご法度。
俺はよりかかっていたUFOキャッチャーにワンコイン投入し集中する。
アームを巧みに動かし、「よし! ここだ!」と思ったジャストな位置まで移動させた思った瞬間、
「お待たせっ!」
背後で大きな声がしてわずかにタイミングがズレた。
当然景品は出てこない。
「おい! 人がUFOキャッチャーしている時に背後から大声……は……」
背後にいたのは塚本でも、他の参加メンバーでもなかった。
見慣れない制服を着た、このあたりでは見慣れない容姿をした金髪の女の子だった。
「ごめんごめん。久しぶりに会えたから嬉しくてつい……」
はにかみながら人差し指で軽く頬をかく。
「馬鹿野朗……無事なら無事ってもっと……もっと早……く」
「そうしたかったのは山々なんだけどね。しばらく面会謝絶状態でさ、無理言って職場復帰できたのが昨日なんだ。ごめんね……連絡が遅くなって。心配した?」
「したに決まっているだろう!」
キズナの両肩を掴み怒鳴る。
店中の視線がこちらへ向く。
触れているのに俺の声が聞こえているということは、ステルスモードは切っているのだろう。
だがそんなことはどうでもいい!
「良かった……連絡がないから助からなかったのかと思ってた……。そうか、無事だったのか。本当に……良かった」
「泣くなよ。男だろ?」
「いいんだよ。男だって嬉しいときは泣いたっていいんだ……今みたいな嬉しいときは」
溢れる涙が止まらなかった。
絆がそれを見かねてハンカチを貸してくれた。
そのハンカチで涙を拭いていたとき塚本が戻ってきてキズナを見る。
「何の騒ぎかと思って来てみれば……おい太陽、この金髪のものすごいかわいい子、お前の知り合いなのか?」
俺の腹を軽く肘でつつきつつ尋ねる塚本。
視線はキズナのおっぱいにロックオンしている。
……まあ、たしかにデカいもんな。気持ちはわかる。
でもデリカシーないから止めろ。
「塚本」
「ん?」
「今日のメンバー、一人追加な」
――FIN――
彼女が欲しい俺の願いをかなえるために天使が降りてきたけど、果たして俺はリア充になることは可能なのだろうか? 塀流 通留 @HeinagareT
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